第330話 交通事情ですが何か?

 王都の交通事情に変化が訪れていた。


 今年に入り、王都の道を走るのが馬車に加えて、人力三輪車が加わったのだ。


 現在はまだ、ランドマーク商会の人力タクシー、軽運送業の三輪車に範囲が限られているが、台数も増え、ランドマーク商会には連日、三輪車についての問い合わせが増大していた。


 なにしろ馬が引かないで移動できるという画期的な乗り物である。


 元々人力で引く荷車はあったが、非効率的だった。


 そこに、ランドマーク商会が、効率的な『リヤカー』や、『手押し車』を開発、販売して売れに売れている。


 さらにそこへ、軽量、乗り心地抜群の画期的な馬車を売り出し、常に最先端の商品を提供し始めている。


 三輪車もこの数か月の間に、王都の人々の目に多く触れて慣れてくると、特に人力タクシーは利用され始めている。


 今では小回りが利き、馬車とはまた違った乗り心地の良さがいいと評判になっていた。


 軽運送の方も馬車ではコストがかかる少ない量の配達に向いている為、中小の商会が、進んで『ランドマーク軽運送』と契約を交わして、配達をお願いしている状況になってきている。


 この数か月でこれらが王都中を走っている為、交通規則にも変化が起きつつあったのだ。


 馬車はこれまで、左側通行であり、その車線の真ん中を堂々と走っていたが、これを二車線に分け、右側を馬車が、左側を三輪車や人力車が通る。


もちろんその左側車線は馬車や三輪車を停車させる場所でもある。


 理由は、停車している馬車や三輪車、人力車を避けるのに三輪車の方が小回りが利いて避け易いからというもので、馬車が走る時は右車線に寄って貰うのが無難だったのだ。


 これらは三輪車の登場したこの数か月の間に必要に迫られて自然に交通規則が出来つつあったのだが、国も早速、その話し合いが行われ、今ある暗黙の了解になりつつある交通規則を正式なものにする事で決定したのであった。


「うちの三輪車の登場で、王都の交通規則が変わるなんてね」


 リューは、ここまでは考えていなかったので、国を動かす事になって、少し驚いていた。


「馬車もランドマーク製が主流になって来てるし、リヤカー、手押し車、三輪車もランドマーク製だから誇らしいわね!」


 リーンもリューの発明があってこその影響なので鼻が高かった。


「そうだね。でも今回の三輪車の機動部分は開発部門のマッドサインのお陰だから。僕が提案して彼が形にする。それがいい方向に向かっているよ」


「そうね。マッドサインは爵位を返上してまでうちに来たり、普段からの言動も突飛だけど、貢献度は高いわね」


 研究室に籠って時折独り言や、奇声を上げて開発に勤しんでいるマッドサインの様子を思い出しながら、リーンは高く評価した。


「マッドサインは、いろんな分野に造詣が深いからね。今も僕が提案した『カタナ』について鍛冶屋の職人達と研究を重ねているよ」


「ああ、今までの剣と違って切れ味が良くなるのよね?」


「うん。技術力の問題でどうかなと思ったんだけど、うちの職人達もマッドサインに劣らないくらい熱心だからね。良いものが出来そうだよ」


 リューの前世での中途半端な知識が、マイスタの街の一流の職人と、優秀な頭脳を持つマッドサインを刺激して新しいものが沢山生まれそうであった。


「じゃあ、その『カタナ』が出来たら、今度はうちは武器商人になるのかしら?」


 リーンが物騒な事をリューに聞いてきた。


「あはは……。武器の類に関しては、うちの兵隊の強化が中心かな。本家のランドマーク家の領兵にも持たせる事になるかもしれないけど。今は、他所に売るつもりはないよ」


「そうなのね?安心したわ。リューの作った武器を敵が振るう様は見たくないもの」


「一応今は、包丁とかに『カタナ』の技術を入れて生活をより豊かにするのが目的だから。うちの兵隊が強いに越した事はないけどね。他にも武器に関してはマッドサインと話し合いを重ねてるけど、物騒だからこの話止めようか」


 リューは、通学の馬車の中で話す事ではないと思って中断するのであった。


「ほら、うちの学生が、ランドマーク商会の人力タクシーで登校してるわよ?」


 リーンが、話を変える為か、馬車の窓から見えた光景を口にした。


 そこには、王立学園の制服を着た生徒が人力タクシーの後ろの席に乗って、汗を拭っている光景だった。


「遅刻しそうだから人力タクシーを利用した感じかな?」


 リューが本来の利用法の一つである事に満足して頷いた。


「この時期、パーティーが多いから、楽しみ過ぎて寝坊したのかしら?」


「そんなところかもね。気軽に利用して貰えてるみたいで良かった。それに人力タクシーや、軽運送にはもう一つ目的があるし、この感じなら大丈夫そうだ」


「目的?」


「みんなが利用すれば生活に馴染んでいく。沢山の人が利用する事で、誰がどこまで移動したか、何がどこにどれだけの物が運ばれたか。その情報もランドマーク家に上がってくる事になるでしょ?そうするとその情報が武器になるんだ。誰がどこに出入りしているとかね。聖銀狼会の件で、人の移動にも注目しないといけないと思ったんだ」


「あの件では、うちの縄張りに隠れていたのは盲点だったものね……。これからは移動に人力タクシーや軽運送を利用して貰ったら、情報がうちに筒抜けになるのね。確かにそれは本家にもうちにも有利に働くわ」


 リーンもリューの目的に納得した。


「馬車も運搬目的の大きくて丈夫なものを作っているから、それが出来たら、また、お父さんに軽運送部門だけでなく、王都内外でも活躍する本格的な運送部門を作らないか提案してみるよ」


 リューは、本家であるランドマーク家の発展に寄与する為に動いているのだが、それが、王都の表(ランドマーク商会・ミナトミュラー商会)と裏(竜星組)で多大な影響力を持つ事になるとは、あまり想像していないのであった。

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