第345話 一方的ですが何か?

 相手は、四天王を名乗る四人が出てきたが、先鋒はサイジャではなかった。


 どうやら、四天王の中では最強らしく、一番あとの様だ。


 四天王の中では、サイジャ……く、ではないのね?


 リューは、内心ツッコむのであったが、こちらの一人目はスードである。


 道場側が、木剣を投げて寄越してきた。


「木剣ならそう簡単には死なないから安心しな。骨の1、2本は覚悟して貰うがな」


 師範代が残忍な笑みを浮かべて脅してきた。


 試合前に怖がらせて剣先を鈍らせようという魂胆だろう。


「主。この木剣、結構いいものなので当たりが悪いと死ぬ可能性もありますが、どうしましょうか?」


 スードが、師範代の脅しもどこ吹く風で無視すると、リューに質問して来た。


「あちらの言う通り、骨の1、2本で勘弁してあげて」


 リューが、師範代を真似する様にスードにアドバイスする。


「わかりました。手加減する事にします」


 スードが、この街一番の道場の四天王を前に、手加減宣言をしたのでツヨーソ流道場側は一気にお怒りモードになった。


「この野郎! うちの道場が最強の理由を教えてやる!」


 対戦相手の青年が、息巻きながらスードと対峙した。


「落ち着け、ヨン。──それでは……、これより他流試合を行う。誓約通り結果に応じて約束を違えないように。──それでは始め!」


 師範代が、審判として前に出ると、ヨンと呼ばれた青年は落ち着く様に深呼吸をすると、開始の合図とともにスードに襲い掛かった。


 スードは、開始直後の奇襲に眉一つ動かす事なく、ヨンの上段斬りを軽く木剣で受け流す。


 そして、次の瞬間、スードの木剣が目にも止まらない速さで数撃、ヨンに叩き込まれていた。


 ヨンは一瞬の攻撃に白目を剥いて失神するとその場に倒れ込む。


 利き腕はもちろんの事、アバラ辺りの骨が折れていそうだ。


「くそっ! あいつら、一番強い奴を最初に出してきやがったな! 卑怯だぞ!」


 四天王最強らしいサイジャがリュー達の戦略に難癖をつけだした。


「そう思うなら、スード君。勝ち抜き戦だけど、もう、下がってくれる?」


「もうですか?」


 ちょっと残念そうな表情をするスードであったが、主であるリューの言う事は絶対である。


 頷くと下がるのであった。


「一度下げた奴は、二回は出れないぞ!」


 サイジャは、これで勝ったとばかりに念を押してきた。


「じゃあ、次はランス君お願い」


 リューは、サイジャの相手をする事なく、二人目にランスを指名した。


「OK! じゃあ、俺は二人倒していいか?」


 スードの強さを目にして火が付いたのかランスがやる気満々であった。


「そうだね。リズにまで回さないつもりだからそれでお願い」


 リューが、そう口にすると、リズはちょっとがっかりする素振りを見せた。


 このイベントを楽しんでいる自分がいたのだ。


 もちろん、自分は王女だから、そういう扱いは仕方がないのだが。


 ランスの言う通り、二試合目は、ランスの豪剣がうなりを上げて、四天王の一人サンバの両腕を叩き折る結果になった。


 二戦続けて、自分のところの門下生が大怪我させられた事に、道場主である師範は、驚くと道場の奥に一旦戻り、ポーションを持ち出して門下生の治療にあたりはじめた。


 その光景を見て、師範代は残りの四天王二人に、


「二人共油断するな。こいつら口だけではないようだぞ!」


 と、今更ながら焦ってアドバイスをはじめるのであった。


「ほら、とっととやろうぜ。三人目出て来なよ」


「くっ! 舐めるなよ。最初の二人はサイジャと俺に比べれば、力量の差は歴然。そう簡単に負けると思うな!」


 と、違いを宣言したニジは、ランスの一閃で木剣をへし折られた上に、そのまま木剣が頭に叩き込まれ失神し、わずか一振りで敗北した。


「じゃあ、リーン。次をよろしく」


 リューはランスを引っ込めると、四天王最強を謳うサイジャにリーンをぶつける事にした。


「最初に強いのを持って来たから、ここで数合わせの女かよ。ここから俺が全員倒して勝ち抜いてやる!」


 サイジャは、エルフのリーンが弱いと決めつけて、立ち上がった。


 そういう事言うとリーンが怒るのに……。


 リューは、チラッとリーンを見ると意外に怒った様子がない。


 リズが、「リーンさん頑張って!」と応援していたからそれに応えていたようで、聞き逃したみたいだ。


 だが、試合が始まると、やはり、聞き逃したわけではなかった。


 サイジャが、鋭い攻撃をリーンに二度仕掛けたが、それをいとも簡単にかわすと、倍返しとばかりに無数の突きで体中を攻撃。


 サイジャは、あまりの激痛に立ったまま意識が飛ぶ寸前であったが、そこに、「自分の弱さを恥じなさい」と、リーンが告げると最後に額を突いて気絶させるのであった。


 だが、四天王と言っても師範クラスと比べれば四天王の門下生の剣技は児戯にも等しい。


 道場主と師範代はこそこそと何か話すと全く慌てていない様子だ。


「じゃあ、今度は僕が出るね」


「え? 本当にリューが大将じゃないの?」


 最初に大将はジーロとリューに指名されてはいたが、最後はやはりリューが道場主を相手にすると思っていたのでジーロは驚いた。


「最後はジーロお兄ちゃんに勝ってもらわないとね。見物人もこの多さだし」


 リューがそう言って、道場の外に増えてきた見物人達に視線を送った。


 スードが呼び込みを外で行っていたのだ。


 武闘派で知られる旧モンチャイの街である。


 見物人達は街一番のツヨーソ流道場側が負けている試合に息を呑んで見守っていた。


「だからこそ、リューが最後は締めると思ったのだけど……」


 ジーロはリューのやりたい事がよくわからなかったが、思惑があるようだと理解して道場主の相手をする事にしたのであった。


「……うちの四天王が敗れたのは想定外だったが、師範代である俺が、その小僧達三人を倒せばいい事。勝ち抜き戦にしたのは誤りだったな!」


 これだけの差を見せつけられても勝ちが揺るがないと考えているツヨーソ流剣術道場側であったが、それは見物人へのアピールでもあった。


 そう、これ以上道場の恥を晒すわけにはいかないのだ。


「じゃあ、僕が師範代のあなた。そして、うちの兄が道場主を倒して終わりにしましょう」


 リューが、そう宣言すると、子供の勝利宣言に見物人達も野次馬根性でやんやと煽るのであった。

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