第351話 交渉の為ですが何か?

 リューは立て籠もり犯達の言い分を聞くと、王女リズの元へ戻り、一部始終を伝えた。


 もちろん、人払いをしてからである。


 この話を聞いていたのは、王女リズ、マカセリン伯爵、ヤーク子爵、そして、リーンにスード、ランスであった。


 代官と名士であるコーザカは問題となっている当人という事で、外れてもらったのだが、当然理由は言わなかったので、多少不満そうではあった。


「……それでその立て籠もり犯の言う事を信じよと?」


 王女リズは、王家が立てた代官がそんな悪人を、街長に推薦したなどとは信じたくはないところである。


「殿下、理由はどうであれ、罪もない人々を人質にとって立て籠もり、自分達の要求を通そうなどとする輩に同情は禁物ですぞ。今は、人質の救出を優先すべきかと」


 マカセリン伯爵も王女を支持する様に、至極当然と思える提案をした。


 二人は犯罪を行使する相手に交渉の余地はないと判断した。


 ヤーク子爵は意見を言わないが、二人の意見に頷いているので賛成だろう。


「……ミナトミュラー君はどう考えますか?」


 王女リズがリューに意見を求めてきた。


 少しビックリであったが、リューは平静を装って答える。


「お二人の疑問、そして、犯罪に屈しない姿勢がもっともだと思います。今は、人質解放に向けて行動する事が第一。そこでですが、僕はその先任の街長、シーダタン元準男爵をここへ呼び、立て籠もり犯の説得をしてもらう事が一石三鳥かと思います」


「一石三鳥?」


 マカセリン伯爵はリューの意図するところがわからず聞き返した。


「まず、人質解放の優先、それにおけるシーダタン元準男爵の人柄の良し悪しの確認。それにあちらの主張通りなのかの事実確認も行えるかと思います。もし、相手の主張通りの場合、街長決定について変更するように陛下に具申する必要もありますし」


「しかし、ここは王都から遥か南部の王家直轄領。そう易々と王都に変更を促す事などできないぞ?」


 ヤーク子爵がここで初めて意見した。


「いえ、こちらにはミナトミュラー君がいます。ですから王都まではすぐに戻れます。そうですね?」


「はい、王女殿下。その為に僕はここまで同行しています」


「……わかりました。ミナトミュラー準男爵の意見を採用します。──代官を呼びなさい」


 傍で静かに待っていたランスが、王女の言葉に頷くと離れて待機している代官を呼んで連れてきた。


「何でしょうか、王女殿下」


 代官は蚊帳の外の扱いにされた事について、不満一つその表情に浮かべる事なく用件を聞いた。


「シーダタン元準男爵は今、どこにいますか?」


「シーダタン?ああ、先任の元準男爵の事でしょうか?その男ならコーザカ殿から聞いた話ですと、逃げない様にこの街に留めさせているそうですが?」


「逃げる?」


「はい。コーザカ殿曰く、『自分が街長に就任した時に、改めて街長時代の犯罪の数々を問うべくこの街に留めさせている』と聞いております」


「それは好都合です。すぐにそのシーダタンをここに連れて来なさい」


「わ、わかりました!コーザカ殿!シーダタンを王女殿下の元に連れて来てくれ。今回の件で殿下自らお裁きになるそうだ」


 代官はそう早とちりすると、コーザカに声を掛ける。


「承知しました!ここからは離れていない家に閉じ込めておりますので私自ら引っ立てて参りましょう」


 コーザカはそう告げると領兵数名を連れて向かおうとした。


「コーザカ殿、少しお待ちを。何かあるといけないので、僕もついて行きましょう」


 リューはそう言うとコーザカの後に続く。


「……わかりました。シーダタンは悪の権化のような男。狡猾でとても危険ですから気を付けて下さい」


 コーザカはそう答えるとただの子供にしか見えないリューを、怖がらせるように言い、同行を許可するのであった。


 そこにはもちろんリーンとスードも付いて来ようとする。


「あ、リーンは王女殿下に付いていてあげて。スード君は、待機」


「もう、仕方ないわね!でも、スードはリューの護衛役なんだから連れて行きなさいよ」


 リーンが、スードをおいて行く事に反対した。


「(あちらがどう出るか見たいから、待機で)」


 リューは意味ありげに誰にも聞かれない様に小声で答える。


「……わかったわ。それじゃあ、私とスードは待機ね?」


 リーンはリューの意図がわかったのか、スードには有無を言わせずに承諾した。


「──それではコーザカ殿、行きましょう!」


 リューはそう言って案内を促すと、コーザカの率いる領兵と共にシーダタンのいる家に向かうのであった。



 シーダタン元準男爵の軟禁されている屋敷は庭もある比較的広い家であったが、その周囲は領兵で固めてあり、外からの侵入も不可能そうな厳戒態勢ぶりであった。


「ここですが、会う前に注意点を。奴は隙あらば、あらゆる手段を講じて逃げ出そうとする口の達者な男です。腕も立つので決して油断なされませんよう……」


 コーザカはまたも、子供であるリューを怖がらせようとしてか大袈裟にアドバイスをしてきた。


「わかりました。それでは中に案内して下さい」


 リューはもちろん、怯える事なく堂々と家の前に立つ。


「……それでは。──領兵達、奴の元に案内せよ」


 領兵達はコーザカに命令されると目を見合わせて頷くと屋内に案内する。


 リューを先導する領兵一人、後から続く領兵二人、そのあとにコーザカという順で、中に入っていく。


「この扉の先がシーダタンの部屋になっています。どうぞ」


 領兵が、そう言うと扉を開ける。


 室内はまだ日があるのに薄暗い。


 どうやら窓がない部屋らしい。


 リューが中に入ると、背後の領兵が短剣を突き付けてきた。


「……動くなよ、お貴族様。少しでも動くとぶすりと行くぜ?」


 領兵が、リューに脅しをかけてきた。


「……コーザカ殿、これは一体どういう事ですか?」


「どうもこうも、あなたは連行しようとしたシーダタンに抵抗され、不運にも刺されてしまうことになります。私はそこで罪なき子供に危害を加えたシーダタンを始末する。そういう筋書きです。なんと不幸な出来事でしょうな」


「わー、それは大変だ」


 リューは、全然大変とは思えない棒セリフを口にする。


「……肝は据わっている様だな、小僧。──野郎共、縛り上げて庭に連れて行ってから始末しろ。ここで殺したら後々掃除が面倒だ」


 コーザカは本性を現した。


 どうやら、立て籠もり犯の主張は正しかったようだ。


 リューは、この家の厳重さからシーダタンもここにいるのは間違いなさそうだと判断すると、反撃する事にするのであった。

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