第329話 次代のですが何か?
忘れられそうな事であったが、王立学園で卒業シーズンを迎えれば、もちろん、南東部でも卒業式シーズンを迎える事になる。
今年、学校で卒業を迎えたのは、ランドマーク家の執事であるセバスチャンの孫にあたり、将来のランドマーク家を引き継ぐ長男タウロの執事になるであろうシーマである。
スゴエラの街から戻ったシーマは、父ファーザや昨年一足先に卒業した長男タウロ、そして、丁度、王都から『次元回廊』を使って訪れていたリューとリーンに迎えられた。
「卒業おめでとう、シーマ。これからは我が家の将来の執事を目指して働いてくれよ」
父ファーザが、背が伸びて大きくなったシーマの肩に手を置くと、そう声を掛けて労った。
「ありがとうございます、ご主人様! 今後はタウロ様の右腕として精一杯精進するっす!」
「シーマ、久しぶり! まるで誰かが忘れていたかのように出番が無くて心配してたよ」
と、リューが声を掛けた。
「何言ってるんすか、リュー坊ちゃん。年始にもお会いしましたよ! ──まぁ、台詞が無いどころか、存在自体も誰かに忘れられていた気もするっすけど……」
シーマは誰もいないはずの背後を見て大いなる存在(作者)に恨みを込めて確認するのであった。
「あはは……。シーマは学校に通っている間は、こっちに一時帰宅してた時もセバスチャンの元で忙しくしてたから仕方が無いよ」
長男タウロが、大いなる存在(しつこい)を庇う様に、シーマのこれまでの経緯を説明する。
「そ、そうだね。これ以上、誰かを貶める様な事は言わない方が、いいかもしれないよ」
リューも誰かのミスを庇うのであった。
「リュー坊ちゃん、そう言えば、その後ろにいる少年は誰っすか?」
シーマは、いつも傍にいるリーンと一緒に立っているスードに気が付いた。
「僕の同級生で護衛役を務めているスード・バトラーだよ。こっちには何度か連れて来たり、魔境の森にも通ってた事もあるけどシーマとは初めてかな」
リューがスードをシーマに簡単に紹介した。
「そうっすね。こっちに戻ってきている時は、自分はじいちゃんの元で仕事させられていたから、会う事はなかったかもしれないっす」
シーマは以前、学校に行く前はリューに付いている事もあったので、スードの存在は気になる様だ。
「そうだ、お父さん。シーマがどのくらい成長しているか、試してみない?」
リューはとんでもない提案をした。
「おいおい、シーマは学校を卒業して帰って来たばかりだぞ? 休ませてあげなさい」
父ファーザは苦笑を浮かべるとリューの提案を否定する様に注意した。
「リュー坊ちゃんの護衛なら、相当腕が立たないと相応しくないっす。リーンさんの腕は知ってるっすけど、ランドマーク家の次代の執事として強さは把握しておきたいっす!」
意外にシーマは元気いっぱい、やる気満々であった。
シーマは、学校では長男タウロ、そして、次男ジーロの傍に常にいて、文武において一緒に励んでいた。
学校の成績もトップであり、卒業総代も務めている。
つまり、首席での卒業である。
昔から知っているシーマのキャラクターからは、イメージできないリューであったが、ちゃんとランドマーク家の為に励んでいたのだ。
「それじゃあ早速、広場でシーマ対スードの練習試合をしていい、お父さん?」
リューが、ノリノリで父ファーザに確認を取る。
「……やれやれ。本人が良いなら勝手にやりなさい」
父ファーザが、呆れるのだったが、自分には仕事がある。
リューから、報告された大きな案件もあり、観戦している暇はないからすぐに執務室に戻っていくのであった。
「なんじゃ、面白そうな話をしとるな」
そこへ、地獄耳並みなのかどこからやり取りを聞いていたのか祖父カミーザがやってきた。
「おじいちゃん。魔境の森から戻ってたんだね」
リューが、祖父カミーザを出迎える。
「シーマが今日戻ると聞いてな。──スードと試合をさせるのか。それは面白そうだ」
祖父カミーザは笑うと観戦する気満々である。
こうして、スードの意思は尊重される事なくシーマと周囲の意思のみで決まった練習試合が行われる事になったのであった。
城館の傍の広場は、使用人達も集まって来ていた。
今やランドマーク家は伯爵である。
使用人の数も沢山増えている。
その使用人達で結構な人だかりができていた。
というか今、仕事しているのお父さんと執事のセバスチャンだけじゃないの!?
という気もしたリューであったが、娯楽も必要である。
長男タウロもいるから、今回はOKという事で、目をつぶるリューであった。
「それでは、儂が審判をするぞ? シーマ、スード、両者は前に」
祖父カミーザに言われて二人は木剣を片手に前に進み出た。
「どちらか一本を取れば勝ちじゃ。──それでは、始め!」
簡単なカミーザの説明と、開始が宣言された。
しかし、両者は動かない。
性格的にシーマなら開始直後に突っ込んでいきそうであったが、やはり成長したと見えて、スードの動きを警戒している様だ。
スードはスードで、シーマの気配に強さを感じたのか、木剣を懐に隠す様に半身の姿勢から動かない。
二人の気配は、お互いの剣先が相手に届く間合いの探り合いであった。
「……二人共、ギリギリの距離だね」
長男タウロが、二人の間合いが重なるか重ならないかと気配を察知してつぶやいた。
その指摘された二人の間合いが重なった瞬間であった。
シーマの剣がスードの頭部に振り落とされた。
スードも懐からそれに合わせて木剣を抜いてシーマに斬り上げる。
するとお互い相手の木剣を躱そうと身をよじったので剣先は相手に届かず、ギリギリを掠めた。
そこからシーマは振り下ろした木剣を左手に持ち替えてそこから突きを見せた。
シーマのトリッキーな動きに不意を突かれたスードは木剣を盾にしてその突きを防いだ。
そこからは、スードは防戦一方になる。
シーマは、変幻自在な攻撃でスードを攻め立て、スードは反撃を狙って粘り強くシーマの攻撃を防ぐ。
そんな激しい攻防戦に観戦者達が息を呑んだ。
そして、ぶつかり合う木剣はその衝撃に耐えられず、欠けていく。
そして、二人が大きく踏み込んでその剣先を交えた瞬間だった。
両者の木剣は根元から粉砕し、剣先は宙でくるくる舞うと二人の足元に落ちた。
「両者そこまでじゃ。……ふむ。まぁ、これは引き分けで良いじゃろ。二人共強くなったのう」
祖父カミーザは、満足そうに頷くと、二人を労った。
すると息を呑んでいた観戦者達から大歓声が起きる。
「二人共、見事だったよ」
長男タウロも二人を労う。
リューも、同じ様に二人を労うのだったが、実は少しシーマの方が勝っていたと考えていた。
シーマは、スードの限界を見る為に最後、隙を見せてスードの最後の一振りを引き出したのだ。
「……さすが、ランドマーク家次代の執事。本家はお兄ちゃんの代も安泰だ!」
リューは、長い付き合いのシーマの成長を知って満足するのであった。
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