第320話 厳罰ですが何か?
王都では南部派閥の長である侯爵とそのランドマーク伯爵を貶めるべく動いていたモンチャイ伯爵、それに加担して自領の兵士を出していた貴族達の処罰が行われる事になった。
連日、ランドマーク家の提出した証拠の数々と、捕らえた被疑者達の自供により、裏付けは取られていたから、短期間で処罰が下ったのだ。
まず、派閥の長である侯爵の領地没収が決定すると、これには王都にいる貴族達は大いに驚いた。
地方の貴族派閥は治外法権が暗黙の了解で認められている部分もあり、王家に忠誠を誓っていれば、大きなトラブルになる事もなかったのだ。
もちろん、貴族同士の私闘は禁じられていたが、実際、王家の目が届かない地方では度々貴族同士の争いは起きていた。
だが、王家にその情報が知らされる頃には、決着がついて両者口裏を合わせる事もあり、処罰まで行く事はなかったから、領地没収という重い処罰には王家が今回の事を重く受け止めている事を意味する。
それはそうだ。
ランドマーク家の伯爵への昇爵に不服があった事から今回の問題は起きている。
昇爵させたのはもちろん、王家である。
それはつまり、王家の判断を否定する事になるのだ。
だからこそ、王家の権威を軽んじる重大な事件として重く受け止めて、今回の処罰に至ったのであった。
当初王家は、爵位の剥奪も考えたのだが、南部派閥の長である侯爵は、王家への忠誠を代々誓い、過去の実績も大いにあるのも事実であった。
その為、降爵(爵位を下げる事)に留まる事にした。
侯爵は子爵にまで落とされ、そして北部に転封となった。
ただし、彼には引退勧告がなされ、子爵の地位は息子が相続する事になった。
そして、現場で直接指揮したモンチャイ伯爵は、爵位の剥奪により、領地はもちろん没収。平民へ落とされ、事件の責任を取って、一部財産の没収となった。
全財産没収を免れたのは、ランドマーク伯爵側による嘆願があったからと言われている。
モンチャイ元伯爵はランドマークの温情に感謝する事はなかったが、一族の一部の者はランドマーク伯爵に感謝した。
どうやら、モンチャイ元伯爵は一族の者からはすでに見放されてしまった様だ。
そして、今回関わっていた他の貴族達はこれも、被害者であるランドマーク家の嘆願により、賠償金を支払うのみで処罰は避けられる事になった。
関わった貴族達は、長であった侯爵やモンチャイ伯爵の末路を知って震撼し、賠償だけで済んだ事に胸を撫で下ろす事になった。
ちなみに、今回の被害者であるランドマーク伯爵家は、まだ不足と思われていた領地の一部として領境を接していた旧モンチャイ伯爵領の一部を与えられる事になった。
これはまた、問題が起きる原因の一つになりそうな気もするが、その周囲の領境を接する貴族は、ランドマーク家に恩義があるマミーレ子爵や、ブナーン子爵、密かに借金をした上に領地改革まで手伝って貰った貴族達が多く、今回の様にまた、問題が起きる事はそうそうないかもしれないと思えるのであった。
実際、この処罰が行われ、南部派閥の解体が決まると、その傘下にあった貴族達の一部は、ランドマーク伯爵家を訪れ、傘下に入りたいという申し出が行われた。
これには父ファーザも、意外だったのか驚きを隠せなかった。
そこですぐに、家族会議が開かれた。
「──お父さん、うちはあくまでもスゴエラ侯爵派閥の一貴族。ここは、スゴエラ侯爵に話を通して、彼らの派閥入りを勧めてはどうでしょうか?」
長男タウロがもっとも現実的な提案をした。
「僕もお兄ちゃんに賛成です。今の伯爵家があるのもスゴエラ侯爵の庇護下にあってこそ。それを忘れてはいけないです」
リューも、兄タウロに賛同した。
「それはもちろんだ。私もその思いは変わらん。だが、スゴエラ侯爵が受け入れてくれるかどうかだな……」
父ファーザは意味深にそう答えた。
「何か問題でもあるんですか?」
リューが、聞き返した。
「スゴエラ侯爵が最近、『うちの派閥も大きくなり過ぎた。これ以上大きくなると身動きも取れなくなりそうだ』と、言っていてな。あまり勢力が大きくなって力を持ち過ぎる事を危惧しておられた……」
スゴエラ侯爵の言う事ももっともだ。
大きすぎる勢力は危惧される。
例えばエラインダー公爵派閥がその例の一つである。
スゴエラ侯爵本人に、野心は無く、王家への忠誠も変わらずあるが、代を重ねていけばそれが変貌していく可能性は大いにある。
強い権力を持つと、奢る者は必ず現れるものだからだ。
スゴエラ侯爵はとても優れた人物だけに、王家とこの国の未来を考え、大きすぎる派閥になる事に懸念があったのだった。
「ですが、お父さんを頼って来た人達です。見捨てるわけにもいかないです」
兄タウロが、父譲りの人の良さで父ファーザに進言した。
「そうだな……。スゴエラ侯爵には提案しておこう。私も頼ってきた者を見捨てるのは忍びないからな」
人の良い父ファーザは、タウロの意見に頷いた。
リューは何となくだが、スゴエラ侯爵が父ファーザから進言されたらどう答えるかわかる気がした。
だが、憶測でしかない。結果を待つとしよう。
父ファーザはすぐにスゴエラ侯爵の元に、貴族達を代表して訪問した。
そして、父ファーザはスゴエラ侯爵の元からすぐに帰って来た。
あまりに早い帰郷に、兄タウロも驚き、運搬の為、朝からランドマーク領を訪れていたリューも、早すぎる帰郷に何かあったのかと、驚いた。
「リューも、来ていたか、丁度良かった……。大変な事になった!スゴエラ侯爵の提案で、ランドマーク伯爵家は独自の派閥を形成して、スゴエラ侯爵派閥との同盟関係を結ぶ提案をされた!」
「えー!?」
兄タウロは驚愕する。
それはそうだ、貴族達の庇護をお願いに行ったのに、逆に派閥を作るようにという提案は予想外であった。
「やっぱり、そうなったかぁ……、うーん……」
対してリューは予想通りだったようで、驚く反応を見せず、唸るのであった。
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