第334話 終業式ですが何か?

 世間では受験シーズンという事で、王立学園も熱気に満ちている。


 在学生徒達は、この学期は学校の授業以外ではパーティーシーズンであるから違う意味で熱気に包まれているが、そのパーティーも人脈作りの一環であり、生徒達は卒業後の進路も考えて真剣であった。


 生徒が真剣なら受験シーズンの教師陣はもっと真剣だ。


 今年も王国一のエリート学校である王立学園を受験する為に、全国から優秀な受験者が集まって来るのだ。


 それなりの準備をしなくてはならない。


 昨年は、規格外の受験者が一部現れ、それが元で受験会場が混乱をきたしたから、その反省も含めて学校関係者はその準備に余念がない。


 生徒も学校側も忙しい日々を送っていたが、そんな三学期がこの日、終業式を迎えた。


 学校の大ホールでその式典が行われ、学園長のありがたいお話が始まる。


 普段落ち着き払っている学園長もこの日は熱がこもって長話になり、お約束の様に貧血で倒れる生徒が現れたりと、終業式あるあるの軽い混乱がありつつ、終業式は無事?終了するのであった。


 幸い王女クラスの生徒達は無事全員進級する事が決まっている。


「なぁ。やっぱり、二年生になったらクラス替えあるのか?」


 と、ランスが終業式終わりの教室で新学期の話をした。


「──!……そうだな。事実上特別クラスは無くなった事になっているから、あるかもしれない……」


 ランスの何気ない言葉に、ナジンが盲点だったとばかりに、真剣に考えながら答えた。


「……また同じクラスになると良いね」


 心配そうにシズが願望を口にした。


「そうか……!クラス替えの可能性があるのか!」


 と、いまさら驚くリュー。


「私はリューと離れる気はないわよ?もしも、そんな事が起きたら、職員室に乗り込むわ」


 と、リーンは真剣そのもので答える。


「こらこら、リーン。過激な事は止めてね?」


 リューが苦笑を浮かべてリーンを諭す。


「俺も、このクラスが好きだし、このままが良いかな」


 イバルが珍しく自分の意見を述べた。


「自分は主と同じクラスになりたいです!」


 リューの後ろで控えていた普通クラスのスードが、ここぞとばかりに主張した。


 君は、護衛の鑑だよ。


 リューは、スードのやる気に内心でそう褒めるのであった。


「そうね。せっかくできた友人達と一年で離れ離れは嫌かも……」


 と、エリザベス王女、愛称リズが、感想を漏らした。


 こういった発言は珍しい。


 リズは公明正大な立ち居振る舞いを普段からしているので、好き嫌いを口にする事は滅多にないのだ。


「ここは、王女殿下に一肌脱いでもらって、学園長やスルンジャー先生にお願いして貰うしか……」


 と、国家権力を暗に使用して貰う提案をした。


「それが駄目な事はわかっているでしょ、ミナトミュラー君」


 リズは苦笑するとリューの提案を却下した。


「すみません」


 リューは笑って謝罪する。


「でも、成績優秀者クラスを編成して貰う事は可能かもしれない……」


 と、リズがふと思いついた様につぶやいた。


「「「「「「良いね!」」」」」」


 リュー達ほぼ全員が、リズのつぶやきに賛同した。


「それだと、自分はそのクラスに入れないかもしれないです……」


 と、スードが残念そうに答えた。


 スードは、武芸の腕こそリューやリーンに続いて優秀な成績を残しているが、それ以外の勉強はみんなに比べるとまだまだであったから、残念がるのも仕方がなかった。


 三学期はテスト自体が無いので、実力を伸ばしているスードの評価は二学期時点のままである。


 実は三学期もスードは勉強を頑張っていただけにそれだけが悔やまれた。


「担任の先生がどう評価しているかだよね。小テストは結構やったし、そこで評価されていればもしかしたら……」


 と、リュー。


「スードは一芸に秀でているし、後半の成績も伸びているから、いけるかもしれないぜ?」


 ランスが剣のライバルであるスードを評価して見せた。


「そうだね。まぁ、全ては新学期までのお楽しみという事で」


 リューが、話をまとめた。


「……みんな、休みは何をする予定なの?」


 ここでシズが、休暇の間のことを話題にした。


「私は公務でスケジュールは一杯だわ」


 いつもの事とばかりにリズが答える。


「リズも大変ね」


 とリーンが、友人の労を労う言葉を口にした。


「俺も親父の仕事を手伝うから忙しいんだよな。本当ならみんなと遊びたいところだけど」


 ランスもいつものことながら、休みの無さに不満を漏らした。


「自分とシズは自領に戻って休みを楽しむ感じかな」


 ナジンがそう答えると、シズもその言葉に頷いた。


「俺はリューのところで仕事かな。働かざる者食うべからず。雇い主であるリューが働くのだから当然だな」


 と、イバル。


「自分もです!」


 スードはイバルに賛同した。


「僕とリーンも仕事で予定が埋まっているからなぁ。みんなと次会えるのは新学期だね」


 リューは残念そうに答えた。そして、続ける。


「じゃあ、みんな。新学期にまた会おうね!」


 こうして新学期までの間、それぞれの休暇を過ごす事になるのであったが、この中の何人かがリュー達と仕事で休みの間に会う事になるのであるが、それはまた、別のお話であった。

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