第343話 案内のはずですが何か?

 シーパラダインの街中を王女リズを伴って歩く一行。


 途中でお肉のいい香りをさせる露店があったので、そこでの買い食いをリューが提案した。


 リズもその提案に乗り気であった。


 何でも買い食いというものをした事がないのだとか。


 ランドマークビルにお忍びで出かけた時に、喫茶「ランドマーク」で他のお客と同じ様に食事をした経験だけでも新鮮だったそうだ。


「じゃあ、今の内に経験しておこう。王家直轄領に入ったらさすがに無理だろうし」


 リューの言葉に、リズもうずうずしているのが伝わって来た。


 友人であるリーンもそれに気づくと賛同した。


「じゃあ、買ってその辺でみんなで食べましょう」


 リューとリーン、リズとタウロ、ジーロにスード、ランスにリズの護衛役として同行しているヤーク子爵の八人は露店で謎のお肉の串焼きを買うと、噴水の傍に腰かけて味わう事にした。


「王……、じゃなかった。リズ様にこんなものを食べさせるなんて……」


 ヤーク子爵はぶつぶつ言いながら、串焼きをリューから受け取る。


「まぁまぁ、じゃあ、毒見とお手本を兼ねて僕から食べるね」


 リューは、リズがどう食べて良いのか戸惑っていたので、先に食べる事にした。


 はむっ。


 もぐもぐ。


「何のお肉かわからないけど……、付けてあるタレは甘辛くて美味しいし、お肉もちゃんと下処理されていて柔らかいよ」


 リューは、口の周りにタレを付けたまま笑顔で感想を漏らす。


「じゃあ、僕達も食べようか」


 長男タウロが音頭を取ると、みんなでその謎のお肉の串焼きを頬張った。


 リズもみんなの食べ方を真似してかぶりつく。


「!──王宮では食べた事がない味だわ。美味しいかも」


 リズが、意外な美味しさに思わず感想を漏らすとみんなも笑顔になる。


「買い食いの良さは、小腹がすいている時にすぐ食べられる事だよな!」


 ランスがリュー同様に滴るお肉の油とタレを口の周りに付けながら力説した。


「二人共リズがそれを真似したら駄目だから口拭きなさいよ」


 リーンが二人を注意する。


 そして、ヤーク子爵もまた、頬張って口を汚している一人であった。


 一行が、買い食いでひと時の時間を楽しんでいると、道着を着た一団がやって来た。


「どこかのお金持ちの坊ちゃん連中か? 一丁前に立派な剣を佩いて剣士気取りか? 護衛までついてやがる。──あんたらも大変だな。2人でガキ共のお守りとは」


 道着を着た一団の一人が、長男タウロとヤーク子爵を小馬鹿にした様に声を掛けた。


「何だとこの野郎!」


 ランスが、血の気のあるところを見せて道着の一団のリーダーっぽい男に噛みついた。


「何だガキ。図体ばかりでかいだけだろう? やるなら相手してやってもいいんだぜ? 言っとくが俺達はこのモンチャイの街(シーパラダインの街)では泣く子も黙るツヨーソ流剣術道場の門下生だ。俺はその道場で四天王の一角を担う男。骨の一本や二本は覚悟してもらう事になるぜ?」


 リーダーっぽい男は、何やら強そうな肩書きを出してきた。


「貴様ら、誰を相手に口を聞いていると──」


 近衛騎士でもあるヤーク子爵が、この失礼な一団相手に前に出ようとすると、リューがそれを制して前に出た。


「看板を名乗るという事は、その覚悟があるんですよね?」


 リューは、リーダーの男の前に立つとそう言い放った。


「覚悟? それはこっちの台詞だぜ。──なあ、みんな?」


「「「おう!」」」


 道着の一行はやる気十分だ。


「じゃあ、食後の運動に看板を一つ貰いに行きますか」


 リューが、ニヤリと笑う。


「……リュー。面倒事は駄目だよ?」


 長男タウロが、注意する。


「大丈夫だよお兄ちゃん。これだけ道場が沢山ある街なんだから、一つや二つ潰れた所で問題は無いって」


 リューは、やる気十分だ。


「何だとこのガキ! 言わせておけば!」


 道着を着た一団は、臨戦態勢だ。


「慌てないで。その、泣く子も黙るツヨーソ流剣術道場とやらで看板を懸けての試合をしてもらうから」


 リューがそういうと、リーンとランス、スードはやる気十分だ。


 長男タウロは次男ジーロと目を合わせて、王女リズを前に困惑している。


 そうなると最後は王女リズの判断であるが、その当人もちょっと楽しんでいた。


 リュー達がやる気十分なのを察して、見届けたいと思ったようで、ヤーク子爵に頷いている。


 ヤーク子爵は、溜息を吐きつつも、「それでは、貴様らの道場に案内せよ。そこで一番強い者と看板を掛けて試合しようではないか」と、自分が出るつもりでリーダーの男に試合を申し込んだ。


「か、看板だと!? ──さすがにそれは、俺達だけの判断では……」


 急にリーダーの男は委縮する。


「大丈夫だよ。ハンデでこちらはこの大人二人は試合には出さないから」


 リューが、長男タウロとヤーク子爵を指差して手を振った。


「舐めてるのか!? うちの道場にはこの街で最も強いと言われている総師範に、師範代、それに四天王の俺達がいるんだぞ!」


 四天王を名乗るリーダーの男は、リューを睨んで言い返す。


「そういうのはもういいから。とりあえず道場に行こう。すぐ終わらせて看板もらうよ」


 リューは自称四天王をおざなりに扱うと道場に案内する様に言った。


「くっ! ……知らないからな。総師範に同じセリフを言ったら殺されるかもしれないぞ!」


 自称四天王の男は、文句を言いながら道場に案内するのであった。

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