第319話 一筋縄ではいきませんが何か?

 現在の『竜星組』は、『聖銀狼会』という外敵を返り討ちにした立役者という事で、王都の裏社会での評判はより一層良いものになっていた。


 『闇商会』、『闇夜会』を傘下に収める事で王都最大勢力としての足場を固めた形であったし、『雷蛮会』の急な解散においても、下手に関わる事なくその後の縄張りについて動向を見守る姿勢も評価が高かった。


 前回の『上弦の闇』を潰した際も、仕掛けてきた事に対する報復であり、縄張りを手に入れる行動を取らなかったので、地元では『闇組織』以来の天敵関係だと思っていた『竜星組』に対し、この対応は、硬化していた関係性を少しは良くしていたから、今回の件でまた、少し評価が上がっていたのであった。


 そんな『上弦の闇』から『雷蛮会』の流れを汲む地元の縄張り問題は現在、『黒炎の羊』と、『月下狼』が争う姿勢を取っていた。


 普通に考えたら、『黒炎の羊』の方が大きいから、『黒炎の羊』に、吸収されて行きそうな気がするが、最近の『月下狼』は強引な手をあまり使わなくなっていたので、旧『雷蛮会』の地元のグループの反感もあまり買わずにいた。


 その為、『黒炎の羊』と『月下狼』は、旧『雷蛮会』の縄張り争いを互角に展開していた。


 だが、この二つの勢力が互角に争っていただけであって、当の地元のグループの一部分は、この二つの組織に反感を抱いていたのも間違いない。


『闇組織』に対抗しての三連合時代には、急接近したものの、その後仲違いした事が大きな原因のひとつで、ダメージを受けた後に自分達を吸収しようと裏で動いていた『黒炎の羊』に対する不信感、『雷蛮会』との争いに負けそうになった、以前程の勢いがない『月下狼』の両者に魅力を感じないグループも多かった。


 その為、この二つの組織を避けて、三連合以前から天敵であった『闇組織』を分裂させる形で出来た『竜星組』の傘下に入ろうとする動くグループが増えていた。


「旧『雷蛮会』の下にいたグループが、うちの傘下に入りたいって打診が増えているんだって?」


 リューは、『竜星組』マイスタ本部に足を運び、その組長室でマルコに確認した。


「はい、若。旧『上弦の闇』の流れを汲むグループもこちらに流れてきています」


「旧『雷蛮会』系と旧『上弦の闇』系か……。あの辺のグループって武闘派と言えば響きは良いけど、犯罪率高い連中多かったよね?」


「はい。特に『上弦の闇』『雷蛮会』どちらにも所属していたグループはその傾向が強いかと……」


「うーん……。うちの方針とは全く逆だからねあそこのやり方は……。若い衆ならまだ再教育で矯正の余地があるんだけど、ベテラン衆とか筋金入りの連中となるとそうもいかないから、うちの看板背負わせるのも怖いなぁ」


「どうしましょう?断りますか?」


 マルコもあまり乗り気では無い様だ。


「でも、放置したら王都の治安が悪化するだろうからなぁ……。少し『預かり』の形で様子を見てみようか?」


「『預かり』ですか?分かりました。それでは、若い衆のアントニオ、ミゲルに辺りに任せてみようかと思いますが」


「そうだね。二人は面倒見良いし、経験を積ませる意味でも任せてみようか」


 こうして、旧『上弦の闇』、旧『雷蛮会』の傘下にあったグループが二人の『預かり』になったのだった。


 二人は魔境の森でならず者と言っていいエネルギーの塊のような若い衆をまとめ上げて経験を積んでいたので、この『預かり』の連中をまとめるのも時間の問題かと思われたのだったが、『預かり』の連中はベテラン衆も多いグループだった為、一筋縄ではいかなかった。


 表面上は、唯々諾々と従うのだが、裏ではまだ、若い二人に従う事を気に入らないのだ。


 ベテラン衆は筋金入りの悪党も多く、年齢的にも悪党としてのやり方が染みつき、カタギになれない者がほとんどである。


 なにしろ『雷蛮会』解散を機にグループも解散、裏社会から足を洗おうとしたところもあったが、結局、やる事は強盗、窃盗、恐喝、強請など犯罪行為なので、結局グループを再結成したところもある。


 そんな連中が、若い世話役に従うわけがなかったのだ。


「いくら組織が解体されて、行くところが無い俺達とはいえ、『上弦の闇』、『雷蛮会』の流れを汲む武闘派で名を馳せた俺達を『竜星組』の上は舐め過ぎじゃないか?」


「あんな若いのに指図されるのは納得いかねぇなぁ」


「俺達で結果を出せばいいのさ。そうすれば、上も俺達を認めざるを得ないだろう」


「何をするんだ?」


「俺達のやり方なんて決まってるだろう?それに今は、王都最大の『竜星組』の看板があるんだ。できない事は無いぜきっと」


「そうだな。手始めに俺達のやり方で金を手に入れて上に納めれば、上も俺達が使えるとわかるだろう。そうすりゃ、以前よりも大きなグループを持たせて貰えるだろうな」


 こうして、『預かり』の一部の連中が商家を狙った恐喝、強請を『竜星組』の名で行う事になるのであった。



「アントニオ、ミゲル。最近どう?『預かり』の連中の様子は」


 リューが、改めて『竜星組』マイスタ本部に顔を出した際、丁度居合わせた二人に世間話のつもりで話を振った。


「若様、お疲れ様です!……『預かり』の連中ですか?まあ、表立って歯向かう連中はいないんですが……」


 アントニオが、奥歯にものが挟まったような言い方をする。


「何か問題でもあるの?」


 リューは話す様に促す。


「何かこちらを舐めている感じがするというか、本音は従っていないというか、中途半端な奴が多い気がします」


 ミゲルがアントニオに代わって、リューに答えた。


「……そういう連中かぁ。もしかして歳はそこそこいってる?」


「はい」


「そうか……。まあ、下手な事しないかだけ気を付けておいて。うちのやり方に従えないようなら切るしかないから」


「へい、わかりました!」


 二人は頷くと王都の事務所に戻っていく。


「大丈夫かしら?」


 リーンがリューに聞く。


「二人もまだまだ、成長途中だしね。色々苦労はして貰うよ」


 リューは笑ってそう答えるのであったが、『竜星組』の評判を落としかねない事件がこの後起こるとは思いもしないのであった。

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