第321話 派閥問題ですが何か?
ランドマーク家独自の派閥作りの提案は、さすがのリューも父ファーザに進んで薦めるわけにはいかなかった。
それ程までにスゴエラ侯爵派閥に所属する事のメリットの方が大き過ぎたのだ。
スゴエラ侯爵の庇護下に入っているという事は、他所から手を出されても、スゴエラ侯爵が守ってくれるという事だ。
これはかなり重要な事で、ランドマーク家にこれまでトラブルらしいトラブルが無かったのは、スゴエラ侯爵の威光が輝いていたからである。
リューもそれはよく理解していて、スゴエラ侯爵の派閥に所属していたからこそ、『コーヒー』にせよ、『チョコ』にせよ、成功しても周囲から圧力をほとんど感じる事無くやってこれたのだ。
もし、派閥に入っていなかったら、その成功に群がってくる貴族達は今以上にあったはずだと考えているし、それは確かであっただろう。
そうなれば、嫌がらせも圧力もあっただろうし、そうなっていたら、ぽっと出の辺境貴族であるランドマーク家は簡単に成功だけ奪われ、潰されていたかもしれない。
ランドマーク家にとって、スゴエラ侯爵派閥にいる事はそれだけ大きな利点しかなく、居心地が良い場所であった。
そして何より、信頼関係は何物にも代えられないものがある。
スゴエラ侯爵家には、取り立てて貰った恩義があり、主従の関係は変わらないという思いもある。
それだけに、スゴエラ侯爵からの提案は、父ファーザにとっても、即答できるものではなかった。
「どうしたものか……。スゴエラ侯爵には、今回、庇護を願いにいった貴族達と派閥を形成せぬかと提案はされたが……」
「……ランドマーク家は、伯爵の地位にありますが、現状としてはその地位にはまだ追いついているわけではないです。派閥を形成すれば、それは多分、国内一の弱小派閥という事になると思います」
リューは、父ファーザにランドマーク家の現状を伝える。
そう、王都内の商売で成功を収めたとはいえ、現状、まだ、山を登り始めているところで、それはまだ中腹といったところだ。
領地経営だけで言うと、ランドマーク家はそれなりの勢いがあるが、伯爵に相応しいかというと、まだまだであろう。
まあ、急速に伸びているから、単純に他と比べるわけにはいかないのだが、まだ、発展途上なのは確かである。
そんな貴族が、派閥の長になるという事は、正直無謀にも思えた。
「──それに現在、南部には派閥が他にもあり、急に新興勢力が出来ると快く思わず、うちが袋叩きにされる可能性が高いかと……」
「うーん……、確かにな……。だが、侯爵はこれ以上、自分の勢力を大きくするつもりはないから、元南部派閥の貴族達を受け入れるわけにはいかないそうだ。かと言って見捨てる事も出来ない。それに、ランドマーク家はこれからも大きくなっていくだろうから、それならばランドマーク伯爵家を中心に新たな派閥を作って貰い、そこに庇護を求める貴族達を集結させた方がよいだろう、との事だった」
「スゴエラ侯爵もとんでもない提案をしてきたね」
長男タウロが、呆れて見せた。
「そう言えば、南部派閥の長であった侯爵の没収された領地と、一部貰う事になっているモンチャイ伯爵領の残りの領地はどうなるのですか?」
リューは、ランドマーク家にとっても一部領地が接する土地がどうなるのか気になっていた。
「それは没収した王家の直轄領になるようだ」
父ファーザは、当然とばかりに頷いた。
「……という事は、大丈夫かもしれないです」
リューは、ホッとした表情を浮かべた。
ランドマーク家は王家の覚えよろしく、結構気に入られているはずだ。
まして、直轄領が隣接しているとなると、味方領地が傍にある様なものである。
なんなら、直轄領の統治について協力する姿勢を取っても良い。
もし、他の南部派閥から袋叩きに遭う事態になっても、王家直轄領が隣接していたら助けを求めやすい。
スゴエラ侯爵も助けてくれるだろうから、新興の派閥でもやっていける可能性は高いだろう。
リューはここまで説明すると、父ファーザと長男タウロは、安心した表情を浮かべた。
「……そうだな。マミーレ子爵や、ブナーン子爵などの知った仲の貴族達を見捨てるのは心苦しいと思っていた。ここは腹を括ってスゴエラ侯爵の提案を受け入れるべきかもしれないな」
父ファーザもその気になっている。
「お父さん。僕も全力で支えるよ!」
長男タウロも嫡子として、支える覚悟を口にした。
「僕も与力として支えるし、ジーロお兄ちゃんもいる。それに今年は執事見習のシーマも学校を卒業して帰って来るから大丈夫だよ!あ、でも、お父さん。旧モンチャイ伯爵領の一部がうちの領土になるのなら僕以外の与力を増やして任せた方が良いと思う」
「リュー以外の与力か……。そうなると候補になるのは領兵隊長をずっと務めてくれているスーゴが実績的にも第一なのだが……」
というのが父ファーザの考えであった。
試しに本人を呼び、打診してみると……、
「嫌ですよ、そんな面倒臭い事!俺はランドマーク家の領兵隊長の地位を気に入ってやってるんです。与力に推薦されても受ける気は毛頭ないですよ!」
と、即答でスーゴは断って来た。
「そこをなんとかだな……」
父ファーザもスーゴを説得しようとするが、スーゴは頑として聞かない。
能力的には、執事のセバスチャンというのもあるが、そうなると今度はランドマーク本家が立ち行かなくなる可能性が高い。
彼も、ランドマーク家には必要な人材である。
それにセバスチャン本人が、
「私はランドマーク家にお仕えする事を第一としております。それにもう年です。孫のシーマが、執事を引き継ぐまで頑張りますが、与力など到底無理なお話です」
と、こちらもきっぱり断った。
「……そうなると、やっぱりジーロお兄ちゃんだよね」
リューが一番の可能性を提案した。
「だがジーロは、まだ学生だ。学校生活はあと一年残っている。それを辞めさせる気はないぞ」
これには父ファーザが反対した。
「卒業したら与力として爵位を王家に求めるつもりだったんだから、今から与力として指名しても良いんじゃない?旧モンチャイ領を与えて今は代官を立てておけば良いと思う」
リューが説得すると、父ファーザは考え込んだ。
「いいんじゃないかなお父さん。リューも準男爵として頑張っているわけだし、ジーロも大丈夫だと思う」
長男タウロはリューに賛成した。
「……とりあえず、セシルにも相談してみるか」
父ファーザは妻の名を出して即答を控えたが、すぐにセシルが賛同したので、ジーロを与力に指名し、王家に爵位を求める事にしたのであった。
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