第378話 最年少記録ですが何か?

 リューとリーン、スードの三人は王宮の広場に『次元回廊』で戻って来た。


 そこにはリューが来る事を見越して念の為、近衛騎士が駐在していた。


 その近衛騎士が、


「ミナトミュラー準男爵がお戻りになられました!」


 と待機していた使用人に伝えると、使用人は小走りにその場を去っていく。


 誰かを呼びに行ったようだ。


「あの……。僕達帰りたいのですが、駄目……、ですか?」


 何となく雰囲気を読んだリューは駄目元で近衛騎士に確認する。


「しばらくお待ちください。今、上司を呼びに行っておりますので」


「上司?……ああ、ヤーク子爵か……!」


 リューは合点がいった。


 ここは王宮内である。


 リューには今回、近衛騎士団は『次元回廊』でお世話にはなったものの、その出入り口をこのまま王宮内に置かれたままでは具合が悪い。


 近衛騎士団の隊長でもあり、今回の関係者でもあるヤーク子爵がリューに直接出入り口の消去の確認をしておこうという事だろう。


 しばらくすると、案の定、ヤーク子爵がやって来た。


「ミナトミュラー準男爵、良く戻られた。今回の王女殿下の旅については改めて感謝する。そこでだが──」


「お疲れ様です。ヤーク子爵。あ、ここに作った『次元回廊』の出入り口についてですよね?僕も、使えないところに出入り口を残す程馬鹿ではないので、すでに閉じました。ご安心ください」


「そうか。それは良かった。こちらも警備上確認を取らないといけなかったのでな。理解してくれていて助かる。──その上でだが、いましばらく待ってもらえるか?」


「?」


 リューはまだ、待たされる理由がわからず、リーン、スードと一緒に首を傾げた。


 そこに、今度は官吏が駆け付けた。


「──ヤーク子爵、確認されましたか?」


 官吏は次元回廊についての確認をする。


「ああ、確認済みだ」


「──わかりました。──ミナトミュラー準男爵、今回の貴殿の功績について国王陛下は大いに満足されました。さらには王女殿下、マカセリン伯爵、ヤーク子爵、同行した官吏一同の推薦によりミナトミュラー男爵への昇爵を内定致しました。寄り親であるランドマーク伯爵への確認も必要ですが、それについてはミナトミュラー殿からご確認頂けると幸いです」


「「えー!?」」


 リューとリーンは当分の昇爵はないと思っていたので、不意打ち気味な事もあって大いに驚くのであった。


 推薦者がそうそうたる顔ぶれだから、これは断るわけにはいかないだろう。


 リューは官吏に待ってもらい、ランドマーク本領の父ファーザの元に確認を取りに『次元回廊』で戻ると、「そういう事なら仕方がない。早く戻って昇爵してもらえ」と簡単にOKが出た。


 リューは父ファーザに急かされて戻るのであった。


「こちらが、証明書となります」


 待っていた官吏はそう言うと、戻って来たリューに跪くように促す。


 国王の署名がされた証明書である、受け取り方にも礼儀があるのだ。


「ははぁー!」


 リューは急いで跪き官吏から男爵への昇爵を任命されるのであった。


 そこへ今度はマカセリン伯爵がやってきた。


「あっちから戻ったか、ミナトミュラー準男爵。いや、官吏がいるところを見るとすでに男爵か?わははっ!──今後も陛下と王家の為に励めよ。昇爵おめでとう。王女殿下と同じ十三歳か……、それで男爵とは近年でもわずか二人目だ、良かったな!」


「……ありがとうございます、マカセリン伯爵。──うん?……二人目ですか?準男爵になった時は僕が最年少だと言われていたのですが?」


「ああ、儂も驚いたのだが、我々が王都を留守にしている間にどうやら優秀な若者が彗星の如く現れたらしくてな。その者がいきなり男爵位を賜ったようだ」


 王都には王女一行に同行している間も実はランドマーク本領、王都のランドマークビル、そして旅先の宿屋の自室を行き来していたので王都の情報も多少は入れていたのだが、そんな情報は耳にしていない。


 世間ではまだ知られていない情報という事だろうか?


 だからリューはマカセリン伯爵の情報を不思議に思った。


「いつも冷静な王女殿下も驚いていた情報だからな。さすがのお主も驚いたか?まだ、この情報は表に出ていないからそなたらは誰にも漏らさないでくれよ?」


 マカセリン伯爵はリューの反応を驚いたと勘違いして口止めをした。


「私も詳しくは知らされていないのだが、数日後の王立学園の新入生らしい。ミナトミュラー新男爵の後輩になるようだ」


 ヤーク子爵は少しリューよりも先に男爵位を得た若者へ不満そうにリューに知らせた。


「ヤーク子爵。王国の法に準じての叙爵だから不満を表に出してくれるな。確かにミナトミュラー男爵の様に一から功績を積んで男爵位を得たわけではないから、儂もあまり納得はいっていないがな」


 マカセリン伯爵はヤーク子爵の表情から察して注意した。


「?増々何が何やらわからないのですが、それだけ凄い生徒が僕達の後輩として学校に来るという事ですね?」


 リューは、改めて確認を取った。


「そういうことだ。まぁ、あとは新学期を楽しみにしておくとよい。きっと沢山の人々を驚かせる事になるだろうからな」


 マカセリン伯爵は意味ありげに答えるとその場から去っていくのであった。


「……そういう事だそうだ。まぁ、私はミナトミュラー男爵の方を評価しているからな。新参者のスキルのみで爵位を得た者など貴殿の努力に比べたら大した事は無いと思うぞ。それではな」


 ヤーク子爵も意味ありげにリューを励ます様に言うと傍にいた近衛騎士にリュー達を外まで案内する様に命じてその場を後にするのであった。


「……何なのかしら?リューと同じ男爵位持ち。それも新入生という事はリューの最年少記録を塗り替えたという事でしょ?──気に入らないわね」


 リーンはどこまでいってもリュー贔屓である。


 マカセリン伯爵達の意味ありげな情報だけの判断しかできないが、不愉快になるのであった。


「それにしてもいきなり男爵位を叙爵されるとは世の中には主のような若くて凄い人物が他にもいるのですね……」


 スードも少しの情報だけであるが、後輩としてやってくるらしい謎の新入生に驚くのであった。


「そうだね。世の中は広いという事だよ。まぁ、僕が最年少ではなくなっても別にそれは構わないけど」


 リューにとってそんな事より、ランドマーク家の繁栄が一番であったから、逆に自分がランドマーク家以上に目立たないのであればそれで良いのであった。

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