第323話 証拠は土の中ですが何か?

 マイスタの街、街長の館にて、ミナトミュラー家の大幹部に収まっているランスキーが、この日、珍しく大慌てでリューに報告に来た。


「以前にも報告をした王都西の城壁補修の石の納品の件なんですが……、やっと目ぼしい情報が入りました。若、報告が遅れてすみません!」


「あー!そういう仕事あったね。ランスキーにはランドマーク本領に出張させたり忙しかったから仕方ないよ。──それで何がわかったの?」


 城壁補修の石の納品の件とは、ミナトミュラー商会が下請けとして、受注した仕事であるが、その請け負った相手商会がエラインダー公爵の御用達商会であり、注文された石が、城壁用とは思えない小さいもので、使い道がよくわからないまま納品した為、ランスキーが不審に思い、リューに報告したのだ。


 リューは使用目的を明確にする為に、ランスキーに調べる様に命令していたのだが、今年に入って色々起き過ぎて調べるのも後回しになっていたのだった。


「実は、こちらが納品後、相手商会は、使用目的を明らかにする事なく、その後の行方も有耶無耶にしてました。それどころかうちも人を使って、尾行したり、買収して情報を引き出したりしたのですが、わかったのは西の城壁付近の大きな屋敷に持ち込まれて行くという事を確認しました。やはり、城壁に使われる為ではないようです。そして、納品した大量の石は屋敷に入っていくものの、その使用目的はわからないままです」


「わからないまま?」


 リューは、ランスキーのあまりの半端な報告に首を傾げて続けた。


「それって、その屋敷の壁の補修とか、新しい建物を敷地内に建てるとか確認できないってこと?」


「……へい。うちが納品した加工済みの石は、それこそかなりの量でしたので、屋敷内に持ち込まれたら、溢れ出てしまいそうなものですが、その様子が無いんです」


 ランスキーも自分の報告が不可解である事を理解した上で説明した。


 ランスキーは、不可解だからこそ、リューには早く報告しないといけないと思った様だ。


「……それは、奇妙な話だね……。──ランスキー、その屋敷から持ち出されるものはあるのかな。うちが納品した加工済みの石以外で」


「それなら、屋敷の裏に小高い土の山があって、それを連日、切り崩しては王都の外に運び出しているという報告が……。──あ!まさか?」


「……うん、そのまさかだね。多分、その屋敷の地下に穴が掘られている可能性が高いと思う。うちの納品した石は、地下を整備する為に使用されていると見ていいかも……」


「しかし、何でそんな穴を掘る必要が……?」


 ランスキーが疑問に思うのも当然である。


「西の城壁の補修工事は、長引いているって言ってたよね?」


「へい。人件費を多く出させる為に長引かせているのではと、噂が立っています」


 リューは、考え込む。


 これらを結び付けて考えると、地下の作業を気づかれない為に、上でその間作業して、誤魔化している可能性がある。


 という事は、西の城壁の下を地下道が通っているという事だ。


 何が目的かはわからないが、うちがその地下道の建築材料を納品しているのはマズい。


 リューはそこまで考えると、リーンとスード、ランスキーを連れて外に出かける事にした。


「若、どこに行くんで?」


 ランスキーが馬車の準備を早々にすると、リュー達がそこに乗り込み、ランスキーも同乗すると質問した。


「そうだね……。西の城壁補修箇所までお願い」


 御者は、リューの声に馬車を走らせる。


 ランスキーは驚くと、リューに確認する。


「若、まさか現場に乗り込むんですかい?明確な証拠が上がっていないのに、流石にそれはマズいかと……」


「大丈夫だよ。”表立って”問題を起こす気はないから。死人が出るかもしれないけどね」


 リューは不吉な事を言う。


「ならば、人を集めますよ?」


 ランスキーは、リューが現場に乗り込む気だと早合点して、部下を集めようと走る馬車を一旦止めてから降りようとする素振りを見せた。


「ランスキー、大丈夫だよ。人を集めないといけない様な事はしないから。問題を大きくしたらうちも納品した商会の一つとして巻き込まれる可能性があるからね。穏便に済ませるよ」


「ですが、死人が出るというのは穏やかな話では……」


 ランスキーがなお食い下がろうとした。


「ランスキー!リューが大丈夫って言ってるの。信じなさい」


 黙って横で聞いていたリーンが、ランスキーを注意した。


「へい、すみません……。姐さんの言う通りです……。若を信じます」


 リーンに注意された事で、ランスキーは疑った自分を恥じたのか、反省するとリューを信じる事にするのであった。



 王都西の城壁補修場所は、多くの労働者が、積み上げた大きな石を撤去したり、交換したりと作業を行っている。


 ただ、その動きは緩慢で適当にやっているのはランスキーの指摘通りだった。



「ランスキー。ここから、その問題の屋敷と、この補修場所を線で結んだらどの辺りに抜けると思う?」


「そうですね……、あっちからあの辺りを抜ける感じでしょうか?」


 城壁の外からランスキーは、リューに聞かれた事に指さして答えた。


「リーン。その辺りの地面から音とか気配感じられる?」


 今度はリーンにリューは確認する。


「ちょっと待って。──そうね……。ランスキーの言う辺りの、地面の深いところから音が聞こえるかも……。多分、空洞があるわ」


 リューはリーンに深さを細かく確認すると、今度は地面に手をかざした。


 そして、


「土魔法『土中崩壊』!」


 と、リューが詠唱し魔力注ぐと地鳴りがして大地が揺れ始めた。


「地震か!?」


 作業員達は慌てて作業中の城壁の傍から離れる。


 結構な時間、大地は揺れて地面の一部が線を引く様に凹んだ。


「手応えはあったから、大丈夫」


 リューは、額に浮いた汗を拭うとニヤリと笑った。


「もしかして……、地下を埋めたんですかい?」


 ランスキーは、この桁外れの事をやったと思われるリューに確認する。


「厳密には崩落させた感じかな。地下の作業員に逃げる時間は結構与えたつもりだけど、もし、それで逃げてなかったのなら自己責任かな」


 リューはそう告げると、馬車に乗り込みマイスタの街に引き返すのであった。

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