第384話 日常業務ですが何か?
始業式の帰り道。
シズとナジンが昇爵の経緯について説明を聞く為にリューの馬車に乗り込んで来ようとした。
「いや、明日にでも説明するから、今日は帰ろう?──じゃあ、またね!」
リューは、二人を押し留めると馬車の扉を閉め、リーンと二人帰っていくのであった。
「今日はどうするの?ランドマークビルの自宅からマイスタの街に移動する?」
リーンは馬車内で今日の予定を確認する。
「そうだね。家から『次元回廊』でマイスタの街に行って、商会本部に顔を出し、マッドサインに馬車の乗り心地の報告しておきたいかな」
リューは座席をポンポンと叩くと、今日初めての試乗馬車について触れた。
「朝にも思ったけど、スピードが格段に速くなってるわよね?これどういう仕組み?」
リーンも座席をポンポンと叩くと種明かしをお願いした。
「パッと見、多分人力三輪車の駆動部分をこの馬車に積んだんだと思う。御者台の下に見慣れない箱が付いていたからね。そのお陰で馬は僕達を引く力をほとんど感じずに引っ張れるから馬本来のスピードで走れるんだけど、逆に早すぎてちょっと怖いかな。これは常時このスピードで走らせず、必要な時にだけ切り替えて使用できるようにした方がいいかも」
リューは、調整が必要そうだと指摘した。
「必要な時?」
「そう。例えば長い直線の街道とかはスピードを出してもいいけど、曲道が多い通りなんかはスピードが出ていると事故の危険が大きくなると思うから抑えて走らせるとかね。要はスピードを調節する仕組みを提案しておこうかなと」
「なるほどね。確かに曲道は危険かも。うちの御者はこういう試作馬車に乗り慣れているから大丈夫だけど、初めていきなりこれに乗った御者には危険かもしれないわ」
リーンも事故の可能性を示唆した。
「まあ、馬の負担にならなくなる事で、移動距離はさらに伸びるから長所もあるんだけどね。安全第一でいかないと。この試作馬車は免許制にしないと売り出すのは怖いなぁ」
「馬車の免許制?」
リーンは聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「うん。この馬車の操縦の仕方を勉強してもらって、筆記や実技の試験を行い、合格したら操縦していいですよ、っていう免許を与える形がいいかも。王都の警備隊とも要相談になるだろうけど、免許を提示して操縦を許可されている事を確認出来るし、無謀な操縦していると免許取り上げて操縦出来なくするとかね?」
「そこまでくると、王都の交通関連の法自体を変更するところから考えないといけないわよ?」
「やっぱりそうだよね?これは一度、『王家の騎士』の称号を利用して王宮に行ってこの試作馬車の件を偉い人に相談しようかな」
リューは話がややこしくなってきたと、頭を悩ませるのであった。
そんなこんなで頭を悩ませているとあっという間にランドマークビル前に到着していた。
「早くて便利なんだけどなぁ……」
リューは長所が十分に発揮できている事に満足しつつも、やはり商品化までの問題が山積みな事は変わらないと思うのであった。
試作馬車をマジック収納に回収して、自宅の五階に上がり帰宅すると、二人はそのまま『次元回廊』でマイスタの街の街長邸に移動した。
「わっ!?突然、若様の気配が現れるから怖いよ。これからはそんな感じでこっちにくるの?」
丁度、屋敷の玄関前を掃除していたメイドのアーサが珍しく『次元回廊』で現れた二人に驚いて聞いてきた。
「あははっ!ごめんよ、アーサ。そうだね、時間短縮でこれからはこういう現れ方もする事になるよ。あ、馬車の用意をするように伝えてくれる?これから商会本部に行くから」
「わかったよ。──マーセナルさーん!若様が馬車でお出掛けするから用意してだって!」
アーサは街長邸の留守を預かり、室内にいるはずの執事のマーセナルに声を掛けた。
「若様、お帰りなさいませ。──アーサ、身内しかいないからとはいえ、そんな大きな声で呼ぶのは、はしたないですよ」
マーセナルがすぐ表に出て来た時には御者も脇に控えており、使用人が馬車を引いて来た。
さすが、仕事が早い。
そして、アーサは軽く説教される。
これはもう、日常茶飯事である。
アーサも礼儀についてはよくわかっていてお客がいる時は絶対こんな面は見せないのだが、誰もいないといつもの感じに戻る。
あとは、空気を読んで静かにもなるのだが、今日はオフモードのようだ。
リューとリーンは馬車に乗り込むと商会本部に向かうのであった。
商会本部では、ノストラがすぐに出迎えに出て来た。
「若、どうしたんだい?今日は始業式だったんだろう?」
ノストラは基本、他の者がいない時は口の利き方が砕けている。
アーサ同様使い分けしている感じだ。
「お疲れ様。マッドサインはいる?」
「今日も研究室にこもっているみたいだな。いつもの事さ。それにしてもうちの敷地内の広場をあいつの研究とやらでよく占拠されるから困るんだよ。若からちょっと注意しておいてくれ。俺じゃあ、あいつ聞く耳持たないからさ」
ノストラはマッドサインとは相性が悪いのか首を振ってお手上げの素振りを見せた。
「はははっ!わかった、僕から注意しておくよ。──そうだ、ランドマークビルの管理人のレンドがまた、ショウギ大会を企画していて出場するのか今朝、聞いてくれるように頼まれていたんだけど、どうする?」
「……また、出て良いのかい、若」
ノストラは大好きなショウギの事となると態度が変わる。
「出場するならレンドが、特別枠を用意するって言ってたよ」
「特別枠?」
興味をそそられた様でノストラが聞き返した。
「ノストラは強いからね。決勝リーグの席のひとつに前回優勝者のノストラを無条件で入れたいらしいよ」
「決勝リーグ?」
「うん、その辺はまだ、詳しくは聞いてないけど参加する?」
「も、もちろん!よろしくお願いします!」
急に態度が礼儀正しくなるノストラであった。
その後、マッドサインの研究室を訪れたリューとリーンは、試作馬車についての改善点について話し合っていると、その日はすぐに日が暮れるのであった。
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