第327話 色々思いもありますが何か?

 今年に入り何かとトラブルが多いリューであったが、この時期のイベントの一つである四年生の卒業式が行われた。


 と言っても、リュー達一年生は、在校生の一員として式には参加したものの、ほとんど関わる事なく過ごした四年生とは接点らしい接点も無く、何の感慨も無く拍手をして見送ると終了、という感じであった。


「今年の四年生はみんな良いところに就職決まったらしいね」


 リューが、卒業式後に話題を一つみんなに提供した。


「そこは王国一の学校だからな。ここに入れただけでも就職には有利さ。学校のコネもあるしな」


 ランスが、王立学園に通う強みを話した。


「ランス君はお父さんの跡を継ぐんでしょ?あんまり関係ない気がするけど」


 リューが不思議そうに聞いた。


「後を継ぐにしても学歴は要求されるさ。雇い主は王家だぜ?跡を継げるのは最低限の学歴や実績があってこそだから、俺はまずこの学園を卒業して、騎士団や王宮の使用人なんかで下積みしてから実績を重ね、その後、親父の跡を継ぐ感じになると思うぜ?」


「そうなの!?──じゃあ、みんなは卒業後はどうする感じなの?」


 地方貴族の三男であったリューは、叙爵したから良いものの、まだ、地位が無い貴族の子息は働き口を探して貴族社会での実績作りが求められる。


 大貴族の子息だから跡を継ぐまで働かないで親の元で優雅に暮らせるわけではないのだ。


 貴族社会には貴族社会の義務や責任、面子があり、卒業した学校の品格、就職先、そこでの実績などを踏まえた上で爵位を継ぎ、学校、就職時代の人脈を駆使して貴族社会を生きていく。


 そういう意味では、リューは卒業後、すぐに準男爵として領地運営していくのだが、人脈は学園で培ったものだけになる。


 他の者達は就職して実績を残して、中にはそこで叙爵される者もいるかもしれない。


 人脈も出来るし経験を積めるから、そういう意味ではリューと比べると一長一短があると言っていいだろう。


「自分はランスと同じ様に、騎士団か研究機関、外交官なども良いかなと思っている」


 ナジンが、数年後の就職先について答えた。


「……私はどうしよう……?」


 シズは、考え込んだ。


「まだ、あと三年もあるから、これからゆっくりで良いと思うよ」


リューが悩むシズにアドバイスをした。


「そうそう。俺んちは特殊だし、ナジンはしっかりし過ぎなんだよな。──それにしてもイバルやスードはこのまま、リューのところに就職だろ?悩む必要なくていいよな!」


 ランスが笑いながら、二人を茶化した。


「まあな。リューのところは給料も良いし、待遇もいいからな。爵位が望めない身としてはこれ以上ない就職先さ」


 イバルは、コートナイン男爵家に養子入りして一応嫡男扱いなのだが、本人は実子に当たる弟(本来の嫡男)に家督を譲る気でいる。


 その事は養父にもすでに伝えていたから、本人の意思は固い。


「自分も主の元で働けているのは幸いです。お陰で学生身分でありながら家族も養えて、弟妹達にも良い学校に行かせてやれそうです」


 スードは庶民の出だが、スキル「聖騎士」を持っているから、援助を得てこの王立学園に入学出来ている。


 もし、優秀なスキルが無ければ、家も豊かではない事から、本来ならば、学校に通う事も出来ず、貧しいままだっただろう。


「私はリューの従者だから、気楽なものよ」


 リーンは当然、ランドマーク家の家族同然だし、ミナトミュラー家の守護者的な役割になっている。


 リューはもちろん、リーンにもお給金を支払っているが、リーンはあんまりお金には執着しない性格なので、リューの傍にいるだけで満足な様子であった。


「私は生まれた時から王家だから、やる事は決まっているわ……」


 エリザベス第三王女は、大変だがやりがいのある就職先を目指しているみんなを羨ましく感じたのかため息交じりに答えた。


 こんな王女は珍しいので、リュー達は内心かなりびっくりしていた。


「王家だから、『王家の義務』というのがあるんだよね?」


 リューが、心中を察して話を振った。


「……ええ。もちろん、王家の一員として誇りは持っているし、義務も果たす覚悟もあるけど。みんなの話を聞いているとちょっと、羨ましくも感じるわ」


「……リズ。私、王宮の女官になってリズを傍で支える……!」


 シズが、リズ(エリザベス王女の愛称)の手を握ると、そう宣言した。


「シズ、ありがとう……。でも、シズは、シズの夢を見つけて就職して欲しい。私に気を使わなくていいのよ。それに、私は政略結婚という形で他所の国に嫁ぐ可能性も高いから」


 リズは友人の気遣いに感謝して首を振った。


「リズはいざとなったら、王位継承権を放棄して、一般人になればいいのよ」


 リーンがとんでもない事を言い出した。


 一同はその突拍子もない提案に呆気にとられ固まったが、リズが最初に吹き出す様に笑った。


「あはは!そんな事考えた事も無かったわ!さすがにそれは出来ないけど、私にも選択肢があった事を教えてくれてありがとう、リーン」


 リズはリーンの言葉に救われた思いで感謝する。


 やはりリズも思春期の女の子、王家の一員としての責任で、色々と悩み、考える事もいっぱいあったのだろう。


 友人達の言葉で、本来の責任感ある明るく凛々しい女性を取り戻した様に見える一瞬であった。

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