第355話 続・称号ですが何か?
リューは、『次元回廊』を使って、ランドマーク本領の自宅の前に戻って来た。
丁度、表の掃除をしていたメイドの目の前に出て来た為、「きゃっ! ──リュー坊ちゃん、驚かせないで下さい!」と、怒られたので謝った。
「ごめん、ごめん。あ、お父さんいる?」
「ファーザ様なら、今、領兵を率いて魔境の森に出掛けています」
「魔境の森に? 何かあったの?」
「はい、カミーザ様からの知らせで、魔境の森に強力な魔物が出たそうです」
「そうなの!? で、大丈夫そうなの?」
「はい、ファーザ様達はその魔物の遺骸を回収する為に向かわれたそうなので」
「それなら良かった。じゃあ、タウロお兄ちゃんは?」
「タウロ様ならファーザ様の代わりに執務室に入って書類仕事をなされてる最中かと思います」
「わかった、ありがとう」
リューはメイドにお礼を言うと執務室に向かうのであった。
執務室では、タウロが書類の山と格闘していた。
傍にはセバスチャン、そして、シーマが手伝っている。
「え、リュー!? どうしたの?」
タウロは先日、王女一行を見送って家まで戻って来たばかりなので、リューが現れた事に驚いた。
「ただいま、お兄ちゃん。ちょっと、国王陛下からお使いを頼まれてこっちに戻って来たんだ」
リューは、気軽な感じで言うのであったが、タウロにしてみたら大事である。
それに、リューの『次元回廊』の条件についても知っているから、戸惑った。
「こ、国王陛下からのお使い!? それに出入り口の設置は大丈夫なのかい? 王都に戻れなくなるんじゃないの?」
タウロはリューを心配した。
「大丈夫だよ、最近、出入り口を複数設置できるようになったんだ。でも、複数設置できる事は内緒でね。それが知られると脅威に感じる人も出てくるだろうし」
リューが、ひた隠しにする理由がこれであった。
能力については、今回の件もあって『次元回廊』については公然の事実として知られる事になってしまった。
だが、出入り口の設置が限られている為、リューの能力を都合よく利用しようとする者はまだいないが、複数設置が可能になった事を知ったら、利用しようとする者は増えるだろうし、中にはリューを脅威に感じる者も現れるかもしれない。
だからこそ、秘密にしたいのだ。
「……そうだね。もちろん内緒にしておくよ。それで国王陛下からのお使いって?」
タウロが確認する。
「この度、ランドマーク伯爵家、および、ミナトミュラー家は国王陛下により、『王家の騎士』の称号を与えられることになったよ。この事により、陛下が元気な間は王宮への出入りが自由になるし、さらにはランドマーク家の紋章と一緒に王家の紋章も掲げる事が許されるようになったから」
「「「えー!?」」」
その場にいたタウロ、そして、いつも冷静なセバスチャン、そして、それを実践しようとしているシーマはリューの言葉に驚きの声を上げた。
「りゅ、リュー! その意味わかっている?」
タウロは、簡単に言うリューに確認した。
「名誉な事だよね?」
リューは、嬉しそうに答える。
「もちろん、名誉だけど、王家の紋章を一緒に掲げる事が許されるという事は、そのランドマーク家に対して弓を引くものは王家を敵に回す事になるという事だよ? つまりランドマーク家の背後には常に王家があるという事になるんだ」
「その通りです。もちろん、王家の危機には誰よりも早く王家の元に駆け付け剣となり、盾となる事を求められますが、国内でランドマーク伯爵家の敵は王家の敵にもなるという事に……」
セバスチャンが驚きの声を出した事が恥ずかしかったのか、ちょっと頬を赤らめて咳払いすると、冷静を取り戻すように説明した。
「マジ半端ないっす……」
シーマはタウロと祖父セバスチャンに言いたい事を言われたので感想だけ漏らした。
「あ、そこまで考えてなかった……。そうか、そういう事にもなるのか……」
リューは、兄と執事の説明でやっと、『王家の騎士』の意味について実感するのであった。
「早くお父さんにも知らせないといけないけど、多分すぐ戻って来るかな……。シーマ、一応、お父さんを呼びに行ってくれるかい?」
「わかりました。呼んでくるっす!」
シーマは、そう言うと、一礼して部屋を出て駆けていった。
「それじゃあ、これが国王陛下からの書状ね」
リューは兄タウロに王家の印で封をされた書状を渡そうとした。
すると、タウロは慌てて席から立ち上がるとリューの元にいき、跪き受け取る。
「リュー、陛下からの書状は大事に扱わないといけないよ」
タウロはリューの手から書状を受け取った後で、そう注意した。
「ごめんなさい……」
「うん、それじゃあ、リューは王女殿下の元に戻りな。『王家の騎士』として王女殿下もお守りしなよ」
タウロはリューの反省する姿を確認すると進言する。
「うん、わかった。じゃあ、戻るよ」
リューは、そう答えて『次元回廊』を開くと、タウロに手を振って、次の瞬間消えるのであった。
「『王家の騎士』……か。我が家はとんでもない称号を頂いちゃったな」
長男タウロはその重責に溜息を吐く。
「あとは当主であるファーザ様のご判断ですが、王家の紋章についてはあえて掲げないでおくというのも選択肢かと思います」
セバスチャンが、次代の当主に進言した。
「確かに……。その選択肢もあるね。お父さんにはそう提案しておこう」
タウロは苦笑するとセバスチャンの案に頷くのであった。
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