第326話 責任者の処罰ですが何か?

 一時的とはいえ、『竜星組』の看板に泥を塗られる事になった預かり組が起こした問題は大幹部マルコの下した厳しい処罰によって、鎮静化に向かっていった。


 これには他の預かり組も大いに肝を冷やし、大人しくなる者、後ろめたい事があるのか預かりから抜ける者などもいたが、この処罰を支持する側に回る者が大部分であった。


 これまで『上弦の闇』、『雷蛮会』の元で悪さをしてきた者達は『竜星組』の庇護下から外れると、また、一からチンピラとして生きていく事になる。


 それは、ただでさえ真っ当とは言えない生き方をしてきた者達にとって厳しいものだ。


 恨みを買っている者もいただろうし、看板が無ければ命を狙われる者もいるだろう。


 一度道を外れて生きてきた者にとって、庶民の生活に戻るのは大変な事であり、世間もそう簡単にそれを許さない。


 ほとんどの者は、王都一の巨大組織である『竜星組』について行くしかないのであった。


 何より『竜星組』は、この王都において、裏社会でも表社会でも評判が良い。


 普通は裏社会の評判の良さと言えば悪名であり、表社会では恐れられるのが”評判”の良さになるのだが、『竜星組』の場合、裏社会では仁義を通して素行の悪いチンピラにとっては恐れ多い存在であったが、表社会においては『竜星組』の縄張り地域は格段に治安が良く、庶民には手を出さない事が徹底されていたので、組事務所に近所の住民が、差し入れをする光景も見られる”評判”の良さであった。


 その為、警備隊、騎士団も『竜星組』関係者には一目置き、地域犯罪が起きれば裏で協力して解決していると噂される程であった。


「旧『雷蛮会』系の預かり組は上手く他事務所に振り分けられた?」


 リューが、学校の帰りに王都の組事務所を訪れ、事務所を任せている本部に出入りが許されている組長に確認した。


「へい!マルコ大幹部の指示の下、うちにも何人か回ってきましたが、大人しいものです」


「そっか、何かあったら、マルコに報告上げといてね」


「へい、もちろんです!──それで、若。うちに流れた旧『雷蛮会』のグループの縄張り周辺なんですが、『月下狼』と『黒炎の羊』の縄張り争いが激化してきているので、マルコ大幹部に報告するところだったんですが、どうしましょうか?」


「あそこかー。『月下狼』はうちと仲良くやっているから文句を言う気はないかな。まぁ、やりたいならやらせときな。ただ、うちの縄張りの住民に火の粉がかかる様だったら、どっちが関係していようとも振り払う様に。それがうちの流儀だよ。マルコにも報告は上げといて」


「──わかりました。そうしておきます!」


 『竜星組』王都組事務所はリューの抜き打ちの訪問に戦々恐々としたが、預かり組の失態の処分はなさそうだと、ホッと胸を撫で下ろすのであった。


 そこに別の訪問客が訪れた。


 リューの訪問を聞いて駆け付けた若い衆のトップを張るアントニオと、ミゲルである。


 この二人は、組事務所こそまだ任されてはいないが、大親分であるリューに直接目を掛けられており、大幹部マルコからも直接指示をもらう立場関係から将来は『竜星組』の幹部になると言われている。


 王都事務所にも顔を出す事が珍しいこの武闘派の二人が、現れたので王都事務所の組員達もざわめきたった。


「若様がこちらの事務所に立ち寄っていると聞いたので直接、挨拶と謝罪に来ました!」


 数名の部下を連れた、アントニオとミゲルがリューに挨拶をした。


「二人共お疲れ。──って、謝罪?」


 理由がわからないリューが、首を傾げていると、アントニオとミゲルは、その場で土下座した。


「この度の不祥事。預かり組を任されていた俺達二人の責任です。責任を取って今の立場から退き、一兵隊としてやり直す機会を下さい!」


「同じくこのミゲル。暴走に気づかず、好き勝手やらせてしまった責任をとって兵隊からやり直す事をお許し下さい!」


 二人は王都事務所内で他の組員の視線も気にせず、リューに許しを請うた。


「二人共。マルコから伝えたはずだよ。まだ、経験不足の若い二人に任せた僕にも責任があるってね。そんな二人だけを処罰できないよ」


「──ですが、俺達二人のせいで『竜星組』の看板に泥を塗ったのも事実です。責任を取らせて下さい!」


 アントニオが、食い下がった。


「マルコから伝えたと思うけど、二人には旧『雷蛮会』の縄張り監視と情報収集、それに加えて、ランスキーの配下の下で王都全体の情報を上げる仕事も任せているよね?それ全部をこなすのが罰だから。それでも満足がいかないというなら、そうだなぁ……。今回被害に遭って心に傷を負った住民のみなさんのケアもよろしく。それが全てだよ。これ以上文句は言わせないよ?」


「文句だなんて!……本当にそれだけでいいんですか?」


 ミゲルが、申し訳なさそうに聞き返してきた。


「それだけ?──被害者の方々は、こちらの謝罪を受け入れてくれているけど、心のケアは、別だからね。とても、難しい事だよ?何しろ僕達が負わせた見えない傷を僕達で治そうとしているんだ。これ以上大変な事はないと思って心して当たって」


「すみませんでした!被害者の傷を一日でも早く治せるように努力します!」


 アントニオとミゲルは地面に頭を擦りつける様に頭を下げた。


「それじゃあ、この話は終了。二人とも『竜星組』の為に働いて下さい。以上」


 リューは、そう答えると、事務所を後にするのであった。



「マルコも責任をとって大幹部の座を降りるって言いだしてるのに、あの二人まで兵隊に落とせないよね」


「それで、当のマルコはどうするの?」


 馬車内でリーンが処分について聞いた。


「マルコには、『竜星組』マイスタ本部事務所の庭の草むしりを一か月させる事にしたじゃない。それ以上、文句は言わせないよ。ただでさえ組が大きくなって忙しいのに優秀な人材を降格して遊ばせておくことの方が問題だよ」


 リューは現実的な事を口にすると、部下達の真面目ぶりに苦笑を浮かべ、溜息を吐くのであった。

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