第354話 称号ですが何か?
王宮の広場に緊張が走った。
その場にいた近衛騎士、たまたま居合わせた庭師にメイド、そしてリューに知らせに来た官吏もその場に跪き、首を垂れる。
国王と宰相は広場にいたリューを見つけると歩み寄り、国王が声を掛けた。
「ミナトミュラー準男爵よ、エリザベスの使い、ご苦労であった。面を上げよ」
「はい」
リューは短くそう答えると、顔を上げた。
「今回の王家直轄領での件、またしてもミナトミュラー準男爵が活躍したとエリザベスの手紙で知って、礼を言っておこうと思ってな」
「勿体なきお言葉です」
リューは、そう答えると、恭しくまた頭を下げる。
「よいよい。派遣した代官の不手際だが、エリザベスとお主の立ち回りによってうまく収め、王家の名も失墜せずに済んだようだ。それどころかエリザベスの評判が良いという報告もマカセリン伯爵の手紙で知っておる。おかげで遠く離れた南部にも改めて王家の威光が示せたようだ。そこでだ、ミナトミュラー準男爵。褒美として、お主、何か欲しいものはあるか? 爵位でもよいし、お金、土地、望むものを申してみよ」
国王自らのこの評価はかなり凄い事だろう。
王宮内広場という非公式の場ではあるが、宰相という証人がいる場での発言だから、本当に望むものが与えられるのかもしれない。
「僭越ながら、僕はランドマーク伯爵家の与力の立場です。僕の手柄は寄り親であるランドマーク伯爵家に寄与するものであり、そして、そのランドマーク伯爵家は王家に忠義を誓っております。ですから、その王家の一員であるエリザベス王女殿下にお褒めの言葉を頂ければ幸いです」
「はははっ! うちの娘を褒めよ、とな? もちろん、エリザベス宛に書もしたためておいたから安心せよ。──そうよのう……。──宰相? 何か気の利いた褒美はないか?」
「──そうですな……、それではランドマーク伯爵家に『王家の騎士』の称号を与えてはいかがでしょうか? 陛下の代ではこの称号を与えている貴族はまだおりません」
「『王家の騎士』か……。確か、ただの名誉称号ではなかったか?」
国王が宰相の提案にピンとこないのか首をひねった。
「いえ、与えられた者は自家の家紋と一緒に王家の紋章を掲げる事が許され、王城への出入りも一定の自由が許される事になります。今回、ランドマーク伯爵と、このミナトミュラー準男爵にその栄誉を与え、王家との結び付きを強調する事が出来るようになれば、貴族としては非常に名誉な事かと」
「……ふむ。そうだな。ミナトミュラー準男爵は我が娘の学友でもある。王城に自由に出入り出来れば、それはそれで良い事だな」
「……あの、それはランドマーク商会の看板に王家御用達と掲げる様なものでしょうか?」
リューも初めて聞く『王家の騎士』という称号について確認した。
「王家御用達? ──わっはっはっ! 確かに、商人であればそんなところかもしれないな!その貴族版と考えて良いかもしれん」
国王はリューの疑問に余程面白かったのか満足したように頷いた。
「陛下、それでは、この場で、称号を与えるという事でよいですかな?」
宰相が、国王に確認する。
「うむ。授与式などは省いておこう。今は、エリザベスに同行して王家直轄領を巡っている最中だからな。ランドマーク伯爵にもすぐ伝えたいところだが、ミナトミュラー準男爵、その役目も頼むぞ。──誰か代筆せよ」
国王はすぐに側近に代筆させると、『王家の騎士』の称号を与える旨をしたためさせ、用意していた手紙と一緒にそれをリューに渡した。
「それではエリザベスを頼むぞ。──では宰相、仕事に戻るとするか」
国王は側近に自転車を用意させるとそれに跨り、軽やかに走って王宮内に消えていく。
宰相も自転車に跨るとその後を追っていくのであった。
行きと帰りのギャップに唖然とするリューであったが、官吏の一人が、自分も連れて行く様にお願いされたので、一緒に王女一行が待つ、セクナンの街に戻るのであった。
セクナンの街に戻ったリューは早速、国王より預かった手紙などの束を官吏と共に王女リズに渡した。
官吏から簡単な報告を受け、手紙や今回の処置についての事などを聞くと、
「……そうですか。ミナトミュラー君が『王家の騎士』に……。──これからも王家の為に励んで下さいね。私も王家の一員としてその忠誠に応えられるよう、より一層励みますから」
と王女リズはリューを前に約束するのであった。
リューは、王女がすぐに国王より遣わされた官吏と話し合いになり、そこにマカセリン伯爵も合流したので、自分は自分の役目を果たす為に、その場を離れる事にした。
「あ、リュー、お帰りなさい」
街長邸のリューにあてがわれた一室に戻ると、リーンが出迎えてくれた。
「また、勝手に人の部屋に入って寛いでいる」
リューは、リーンが部屋のカギを難なく開けて入ってきているのでそれを注意した。
「外でぼーっと待つわけにもいかないじゃない。リズやランスは忙しそうにしているし、スードはヤーク子爵と剣の稽古していたから暇だったのよ」
「だからって、勝手に鍵を開けて侵入していいことにはならないからね?」
リューは苦笑いすると、軽く注意する。
そして、続けた。
「これからお父さんのところに戻って、国王陛下からの書簡を渡してくるよ」
「ファーザ君のところに? 分かったわ。──あ、『次元回廊』の出入り口を増やせるようになったんだっけ? 何気に使うのほとんど初めてじゃない?」
「うん。今は誰にも内緒だからこれからも秘密にね」
リーンに軽く口止めすると、次の瞬間には『次元回廊』を使用して今度はランドマーク家に一瞬で戻るのであった。
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