第341話 シーパラダインの街ですが何か?

 長男タウロ先導でのランドマーク領内を進む王女一行の旅は順調であった。


 与力であるミナトミュラー家の精鋭もイバルに率いられて行く先々の安全確保も行っていたし、警備においては近衛騎士団が厳重に行っていた。


 ランドマーク家の領兵達も普段から領内の巡回は欠かさず、余所者には目を光らせていたので、トラブルらしいトラブルが起こるわけもなく数日をかけて、領内の最終地点であるシーパラダインの街に到着した。


 シーパラダインの街は、元は旧モンチャイ伯爵の領都であったが、ランドマーク家への嫌がらせ、出兵など、昇爵させた王家を軽んじる行動であると判断され、主犯であった南部派閥首領の侯爵と共に、降爵や爵位の剥奪、領地没収という重い処罰が行われた。


 その後、賠償金とランドマーク家への報酬としてこの街は譲られる事になり、次男ジーロ・シーパラダイン魔法士爵の統治する街となっている。


 そのジーロが、代理兼執事に収まっているギンというランドマークビルの管理人レンドの部下であった男と共に、王女一行を出迎えた。


 長男タウロがジーロと軽く挨拶をしてそこにリューも合流する。


「仲の良いご兄弟ですね」


 エリザベス王女は友人であるリューの、兄達との良好な関係を微笑ましく思いつつ笑顔で指摘した。


「ありがとうございます。シーパラダインの街へようこそ。街長として、弟リューのご友人でもある王女殿下を心より歓迎いたします」


 普段おっとりしているジーロも、シーパラダインの街長として自覚に目覚めたのか、きりっとした態度で出迎えたのであった。


 それに長男タウロの先導役もここまでである。


 シーパラダインの街を過ぎたら、そこからは王家直轄領に入るのだ。


 街の城門で歓迎された王女一行は、ジーロの馬での先導の元、シーパラダインの街に入城した。


 街に入ると領民総出の大歓迎ぶりであった。


 王女リズの乗る王家の馬車に領民達は手を振り、通りの家の二階からは住民お手製の紙吹雪が舞う。


「タウロお兄ちゃん。元領都だけあって、人も多いね……!」


 王女一行を先導する次男ジーロに続いて、馬に乗り換えて進む長男タウロと並んでリューも、馬に騎乗して進みながら素直な感想を漏らした。


「そうだね。この街の人口だけでランドマーク領の三分の一いるらしいよ」


 長男タウロは報告を受けていたのか驚く様子もなく笑って答えた。


「そうなの!?ジーロお兄ちゃんも大変なところの街長になったね」


 リューは、ここでやっと元伯爵の領都がどんなものであるかを知ったのであった。


「でも、この元領都も今、人口が結構減少しているんだよ」


 先導していた次男ジーロが、残念そうに話してきた。


「え?なんで?」


 リューが驚いて聞き返す。


「旧領都がランドマーク領になった事で、他の旧モンチャイ伯爵領に家族がいる者も少なくなかったからね。突然引き離される事になるから、これを機に実家に戻ると言ってこの街を離れる者が多いんだ」


「他の旧モンチャイ領は今、王家直轄領だしね。ランドマーク伯爵下より、それなら王家直轄地に住む方がいいと思う者は多いだろうね」


 タウロが現実的な指摘をした。


「そっか……。領主であったモンチャイ伯爵を追い落とした相手でもあるし、そう思う人はいるよね……」


「意外にそういう理由の者は、少ないみたいだよ。モンチャイ元伯爵はあんまり領民に慕われていなかったみたい。ぼくの代理として統治運営してくれていたギンのお陰もあってランドマーク家への印象も悪くないみたいで、ぼくがここに来た時もギンがいい噂を広めていてくれた事もあって、スムーズに歓迎して貰えたから」


 ジーロは執事のギンを高く評価した。


 やっぱりギンは優秀だよね。僕も欲しい人材だったもの。


 リューは、ジーロとギンの組み合わせがとても上手くいってる事に喜びつつ、ギンは強面な容姿だから、うちにも向いていたんだけどなぁ。と羨むのであった。


 街長邸は、とても大きかった。


 大豪邸というべき館であったが、一部、取り壊しを行っており、王女歓迎の為にその作業を一時中断している様だ。


「王女殿下、申し訳ありません。現在、不要と思われる部分は取り壊し中でして、お見苦しいところをお見せします」


 馬車から下りて屋敷の外観を眺めた王女リズに次男ジーロがそう告げた。


「大丈夫ですよ。この街を引き継いでまだあまり経っていないところに私が急遽訪れれば、こういう事が起こるのも仕方がない事です」


 王女リズは笑顔で答えてジーロに館内に案内されるのであった。


 中に入ると派手な絵画や装飾品は外した後なのか、その名残が壁に残っていたが、壁紙は派手なものであった。


「モンチャイ伯爵が派手だったのか、伯爵の地位だと派手なのか、どっちだろうね?」


 リューが屋敷内に入って誰に言うでもなくぼそっとつぶやいた。


「どっちもじゃない?」


 リズと一緒にいるリーンが、そう指摘した。


「こちらの貴族は壁紙を見る限りちょっと趣味が古かったかも……」


 王女リズも室内の赤を基調とした金糸の模様が入った派手な壁紙を見て、小声でリューとリーン、そして今回、リズの従者の一人として来ているランスに感想をつぶやいた。


 リズのこの指摘に三人は思わず吹き出して笑うのであったが、王女一行の総責任者であるマカセリン伯爵が、わざと咳きをして注意を促したから、リズと三人は目を見合わせると笑顔で静かにするのであった。


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