第356話 規格外の人々ですが何か?

 セクナンの街に滞在していた王女一行は、シーダタン元準男爵をセクナンの街の街長に再任する決定をする事になった。


 王都より遣わされた使者がそれを伝えるとシーダタンは王家に忠誠を誓う事を宣言するのであった。


「これでようやく次の街にいけるね」


 リューは任命式の場で隣にいるリーンにそう漏らした。


「そうね。リズと私達は学校の休み期間の最中だから、これ以上、予定外の滞在は困るもの」


 リーンが言うのも仕方がない。


 リズは休み期間中だけのつもりで日程を組み、この南部に出来た新たな王家直轄領に王家の威光を知らしめる為に来ているのだ。


 リューの『次元回廊』頼みの日程ではあるが、同じ学校の学友としてリュー達も、同じ様に日程が延びるのは迷惑な事でしかないのであった。


 ようやく、新たな街長の任命も済み、こうして次の街、旧侯爵領第三の街であるサンダイの街に王女一行は出発する事になった。


 セクナンの街出発の朝は、新街長のシーダタンを始めとし、領民達が盛大に見送ってくれる事になった。


 領民にしてみれば、罪を着せられ貶められる寸前であったシーダタンを助け、それどころか街長に改めて推してくれたのが王女リズである。


 そのお陰で、領民が慕うシーダタンは再任された。


 領民にしたら、感謝以外に伝える言葉が無かったから、王女一行の見送りは当然であった。


 街長邸から街を出る城門までの主要道路は領民達が駆け付けて王女リズを最後にまたみようと詰め寄っていた。


「リズの人気は絶大だね」


 馬車に同乗しているランスと警護役のスードに楽しそうにリューは言った。


「そうだな。これでこの街に王家の威光は強く示せたから目的は果たせた」


 ランスが、王女の従者の一人として頷いて見せた。


「これも主の働きあってこそです」


 スードは立役者の一人であるリューを褒めた。


「それもリズの人柄あってこそだよ。これで他の王家の人物だったら、僕も動かなかったかもしれないし」


 リューは謙遜する。


「ここにリーンがいたら、『リズの為だもの!』とか言いそうだな!」


 ランスがリズの馬車に同乗しているリーンの代わりにそう代弁するのであった。


「はははっ!多分というか絶対言うね。リーンって友情に厚いところあるから」


 リューは笑って答えるのであった。


「そう言えば、いつの間にかリュー、王女殿下の事、『リズ』って呼んでるんだな」


 ランスが鋭い指摘をした。


「うん、そうだね。今回の旅ではリズとも距離が大分縮まった気がする。そのせいか、いつの間にかリズって呼んでたよ」


「俺もじゃあ、この機会にリズと呼ぶかな……、って出来ないか。──俺は今回、王女殿下の従者役にボジーン男爵家の代表として同行しているからな。さすがに俺までそう呼んだら、マカセリン伯爵に絶対怒られる」


「あはは……、確かにそれはあるかも」


 リューは今回の王女一行の総責任者として周囲に気を配っているマカセリン伯爵の立場を想像すると、従者が王女を愛称で呼び捨てにする現場を見過ごすわけにはいかないだろう、と納得するのであった。


「ヤーク子爵もそれは同じみたいですよ。ちなみに主が王女殿下をリズと呼ぶ事にも難色を示してましたから」


 この数日、ヤーク子爵と剣の稽古をしていたスードだから、この情報は正しいだろう。


「そっか……。僕も気を付けないとな。公式の場で言わないようにしないと」


 リューは苦笑すると同級生の呼び方に気を遣うのであった。


「でも、リーンはガンガン言ってないか?」


「リーンは英雄リンデスの娘だからなぁ。それに今回、リズと一緒に寝食を共にしてリズの話し相手になってるからね。大目に見てもらえているんだと思うよ」


「そうだった。リーンは英雄の娘だった。って、その娘がリューの従者というのも不思議な話だけどな。はははっ!」


 ランスはそれを指摘すると笑うのであった。


「リーンは自分の立ち位置についてそんなに拘らないというか、僕の従者である事を当然と思っているというか……、なんだろうね?」


 リューは話しながら自分とリーンの関係性について逆にランスに聞き返すのであった。


「いや、俺に聞き返すなよ! リューがわからない事、俺がわかるわけないだろう。──まぁ、リューも規格外だからなぁ。それに付き従うリーンもそう。王女殿下はもちろんの事、なんだかんだここにいない侯爵令嬢のシズや伯爵家の跡取りであるナジンも、元公爵家の嫡男だったイバルも、『聖騎士』スキル持ちのスードも規格外過ぎるんだよなぁ。──まともなの俺だけじゃないか!」


 ランスは隅っこグループの面々の名を上げて、自分以外まともな者がいないと指摘するのであった。


「ランスも十分とんでもないけどね?」


 リューははっきりとツッコミを入れる。


 なにしろ代々王家の側近として仕えるボジーン男爵家の嫡男である。


 ボジーン男爵家の特殊性から考えても規格外な貴族であるのは確かであった。


「俺は普通だって。貴族と言っても男爵だしなぁ。同じ男爵の三男だと思ってた友達の親はこの一年で伯爵にまで昇爵するわ、自身も準男爵に叙爵するわ、それと比べたら俺は平凡だって」


 確かにリューの一家と比べてしまうと、何やら平凡に聞こえなくもない。


「……そう言われると、うちの主はとんでもないですよね……」


 スードも今更のように、頷く。


「騙されるな、スード君。ボジーン男爵家はその気になれば王家を動かせるだけの信頼を勝ち取っている家だから! 僕達を闇に葬る事も可能だからね!?」


 リューはランスの家の特殊性をよく理解しているので、その怖さを指摘するのであった。


「おいおい、うちが背後で暗躍しているみたいな言い方止めろよ。うちの親父はそんな気は起こさない忠誠心の塊みたいな人だからな。万に一つもありえないさ」


 ランスは父親の事をよく理解しているのだろう、そして、尊敬している事が伝わってくる言い方であった。


「はははっ。まぁ、みんな規格外なところがあるって事さ。──今回、イバル君は別行動だけど、シズとナジン君も誘えば良かったなぁ」


 リューがそう口にする。


「おいおい、一応、王家の威光を示す旅なんだからな? 隅っこグループの旅行企画じゃないんだぜ? あははっ!」


 ランスはそう指摘すると大笑いするのであった。

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