第344話 道場破りですが何か?
リューを先頭にお忍びの王女リズ一行は、食後の運動をする為に、ツヨーソ流剣術道場に赴く事になった。
道場は街一番と言うだけあって、かなり大きく、広い敷地にあった。
自称四天王の青年が、道場に入ると、道場の中から、
「どうした?忘れ物でもしたか?」
という声が聞こえてきた。
「師範代!道場破りです!」
自称四天王の青年がそう告げると、師範代らしい大柄な道着の上を脱いだままの男が道場の奥から出て来た。
「どこの道場の連中だ?──うん?子供ばかりじゃないか。なんだその後ろの男二人がそうなのか?」
師範代は、背の高いヤーク子爵と長男タウロの二人を視界に捉えると鋭い眼光を向けた。
「四天王を名乗るこの方々が僕達に絡んできて、そちらの道場の名前を名乗ってきたので興味を持ち、押し掛けました。後ろの二人は見届け人だと思って下さい。僕達がそちらに挑むつもりです」
「何?──サイジャ、お前最近調子に乗っていると思っていたが、外でうちの道場の名を騙って悪さをしていたのか。だが、まぁ、いい。金持ちの道楽で勘違いしている奴をなぶるのは俺も嫌いじゃないからな。子供相手でもうちは容赦しないぞ?」
師範代は自称四天王の青年、サイジャを注意するでもなく、リュー達の格好を確認するとサイジャと同じタイプの人間らしくニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
「そちらもやる気十分みたいですね。では、道場主も呼んできて下さい。とっとと済ませて看板を頂きますから」
リューが前に出ると師範代の男に宣言した。
「くくくっ……!これだから金持ちのボンボンは困る。この街でうちの道場は最強クラス。それすらも知らずに自分が強いと勘違いしているとはな。師範を呼ぶまでも無いが、あとで難癖をつけられても面倒だ。呼んでおこう。──師範!道場破りだそうです!」
師範代が道場の奥に声を掛ける。
すると、まず、二人の道着姿の男が急いで現れ、その後からゆっくりと他の白い道着姿とは違い、黒の道着姿の髭を生やした男が現れた。
「珍しいな、うちに道場破りとは……。うん?これはまた、裕福そうな連中だ。言っておくが、死んでも知らんぞ。それにそちらが負けた時は、親元に多額の賠償金を払って貰う事になるが?」
道場主も師範代達と同じ穴のムジナの様で、リュー達の姿を見てお金がむしり取れると算段したようであった。
「話が早い。じゃあ、うちからは六人出すので、そちらも四天王と師範代、そして道場主である師範の六人でいいですね?」
リューが、提案する。
「子供だけだと?後ろの大人二人が相手でも私は一向に構わんぞ?」
余裕たっぷりに道場主である師範が木剣を軽く振りながら言った。
「それだと、後々言い訳の種にされても困るので、僕達子供だけで大丈夫です」
リューは完全にこの道場を潰す気の様だ。
四天王の態度もだったが、この道場は上も駄目だと判断してのことだ。
だが、急になぜ、リューがこんなにノリノリで道場破りをしようとするのかはわからない王女一行であった。
道場内でお互い並んだ両者は勝敗について確認した。
・勝ち抜き勝負。
・どちらかが試合続行不可能な状態になったら、決着。
・道場側が負けた場合、看板没収(実質上の道場取り潰し)。
・リュー達が負けた場合、親元から賠償金を支払って貰う。
「お互い恨みっこ無しで」
リューが念を押す。
「はははっ!いいだろう。そちらに死傷者が出るかもしれんが、挑んで来たのはそちら。逆恨みされても困るからな」
道場主は、余裕たっぷりに答えた。
お互い道場主と、王女リズが
王女リズは、リューと相手のやり取りを楽しんでいた。
何もかもが初めての事である。
これから何が起きるのだろうとワクワクしていた。
「それでは、初戦はうちからは誰を出そうか?」
リューが、メンバーである王女リズ、ジーロ、リーン、ランス、スードと円陣を組んで話し合う。
「主、先鋒は自分が行きます!」
名乗り出たのはスードだった。
スードも王女リズ同様、この状況を楽しんでいた。
ましてや、相手は南部の一支部とはいえ、全国に支部を持つツヨーソ流剣術道場が相手だ。
そんな相手と戦ってみたいというのが、正直な気持ちであった。
「じゃあ、先鋒はスード君でお願い」
「リュー。王女殿下をメンバーに入れているのは不味いよ」
次男ジーロが、もっともな意見をした。
長男タウロ、護衛のヤーク子爵もどうするつもりなのかとハラハラしてみている。
「王……、じゃない、リズ様まではもちろん回さないよ。ただし相手の道場主の相手はジーロお兄ちゃんがしてね?」
「ぼくが?リューがてっきり相手するのかと思っていたけど?」
ジーロが意外な顔をした。
円陣を組んでいる全員がそう思っていた様でみんなで頷いた。
「私は戦わなくていいのですか?一人くらいなら相手してもいいですよ?」
王女リズはやはりノリノリである。
「さすがに、リズ様に戦わせると、ヤーク子爵や俺があとでマカセリン伯爵に怒られるので勘弁してくれよ」
ランスが苦笑して止めた。
「そうですか……。わかりました。私はみなさんの応援に回りますね」
王女リズは本当に残念そうにしていたが、迷惑はかけられないと納得してくれた。
「いいかげん、もういいか?時間が勿体ないんだが?」
師範代が円陣を組むリュー達にしびれを切らして声を掛けてきた。
「ちょっとくらい待ちなさいよ!どうせ、すぐに終わるんだから!」
リーンが、こらえ性の無い師範代を注意する。
師範代は不機嫌な顔をしたが、言われる通り、試合はすぐ終わるだろう、自分達の圧倒的な勝利で、と思うと我慢する事にした。
「相手は三下(最下級のチンピラ)だけど、みんな徹底的にやるよ!えい、えい、おー!」
「「「おー!」」」
リューの掛け声に、みんなが合わせると気合を入れるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます