第385話 最年少男爵ですが何か?

 新学期二日目。


 二年生校舎では、朝からとある噂が急速に広まっていた。


 二年生の間で一年生の噂が広まるのは異例だろう。


 それほどの衝撃を生徒の間に与えたのだ。


「いきなり男爵位を叙爵された一年生がいるらしいよ」


「聞いた!何でも入学試験でも断トツの一位だったらしいね」


「そして何よりその一年生のスキルが──」



 王女クラスの教室、左隅っこグループ内でも、その噂を耳にしてランスが一同の前でその情報を公開した。


「「「勇者スキルの持ち主!?」」」


 リューをはじめ、左隅っこグループのほとんどが、驚いた。


 その中ではリーンと王女リズだけは平静だ。


 リーンの場合、興味が無いだけだろうが、王女リズは知っていたはずだから、驚かなかったようだ。


「聞いた話だと、試験会場での生徒の能力鑑定確認の時に発覚したらしいぜ?本人も勇者スキルを持っているとは思っていなかったらしい」


 ランスが、仕入れた情報をみんなに提供する。


「普通、六歳の洗礼の儀でわかるはずでは?」


 ナジンが当然の疑問をした。


「それが、どうやら後天的に目覚めたスキルらしいぜ。元々持っていた他のスキル以上にこの数年、能力がずば抜けてきたものだから鑑定結果を聞いて妙に納得していたらしいけどな」


「後天的に目覚めるなんてあるんだね?」


 リューも興味を惹かれてランスに質問した。


「ほとんどあり得ない事だけどな。特殊なスキルの中には表示はされないけど、条件を満たす事で現れるものもあるらしい。それが今回勇者スキルだったんだと。あ、歳はリュー達と同じ十三歳らしいぜ」


 情報通のランスはやけに詳しい。


 情報元は父ボジーン男爵だろうか?


「それにしても、その勇者スキルの持ち主が、何で主と同じ男爵位持ちなんですか?」


 リューの護衛役であるスードが少し不満げに聞く。


 リューはその功績から順序を経て男爵まで昇りつめているから、いきなり男爵位に叙爵された勇者スキル持ちには反感を持ったようだ。


「それはこの国の法があるからさ」


 元公爵家の嫡男であったイバルが、ランスに代わって代弁し始めた。


「この国には勇者スキルを持つ者が平民に誕生したら、その家、もしくはその者に爵位、基本的には男爵までの地位を授ける事になっているんだ。それくらい勇者スキルが貴重だという事さ」


「そう、それ。うちの親父もそれっぽい事言ってた。入学までこの情報は秘匿扱いされていたみたいだけど、入学式の時点で発表されて、一年生の間では大騒ぎだったみたいだぜ」


 ランスが、イバルから引き継いでまた、話し始めた。


「王家の間でも昨日までは口外厳禁だったからみんなには話せなかったの、ごめんね」


 沈黙を守っていた王女リズが、初めて口を開いた。


「ああ、だから昨日、何か言いたそうにしてたんだね?」


 リューは、始業式の時点で王女リズの変化に気づいていたようだ。


「え?そうなの?私でも気づかなかったのに」


 リズの変化に気づけなかったリーンがリューの言葉に悔しそうに言う。


「……私も気づかなかった」


 シズも親友の変化に気づけなかったと残念そうだ。


「それにしても勇者かぁ。凄い後輩が出て来たね」


 リューは他人ごとのように楽しそうだ。


「……って、リュー。お前、いつの間に、準男爵から男爵に昇爵したんだよ!」


 ランスが、先程スードが漏らした言葉にようやく触れられるとばかりに口を挟んだ。


「え?ランスは知らなかったっけ?」


 リューはキョトンとする。


「昨日話したのは、ランスが帰った後よ」


 リーンがリューに指摘する。


「なんだよ!俺が帰った後、そんな大事な話してたのか!?」


 ランスが不満を露わにブーブーと愚痴を漏らすのであった。


「僕が昇爵したの数日前だからね?という事は、その勇者君の方が先に男爵へ昇爵したみたいだから、最年少はあっちだね」


 リューは勇者スキルを持つ一年生の方が、凄いとばかりに指摘する。


「もう、リューったら。あっちはスキルのお陰で苦労知らずで叙爵。あなたはちゃんと功績を残しての昇爵なんだから誇りなさいよ」


 リーンは自分の爵位に拘らないリューを注意するのであった。


「でも、その勇者君は試験も断トツで一位取っているわけだから、能力的にも優れているって事でしょ?十分凄いじゃん。勇者スキルが発覚したのが、試験での鑑定なわけだから、勇者スキルに驕らず努力していたという事では?」


 リューは大事な事を指摘した。


 そう、スキルだけで試験には合格できないはずである。


 本人の努力があってこそのはずだ。


「……その事だが。勇者スキルは当然ながら特殊でな。他のスキルに比べると当然段違いなんだ。勉強にしても一を習えば十を理解すると言われているし、能力もスキルで飛躍的に上がるからあまり苦労せずに人並み以上になんでもやれる。それが勇者のスキルなんだ」


 イバルが、ぶっ壊れ性能である勇者スキルについて説明した。


「リュー達と同じ歳という事は、一年前はこの学校を受験できる学力がなかったって事じゃないか?きっと勇者スキルに目覚めたのはこの一年の間かもしれないな」


 ナジンが鋭い指摘をする。


「鋭いけど惜しい!──どうやら二年近く前からその勇者様は自分の変化には気づいてたみたいだぜ?それから地元で一躍有名になり、今年、地元の領主に推薦されて受験したんだと」


 ランスが、ナジンの考察を褒めつつ、事実を伝えた。


 リューはそれらを聞きながら、一つ思い当たる節があった。


 それは妹ハンナの事である。


 友人であるみんなにも伝えていないが、妹ハンナは賢者のスキルを持っている。


 そのハンナも天才的な能力を有しているから、みんなから聞く勇者と同じタイプなのだろう。


 ハンナはそれに加えて『天衣無縫』という特殊スキルも持つ。


 うちの妹もその勇者に負けていないはず!


 と、みんなの思う事とは違う事で考えを巡らすリューであった。

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