第328話 大事な繋がりですが何か?

 現在リューは、王家や官吏と特殊な繋がりが出来ていた。


 それは、南部に出来た王家直轄領までの官吏の移動に対する案内を担っている事だ。


 南部派閥とランドマーク伯爵との対立で起きた事件において、王家によるその領地の没収で生まれた王家直轄領だが、官吏の派遣には王都から約一か月はかかる為、リューが『次元回廊』をもって、ランドマーク領まで官吏や、馬、それに付随する荷物等を運び、そこから王家直轄領まで移動する事で半月以上を短縮できるから、南部への異動する官吏や兵士にしてみたらリューの存在はこの上ない、有難いものであった。


 王家にしても一刻も早く官吏を送る事で、王家の権威を示さなければいけないところであったから、協力してくれるランドマーク伯爵家と与力であるミナトミュラー準男爵家との間にはこれまで以上に密接な関りが出来つつあった。


「ミナトミュラー準男爵殿。今日もお願いします」


 朝一番で、南部王家直轄領へ向かう使者を連れて、顔見知りになっている官吏が、リューの元へ訪問していた。


 普段からリューは毎朝ランドマーク本領からの荷物を運搬、人の移動などを行ってから学校に通学しており、ついでに王家のお願いで移動の手伝いをする事になったのだが、もちろん、あちらにしたら往復に二か月もかかるところを半分以下に短縮できるので、リューの存在は南部や南東部への問題解決に持って来いの存在であった。


「お疲れ様です。では早速、そちらの使者の方を運びますね」


 リューはいつもの慣れた感じで、使者の手を握ると『次元回廊』で一瞬で移動してみせた。


「こ、これが『次元回廊』!?」


 使者は、驚くと辺りを見渡す。


「それでは、少々お待ちを。御者と馬車、馬も連れてきますので」


 リューはそう断ると、その場から一瞬で消える。


「!」


 使者はランドマーク家の屋敷の前で、この初めての経験に驚いて固まるのであった。


 そこから驚きから復活する前に、リューと御者、そして、馬が次々と現れる。


 そして、リューはマジック収納から馬車を取り出した。


 リューは、御者と一緒にこれも慣れた様子で馬車に馬を繋いで終了。


「御者の方、ランドマーク家から道案内を付けるので、いつもの様にそちらの指示に従って下さい」


「わかりました」


 御者は初めてではないのか落ち着いた反応で頷く。


「使者の方、ここから南部王家直轄領までは、数日かかりますが、良い旅を。帰りはまた、こちらに戻って下さい。同じように朝、王都までお届けしますので」


 リューは、使者にそう伝えた。


「あ、ありがとうございました、ミナトミュラー準男爵殿。この体験は一生の宝です!」


 どうやら、使者は『次元回廊』を使えるリューを勇者などの特別な存在と思ったのか、この様な体験は何度も出来ないと思った様だ。


「あはは。帰りも体験できますよ。使者の方は安全に使命を果たせますように」


 リューは気軽に告げると、いつもの様に使者の出発を見送ってから、今日運ぶ分の荷物を倉庫で『マジック収納』に回収すると王都に戻るのであった。



「お帰りなさい、ミナトミュラー準男爵殿。今日の報酬です」


 ランドマークビルに戻ると官吏の男性が待機しており、いつもの様にお金の入った革袋をリューに支払う。


 リューがそれを受け取って、終了。


 それが、最近の朝の日課である。


「ところで、ミナトミュラー準男爵殿」


 いつもなら、ここで官吏の男性は馬車に乗り込んで王宮に戻っていくのだが、今日はリューに話しかけてきた。


「何でしょうか?」


 リューはこの後学校なので、傍にはリーンが待機している。


「……実は、南部の直轄領に王家の者が、現地へ表敬訪問する計画がなされております」


「え?」


「南部に突然できた王家直轄領という事で、王家の誰かが直接訪問し、王家の威光を示しておくべきだろうという事になりまして……」


「……それはまた、突然ですね……」


 リューに緊張が走る。


 自分に話すという事はつまり、自分の『次元回廊』を使用したいという事だろう。


「この計画は、ミナトミュラー準男爵殿の能力を前提に議題に上がったところがありますので……、大丈夫でしょうか……?」


 官吏は、誰にも聞かれぬ様リューに耳打ちした。


「もちろん、大丈夫ですが……、王家の方は誰が……?」


「そこはまだ、決まっておりません……。ミナトミュラー準男爵殿へ確認を取ってからとの事でしたので」


「こちらはもちろん、王家の方を運ぶ事には何の問題もありませんが、そうなるとあちらで歓迎式典とか行った方がよいのでしょうか?」


 『次元回廊』で運ぶ先はランドマーク本領の、それも一家の城館前である。


 ランドマーク家で歓待するのが礼儀である様に思えた。


「そうですね。王家の人間が一貴族の領地を訪れるのは名誉な事なので歓迎する準備は成された方が良いとは思いますが、それにつきましてはこちらからも担当官吏を出して指導しますのでご安心を」


「そうですか……。では父ランドマーク伯にはこちらから知らせておきます」


「お願いします。──後日、詳しく決まりましたら、追って連絡します」


 官吏は、大事な仕事を一つ終えたと、ホッとした様子を見せると、今度こそ馬車に乗り込んでランドマークビルを後にするのであった。


「王家の人間って、あのオウヘ王子とかじゃないでしょうね?」


 リーンが、嫌な表情を浮かべてリューに聞いた。


「……あはは。それは流石に勘弁してほしいかな。──どちらにせよ、王家の人間が訪れるという事は名誉な事だから、ランドマーク家の株が上がるね!」


 リューはこの事を前向きに捉え喜ぶのだったが、学校の時間が迫っている事に気づくと、慌てて馬車に乗り込むのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る