第322話 魔法士爵ですが何か?

 ジーロをランドマーク家の与力として爵位を王家に求めると、返事はすぐにランドマークビルのリュー達の元にやって来た。


 王家としては、今回の南部派閥問題において、王家直轄地が増えた事で代官を含め人員を派遣しなければならない。


 そこで、困るのが新たな王家直轄地までの距離である。


 南部までは、片道約一か月はかかる。


 だが、ランドマーク家に助力して貰えば、ランドマーク領まで一瞬であり、そこから数日で新たな直轄地まで行ける事になる。


 そうなれば、問題のいくつかもすぐに解決するというものだ。


 そのランドマーク家が、与力の為に爵位を求めるのであれば、王家としては喜んで爵位の一つや二つというところであろう。


 それに、ランドマーク家は与力のミナトミュラー家を含めて、大のお気に入りである。


 ジーロも一度、顔を合わせて好男子である事もわかっている。


 だからこそ、王家は即決でリューに続く年少のジーロへの叙爵をすぐに認めたのであった。


 ジーロはまだ、学校に通っている為、リューがランドマーク本領まで使者を送る事にした。


 使者はリューの能力である『次元回廊』に面食らっていたが、ランドマーク家が用意した馬車に乗ってスゴエラ侯爵領のジーロが通う学校まで向かい、その宿舎で簡易的な叙爵式が行われた。


 リューに続いて兄弟で異例の成人前の叙爵に、ランドマーク本領はもちろんの事、ジーロが通う学校でも大騒ぎになったらしい。


 ちなみに次男ジーロは、魔法士爵に叙爵された。


 これは、前回リューが魔法士爵に推されたのを父ファーザが騎士爵に拘って断った為、王家の顔を立てて魔法士爵を受け入れた形であった。


「まさか、うちの子達が、こんなに早く叙爵されるとはな……」


 父ファーザはリューの当時を思い出して感慨に耽った。


「ジーロお兄ちゃんは、突然の事で面食らってたけどね」


 使者と一緒に学校まで同行したリューは、ジーロに事情を説明してから、すぐにその場でジーロは叙爵された為、慌ただしかった。


 それだけにジーロとしては、驚く以外に感情のやり場が無かったのも仕方がなかった。


 だが、叙爵されると、すぐに気を引き締めて顔つきが変わったのも、次男ジーロらしい。


「そうか。ジーロは気を引き締めていたか……」


 父ファーザは母セシルと肩を寄せ合うと、ジーロの叙爵を改めて受け止めた。


「うちの子供達は本当に手のかからない、良い子だわね」


 母セシルも独り立ちしていく子供達に思いを馳せると寂しそうな顔をすると続けた。


「あとはハンナだけど……。──ハンナ、あなたはゆっくりで良いわよ」


 傍にいたハンナを抱き寄せると、背中を軽くポンポンと叩いてそう諭した。


「私はずっとこの家に居たいな」


 ハンナが、そう答えると、父ファーザはその言葉が嬉しかったのか、


「ずっといて構わんぞ。お父さんのお嫁さんになるか?」


「それはいい」


 ハンナは、即答する。


 それには、その場にいた母セシル、長男タウロ、そして、リューは目を見合わせると大笑いするのであった。


「……昔はお父さんのお嫁さんになるって言っていたのにな……」


 そうぼやくと父ファーザだけが悲しそうな顔をしていた事は言うまでもない。



 旧モンチャイ伯爵の領地の一部がランドマーク家に移譲された。


 これが、賠償金の一部という事でもある。


 だが、移譲された一部の土地というのがモンチャイ伯爵の領都が含まれていたので、ランドマーク家にとっては、想像以上の大きな財産になる。


 なにしろランドマーク領都よりも数倍大きな街である。


 そして、それがジーロに任せた土地であった。


 ジーロは叙爵によって、もちろん家名も与えられた。


 ジーロ・シーパラダイン魔法士爵である。


 これにより、旧領都モンチャイから、シーパラダインの街に変更された。


 やはり旧伯爵の領都だけあったので、人口もその街だけでランドマーク本領と変わらない規模である。


 ランドマーク伯爵家の弱点は急速に増えているとはいえ、まだまだ少なかった人口だけに、これはかなり嬉しい事であった。


 ジーロが学校を卒業するまでは、代官を立てなくてはいけないが、それはギンが引き受ける事になった。


 ギンとは、ランドマークビルの管理者であるレンドの部下で、強面だが仕事が出来る為、リューも欲しがった人材である。


 それまでは、王都内のランドマーク商会関連の支店を統括していたが、これによりシーパラダインの街の代官として、人事異動する事になった。


 そのギンは、この後、ジーロの執事に収まる事になるのだがそれはすぐの事である。


「ついにジーロお兄ちゃんも魔法士爵か……!僕も負けてられないなぁ」


 リューは気合を入れるのであったが、


「ジーロが任された街は大きいんでしょう?大丈夫かしら?」


 リーンが、ジーロを心配してか、そう指摘した。


「大丈夫だよ。ギンが代官としてシーパラダインに入ったし。まあ、そのギンも最初は大変だろうけどね」


 リューも、ちょっと心配した。


「ギンも大変ね。王都から、南部に飛ばされたのだから。普通なら左遷じゃない?」


「ちょっと、リーン。あっちは確かに田舎になるけど、元伯爵領の領都だった街の代官だから、今まで以上に遣り甲斐がある仕事だと思うよ。ギンもやる気満々だと思う」


 リューに期待されたギンは、新たな街で旧モンチャイ伯爵領の住民としての誇りもあった住民の統治に苦労する事になるのだが、王都でのやり方、というより、リューのやり方を参考にして、シーパラダインの街をうまく治める事になるのであったがそれはまた後の話であった。

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