第342話 続・シーパラダインの街ですが何か?

 シーパラダインの街に到着した王女一行は、街長であるジーロの質素な歓待で出迎えられた。


 この辺りは、ジーロもあまり盛大にやって、主家より目立つわけにもいかなかったし、王女もあまりそれを望んでいないだろうという事で、この一行の総責任者であるマカセリン伯爵にも確認して控えめにしたのであった。


 簡単に終えた事に王女は安堵していた。


 多分この後、王家直轄領に入ったら盛大な歓迎式典が待っていると思っていたから、ジーロの配慮に好感を持つのであった。


 歓待が終わって王女リズが、用意された自室に一度戻ると、


「ミナトミュラー君の兄弟はみんな良い人ばかりね」


 と、今回ずっと話し相手として傍にいてくれるリーンに耳打ちした。


「ランドマーク家の一族はみんな良い人ばかりよ。私もその家族の一員だし」


 リーンは胸を張るとリズに自慢するのであった。


「うふふ。リーンさんが羨ましい。うちは兄弟と言っても腹違いが多いしあまり会う機会もないから親しくする事も少ないの」


「王家は大変ね」


 リーンはリズの悩みともとれる言葉に素直な感想を漏らした。


「そう言われたのは初めてだわリーンさんの家族はどうなの?」


「リンドの森の村の? あっちは父さんと母さん、兄が一人いるわ。エルフは長命だから人とはかなり考え方が違うというかおっとりというか、それに保守的ね。森を出る事をあまり好ましく思わない傾向があってうちの家族もその考え方。仲は悪くなかったけど、私はそんなの嫌だったから家を飛び出してきたの」


「家出したの!?」


 リズには考えられない事だったから、驚く。


「そう。でも、すぐ生活に困ってたところをリューに拾われたのだけど、その家族が昔の友人であるランドマーク家だったの。これは運命だと思ったわ」


 リーンはまた、誇らしそうに自慢する。


「リーンさんは波乱万丈な人生を楽しんでいるのね。ふふふ」


「そうね。リューの傍にいると、色々な経験が出来るわ。とても楽しいわよ」


「ミナトミュラー君はとても頭が良くて行動的だから一緒にいると確かに楽しそうよね」


 リズはリーンに賛同するのであった。


 そんな女子の会話で盛り上がっていると、ノックする音が聞こえてきた。


「王女殿下、よろしいでしょうか?」


 今回、従者の一人として同行しているランスの声がした。


「どうぞ」


 リズが、答えるとランスが入って来た。


「王女殿下。シーパラダイン魔法士爵、ミナトミュラー準男爵両名が街をご案内すると申し出ていますがどういたしましょうか?」


 ランスは今回は仕事とばかりに、よそ行きの態度でリズに確認を取る。


「ランス・ボジーン君。ここにはメイドと私達しかいないから、いつも通りで良いわよ」


 リズが、普段とは真逆のランスを面白がるようにして笑うと答えた。


「そっか? ──ふー、一応、親父の手伝いの時はちゃんとしているんだぜ? それで二人共外出どうする? 疲れているならリュー達にそう伝えるけど?」


 リズの言葉で態度が一変するランス。


 控えているメイド達は一瞬その態度の変化にギョッとするが、何も聞かなかった事にしたのか、また、静かに待つ態度に戻った。


「せっかくだからお願いするわ。それでは準備しますね」


 リズはランスに応じるとメイド達が着替えの手伝いの為に動き出す。


「じゃあ、私は外に出ているわね」


 リーンはリズにそう伝えるとランスと共に部屋の外に出るのであった。



 リズの準備が終えてリュー達の前に現れた。


 その姿にリュー達は驚いた。


 リズはなんと男装していたのだ。


 傍には、近衛騎士団の隊長ヤークが鎧を脱ぎ、平民の格好をしている。


「お忍びなら、こういう格好がいいと思って用意していたのだけど……、変?」


 リズが今回の旅をかなり楽しんでいる事がわかってリューは笑顔になった。


「いいんじゃないかな。でも、僕達の格好もだけど、貴族が着そうな服だから、あまりお忍びにはならないと思うけどね」


 リズの一生懸命の格好もシーパラダインの街では、それなりに目立つのだ。


 王都なら有りだったのだろうが、ここではそうはいかないだろう。


「まぁまぁ、リュー。王女殿下のせっかくの変装なんだから。それにこの格好なら王女殿下だと思う領民はいないと思うよ」


 次男ジーロがリューに注意するとフォローした。


 長男タウロもジーロの言葉に頷く。


 リズは複雑な顔するのであったが、気を取り直してシーパラダインの街を見物する事にするのであった。



 シーパラダインの街、旧モンチャイは、元の主であるモンチャイ伯爵が、武闘派であった為か、武器屋、防具屋、鍛冶屋、魔道具屋、魔法研究所、道場など、戦いに関連するようなお店が多い。


 特に道場は全国の有名流派の支部を誘致したのか街のあらゆるところで、剣や槍、体術などに精を出す掛け声が聞こえてくる。


「……領主によって個性が出るものだね」


 リューは、もっといろんな特色のある産業を期待していたので、この武辺一辺倒な街の雰囲気にちょっと呆れた。


「南部派閥のモンチャイ伯爵と言えば、どこかで戦があれば、すぐに駆け付ける貴族の一人だったようね」


 リズがフォローなのかわからない知識を披露した。


「戦闘狂か……。ジーロお兄ちゃん。この街は大変そうだね」


 リューが、前途多難そうなこの街の街長である次男に同情した。


「執事のギンと話し合ってこれを生かせる様な運営を考えているよ」


 次男ジーロは苦笑いで答える。


「自分には最高の街に思えるのですが……」


 タウロの護衛役であるスードがこの街の雰囲気にワクワクしていたのか、リューの背後でそう言うと、みんながその言葉に一瞬止まり、次の瞬間には笑いに包まれるのであった。

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