第379話 宝物ですが何か?

 王宮の広場の一角で慌ただしく男爵に昇爵されたリューであったが、その翌日。


 ランドマークビルには王家より使者が訪れていた。


 それは与力であるミナトミュラー男爵の貢献は大いに素晴らしいものであるから、その寄り親であるランドマーク伯爵家にも褒美を取らせるというものであった。


 丁度、ランドマークビルを訪れていた父ファーザは、表の路上で突然馬車で横付けしてやって来た使者に驚くのであったが、五階の王都自宅に迎えて続きを聞く事にした。


 使者は後から続いてやって来たもう一人の従者に何やら布に包まれた長い木箱を父ファーザの前に差し出した。


「こ、これは?」


 父ファーザもこういうものは受け取った事がない為、困惑した。


 傍にいるリューとリーンは今から何が起きるのかとワクワクしながらこの一部始終を見守る。


「国王陛下よりランドマーク伯爵へ下賜された王家秘蔵の聖剣です」


「「「セイケン?」」」


 父ファーザは一瞬何を言われたかわからず、困惑した。


 リューとリーンもそれは一緒で、一緒に聞き返すのであった。


「聖なる剣、聖剣です。陛下は魔境の森に接し、日夜、その境を守り、『王家の騎士』の称号も与えているランドマーク伯爵家には聖剣が相応しいだろうと、秘蔵の品からこれをお選びになり、下賜される事を決定しました」


 使者はそういう言うと、纏った布を解いて木箱を出し、その蓋を開ける。


 中には柄に高そうな赤い宝石が嵌めてある立派な片手剣が収めてあった。


 それを使者は由来を告げてファーザに差し出した。


「名は、聖剣『国守雷切くにもりのらいきり』。王国建国当初、魔族との戦いの折に当時の勇者が使用して国を守ったと言われている由緒正しき代物です。大切になさって下さい」


「そのような大切なものを!?」


「当時の勇者は、十二振りの剣を使い分けていたそうなので、心配には及びませんよ。聖剣は王家秘蔵の品だけでも他に何本もあるそうです」


 使者は父ファーザの緊張の糸を解そうとしてか小声で耳打ちした。


「そうなのですか?──そういう事であれば、お受け致します……」


 父ファーザは恭しく頭を下げると聖剣を受け取るのであった。


 使者は頷くと肩の荷が下りたとばかりに、早々に馬車で帰っていくのであった。



「お父さん。ついにうちにも宝物庫の真ん中に置けるような立派なお宝がやって来たね!」


「う、うむ。……だが本当にいいのか?これは我が家には重すぎる気もするが……」


 父ファーザは無邪気に喜ぶリューとリーンを見て緊張が解れるのであったが、手にしている聖剣はずっしりと重い。


 その重さは剣の重みだけではないのはファーザにもよくわかる。


「お父さん、早速、抜いてみてよ!」


「そうよ、ファーザ君。聖剣よ?抜いてちゃんと確認しないと」


 リューとリーンは完全にこの状況を楽しんでいる。


 そもそも、息子リューの活躍でもらったものである。


 父親としては少し心苦しさもあるのであったが、当人達がそんな素振りも見せないのでファーザも気楽な気分になる。


「よし、抜くぞ?」


 父ファーザも楽しくなってきてニヤリと笑うと、少し勿体付けて鞘から剣を抜いてみせた。


 その剣身は白い波紋がうっすらとあり、そして何より微かにその剣身には静電気のようにバチバチと電気が走っていた。


「「「おお!」」」


 三人はその剣身に感嘆する。


「聖剣『国守雷切』というだけあって、これ魔剣だよね?」


 リューは知識でしか知らない初めてみる魔剣について父ファーザに確認した。


「そうだな。私もそんなに見た記憶は無いが、これは魔剣の類だ」


 父ファーザはその剣身の美しさに感心しながらリューに答えた。


「これが、魔剣なのね?私の村には魔弓があったけど全然違うわ」


 リーンも存在を知るどころか身近にあったようだ。


「これは本当に我が家の大切な宝だな。宝物庫に大事にしまわないといけない」


 父ファーザはそう言うと鞘に剣を収める。


「ねぇ、お父さん。ちょっとお願いがあるのだけど!」


 リューは目を輝かせて父ファーザを見てきた。


「駄目だ!」


 父ファーザはリューの輝く目に危険なものを感じて咄嗟に断った。


「ちょっと、お父さん。僕、まだ何も言ってないよ!」


「今、何か無茶を言おうとしただろう!さすがの私でもそれはわかったぞ!」


「……ほんのちょっとだけ。ほんのちょっと研究するだけだから!」


「……研究?」


 父ファーザは聖剣を庇うように持つと、リューの言葉に聞き返した。


「昔の聖剣の仕組みを知りたいんだよ。現在の魔剣って昔のものと比べると性能が格段に劣るのでしょ?その理由を研究したいんだ」


「……リュー。これは王家から下賜された貴重な物。それはわかっているな?」


「当然だよ。ランドマーク家の大切な宝物だよね」


「そう、我が家の宝物庫に直行して大切に保管しないといけないよな?」


「その前に僕に預けてくれない?」


 意外にリューは引く様子がない。


 父ファーザとしては我が家の神童であり、今のランドマーク家の発展の立役者であるリューの頼みは出来るだけこたえてやりたい気持ちが強いから、引かない息子に困るのであった。


「どのくらいだ?」


「うーん……。三か月くらい?」


 リューは少し考え込むとそう答える。


「……長いぞ。二、三日ならどうだ?」


 父ファーザは長期にわたり預けるのには慎重になった。


「それだと仕組みを調べる事も出来ないよ!せめて二か月!」


「……一週間ならどうだ?」


「それだと慎重に分解するだけで、仕組みを分析する前に終わっちゃうよ。一か月半!」


「……わかった、一か月だ。って今、分解と言ったか!?」


「大丈夫。うちには研究部門にそっち方面にも詳しい優秀な人材がいるから、一か月もあれば何とか結果を出してくれるはずだよ!」


 リューは最初から最大でも一か月と目途をつけていたのだろう。交渉する上で最初に吹っ掛けていたのだ。


「……本当に気を付けてくれよ?聖剣にもしもの事があったら、ランドマーク家の沽券に係わるからな」


 父ファーザは大きな溜息交じりにそう答えると、頼りになる息子に下賜されたばかりの聖剣『国守雷切』を渡すのであった。

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