第324話 塞がれた穴の謎ですが何か?

 エラインダー公爵の御用達商会の会長は、秘密の作業が局地的な地震によって台無しになった事を報告で知る事になった。


「地震だと!?くそっ!完成間近だったのに何たることだ……!──それで、どのくらいの被害が出た?復興するのにどのくらいかかる?地上の作業をこれ以上引き延ばすのも限界が来ているのだぞ!」


 会長は愕然として、被害状況を確認した。


「それが……、現場の者の報告では、全て崩落して埋まってしまったようです。一からやり直すどころか、一度、崩落してしまっては、地盤が緩くなっているので掘り直すのも無理かと……」


「はぁ!?今、何といった!?全て……、全てだと!?」


 部下の最悪の報告にまだ、現実が追いついて来ない会長は、混乱した。


「ちょっと、待て……。九割近くは完成していたのだぞ!?それが全てなわけがあるまい!あれだけ建築素材も贔屓にしてやってる商会を外しても良い物を選んで使用したのだ!それがどうやったら全て崩落すると言うのだ貴様!?」


「それだけ、現場で起きた地震が大きかったという事かと……」


 部下も原因が地震としか聞いていないだけに、そう報告するしかなかった。


「……マズいぞ、実にマズい……。この仕事は、あの方直々のご依頼だったのだ。それが、こっちでは全く揺れていない地震で全て崩落して埋まりましたなどと報告してみろ……。直々の依頼に対して手抜き作業を行っていたと思われるのが関の山だ……。どうしてこうなった……!」


「建材を発注した下請けの商会の責任にしましょうか?」


 部下が頭を働かせたつもりか、そう提案した。


 それは、建材である加工済みの石材を出荷したミナトミュラー商会の責任にするという事である。


「馬鹿か貴様!この計画は、うちとあのお方の間で行われた契約だ。他所の業者が絡んでいたなどと言えるものか!ましてや、この地下道は表沙汰にはできない代物。下請け商会の責任にして、問題を公になどできるものか!」


 会長は、浅い考えの部下を叱り倒した。


「申し訳ありません!……現場の人材は幸い怪我人だけで済んでいます。もう一度工期を頂ければ他の場所に作り直しを──」


 部下が提案したが、その声を会長は遮った。


「馬鹿者!もう、城壁補修工事は終わってしまうわ!何度もあんな機会があると思うな!──いっその事、現場の人間が生き埋めになって大きな被害が出ていれば、あの方の同情を誘う事も出来たかもしれないのに……!」


 会長は物騒な事を言い出した。


 部下もその言葉には愕然として、返す言葉が出てこない。


 そして、会長は続けた。


「……現場の者達は今、どうしている?」


「は、はい。今は、現場の屋敷に留めて次の指示を待っているところです……」


 部下は、不穏なものを感じながら、答える。


「……そうか。とりあえず、その事を含めてあの方に報告をせよ。隠し通そうとしても最早不可能。報告して判断を仰ぐしかないだろう……」


 会長は、徒労感に襲われながら部下に命じた。


「……会長。現場の人間はどうなるのでしょうか?」


「……聞くな。全てはあの方の判断次第だ……」


 会長は考えたくもないと思ったのか、部下の質問に耳を塞ぐと現実から逃避するのであった。



 エラインダー公爵屋敷──


「……崩落の報告はすでに我が主の耳にも入っております」


 エラインダー公爵の執事が、御用達商会の報告に対応していた。


「そうですか……。それで現場の人間も今、例の屋敷に待機しているのですが、どうしましょうか?」


 商会の使いは、上から確認を促されていた件をそのまま伝え、判断を仰いだ。


「それならば、後は当方が引き受けます。すでに部下も動いていますので、現場の人々には遠い地で長い休養に入って貰うべく移動して貰います。ご安心を」


 執事は淡々と答えると立ち上がった。


 話は終わりという事だろう。


 だが、使いの男は、その答えが曖昧なのでしっかり確認したいと思ったのだろう、食い下がると聞き返した。


「どの辺りで休養を取る事になるのでしょうか?他の仕事も控えていますので、なるべく早く戻って貰いたいのですが?」


「……ならば、新たな人間を雇う方が良いでしょう。そちらの方が、商会の為です。会長にはそうお伝えください。それでわかるはずです」


 執事は使いの男に背を向けたまま答えると、応接室から出て行った。


「?」


 使いの男はピンとこない様子であったが、会長がわかるというなら、大丈夫だろうと、素直に商会に報告に戻るのであった。




 マイスタの街、街長邸──


「それであれは何の為の地下道だったのかしら?」


 リーンが、リューが力づくで塞いだ地下道について疑問を投げかけた。


「……それだよ。結構大が掛かりな横穴掘っていたみたいだし、何より長かったからね。相手はエラインダー公爵御用達の大商会。やはり何かを密輸する為に用意したもの。というのが一番考えられる事かな」


「それにしても王都に地下道を掘るとは、大それた事をしましたな。過去にも穴を掘ろうとして発覚した事例はありましたが、今回は城壁補修工事に便乗しての企み。用意周到だったことになります。発覚すれば、死罪もある事です」


 ランスキーが指摘する事はもっともだった。


 城壁補修工事の請負は、国が決める事である。


 どこの商会に決まるかわからない事なので、それに合わせて地下道を掘るなど最初から準備していないと不可能な作業であった。


「とりあえず、うちとの関りは地下に埋まったから証拠隠滅完了。これからはその大商会の言動も注意した方が良さそうだね」


 リューは、ランスキーに監視を任せる事にすると、中断していた書類仕事を再開するのであった。


 こうして、大商会の目的がわからない地下道を塞いだリューであったが、それはとある計画を未然に防いだ事になったのだが、その事は穴を掘った大商会さえも知らされていない計画であったから、この事により真実は闇の中に消え失せたのであった。

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