第318話 みんな笑顔ですが何か?

 リューとエリザベス王女のダンスは、ことの他、盛況であった。


 リューはダンス終了後も、ちゃんとエリザベス王女をエスコートして脇に移動するところまで丁寧にやって見せた。


 すると続く生徒達もそれを参考にしてダンスを踊るのであった。


 ほとんどの生徒は、特別クラスのリューとエリザベス王女を手本とした。


 そのくらい二人が完璧に映ったのだ。


「やったわね、リュー。ちゃんと出来たじゃない」


 リーンが子供を見守っていた親の様にホッと一息つくとリューを褒める。


「そうね。ミナトミュラー君、最初から最後までとても良かったわ」


 エリザベス王女もリューを褒めた。


「本当に?王女殿下のリードのお陰で緊張しなくて自然に出来た気がするよ。ありがとう」


 リューは満面の笑みで王女に感謝するのであった。


 その後も、全員参加のパーティーは続き、立食による談笑にもなると、平民出身者の緊張も解けて、和やかに進んでいった。


「みんなちゃんと楽しんでくれているみたいだね」


 リューとリーンが、普通クラスの生徒であるト・バッチーリと談笑した後、ランス達と再合流して、そう口にした。


「そうだな。ここまで来たら成功だ」


 と、ランスが、答えた。


「お?今話していたト・バッチーリが、他の生徒に何か問い詰められているみたいだが、大丈夫か?」


 ナジンが、それに気づいてリューに指摘した。


「なんだろうね?僕とリーンと話した後は、よくああいう展開を見かけるんだけど……」


 リューが首を傾げて見せた。


 そう、いつもの恒例であるがリュー達は、まさか彼がとばっちりにあっているとは思いもよらなかったのであった。


「本人達は楽しそうだからいいんじゃないかしら?」


 耳の良いリーンは、ある程度何で揉めているのか聞こえていたので、問題にしなかった。


「リーンが言うなら大丈夫か」


 リューは、リーンの言葉に納得した。


「ところで、王女殿下は凄いな。生徒一人一人から挨拶されて休む暇ないのに、笑顔が絶えない」


 ランスが王女殿下の方を見ながら感心した。


「さすがに、慣れているね」


「でも、あれはあれで大変だと思うわ。リズも主催者として頑張ってくれているだけよきっと」


 リーンはリズに同情して答えた。


「……リズも一人の女の子だもの、疲れていると思う。ここはリュー君が代わって上げるべき」


 シズが、このパーティーで二番目に偉いリューにその役を変わる様にと提案した。


「ぼ、僕!?──そうだね……。行ってくるよ!」


 リューは、エリザベス王女のところに行くと少し話した後、エリザベス王女がリーン達のところにやってきた。


「ミナトミュラー君が代わってくれて助かったわ」


 エリザベス王女はリーンとシズにホッと溜息を吐いた。


「……リズお疲れ様。ゆっくりして」


 シズが、エリザベス王女の労を労うと、ソフトドリンクを手渡した。


「ありがとうシズ。でも、ミナトミュラー君、大丈夫かしら?」


 王女は代役を買って出たリューを心配した。


 リューの方を見ると、挨拶に来た平民出身の生徒と一緒に笑っている。


 一人一人と何やら打ち解けて話せている様だ。


「ファーザ君に似て、人たらしな部分も出て来たのかしら?あれなら安心ね」


 リーンは、リューの成長を感じたのかそう漏らした。


「ふふふ。二人は本当に仲が良いのね」


 エリザベス王女は、この親友であるエルフの美女を羨むかのように指摘した。


「リューと私は、家族だから当然よ」


 リーンもまんざらでもない様に答える。


「……二人は一心同体だものね」


 シズが、リーンの言葉に頷いた。


「俺にしたら二人の関係が不思議だけどな。ははは!」


 そこへランスが、茶々を入れた。


「今はそれで良いじゃないか。仲良き事は美しい事さ」


 ナジンが年寄り臭い事を言う。


「……ナジン君はもう少し、若さを意識した方が良いよ」


 シズが、ぼそっと指摘する。


 するとエリザベス王女は、そのやり取りをとても好ましく思ったのか声を出して笑った。


「うふふ、ごめんなさい。こうして王女としての立場で、こんな会話をする日が来ると思わなかったからおかしくなっちゃったわ。みんなありがとう」


 エリザベス王女は、やはりドレスを着ている時は、王女としての役割を徹底しているのだろう、そんな状態で緊張感のない会話に入れる事が新鮮だったのだ。


「リズも大変ね。予行演習の様なパーティーでも王女として完璧な振る舞いが求められるなんて」


「そうだな。俺達に出来る事は限られちまうが、俺達の前ではゆっくりしてくれよ」


 ランスが、王女相手に失礼な物言いだったが、温かみのある言葉だった。


「……今日みたいに犠牲になってくれる人もいるしね」


 シズが、リューの方に視線を送って冗談を言った。


「ふふふ。ミナトミュラー君にも感謝しないとね」


 エリザベス王女はシズの冗談にまた笑うと、みんなもそれに同意し、和やかな笑いに包まれるのであった。



 こうして、王女クラス主催の一年生全員参加の盛大なパーティーは、無事終わりを迎えた。


「王女殿下の苦労を今日は少し体験できたよ」


 リューは、迎えの馬車の前で背伸びすると、リーンとスードにそう漏らし、三人とも馬車に乗り込んだ。


「そう言えばリズが、リューに感謝してたわよ」


「そうなの?まあ僕は、少しの時間代わりを務めただけだけどね。主催者って本当に大変だよ」


「そのお陰でリズも良い笑顔浮かべていたわ、ありがとう」


「何?リーンまでお礼言ってくれるの?」


「これはリズの友人としてね。でも、リュー。一人一人に時間を掛け過ぎるのは良くないわ。あれは反省しないと」


 リーンが照れ隠しか急に説教モードに入る。


「えー!?でも、みんなと仲良くなれたからいいじゃない!?」


 帰りの馬車内は、リューとリーンのいつもの取り留めのない会話が行われるのであった。

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