第310話 大変だったみたいですが何か?

 南部派閥の情報は、実際のところ筒抜けになっていた。


 リューが派遣したランスキーと二百の精鋭が情報収集に力を入れていた事もあるが、それでもやはり知らない土地でもあり限界がある。


 だが、あちらの派閥の一部の貴族達から情報提供があったらどうだろう?


 今やランドマーク家に世話になっている近隣の貴族は水面下で増えており、南部派閥出身の貴族の中にもランドマーク家から借金をし、領内経営の立て直しに尽力して貰っているところは結構存在したのだ。


 そんな貴族達が、南部派閥全体でランドマーク家への嫌がらせを決めたといち早く報告する事で、恩義を返そうとする者も少なからずいたのだった。


 ランスキー達は、そんな密かにこちらに情報を流す貴族達と水面下で情報網を形成し、人手不足のランドマーク家において、領境における村同士の小競り合い(厳密には村民を装った兵士同士)を何とか互角に立ち回っていたのであった。


 なにしろあちらは、数において断然有利である。


 軍略において数を用意する事は一番の正攻法であったから、圧倒的な物量で日夜、ランドマーク側の村を脅かし続けていた。


 ランドマーク家がそれに対して互角に渡り合えたのは、物量に対し、質が格段に上だったからであるが、長期戦になるとさすがに厳しいものがあった。




「親方!若が、援軍を連れて本家に駆け付けてくれたみたいです!」


 領境の村で農民の格好をして畑を耕していたランスキーに部下が大事な知らせをした。


「!若が、来てくれたのか!?いや、待て。あっちでは『聖銀狼会』との抗争が正念場のはず……。若に無理をさせるわけにはいかんのだが……。援軍はどのくらいだ?十か、二十か?」


 ランスキーはぬか喜びをするのは避けたのだろう、他の部下の手前、敢えて少なく見積もってみせた。


「それが……、二百だそうです!」


 部下は嬉しさを隠さず、報告する。


「二百だと!?」


 ランスキーも予想外の数に驚いた。


 今のミナトミュラー家でそれだけの数を用意できるとは思えないのだ。


 それだけに、色々な意味で驚くしかなかった。


「まさかもう、『聖銀狼会』との抗争を終結させたのか?いや、だが……、それでも急に二百人もの兵隊が湧いてくるわけが……」


 ランスキーは嬉しい反面、リューが無理して用意したのではないかと心配になった。


「二百を率いているのは若本人。傍に姐さんはもちろんの事ですが、若い衆のリーダー格、アントニオとミゲル、さらにはどういう状況なのか俺もわかりませんが、新幹部だというルチーナも来ています!」


「新幹部のルチーナ……だと!?」


 豪胆でありながら、頭の回転も速いランスキーでも状況がわからず、それだけ言うと、絶句した。


 そして、間をおいて整理する。


「それはつまり……、『聖銀狼会』との抗争に勝利しただけでなく、どういうわけか『闇夜会』のルチーナも傘下に入った……、という事か……?それなら二百の兵隊も理解できなくはないが……。いや、それだと『闇商会』が黙ってないだろう?どういう事だ???」


 ランスキーは最後まで状況を整理できずに混乱した。


 あまりに不確定要素が多すぎるのだ。


「ランスキーお疲れ様!『闇商会』のノストラもうちの傘下に入ってくれたから、大丈夫だよ」


 そこに現れたのは、ランスキーが唯一認めるボスである若、リューの姿であった。


「若……!姐さん……!お久し振りです!お怪我はないですか!?」


 ランスキーは、リューとリーンの姿を眼前にしてほっとした様子を見せた。


『聖銀狼会』との抗争が本格化すればさすがに『竜星組』もただでは済まないかもしれないと、この遠い地で心配していたのだ。


 その心配の対象であるリューが、元気そうに現れてくれたから安堵するのも仕方がない事であった。


「ランスキー、そして、みんなもご苦労様。王都での抗争も終結し、『闇商会』と『闇夜会』もうちの傘下に入ってくれたからね。こうしてみんなで援軍に来たよ」


「ランスキーの旦那。お久し振りだね。あたしが来たからには、もう大丈夫さね」


 ルチーナが不敵な笑みを浮かべて、先輩幹部であるランスキーに挨拶した。


「状況がまだよくわかりやせんが、若、それではあっちは?」


「うん、全て片が付いたよ。今、あっちは街長業務を執事のマーセナルに、竜星組の仕事はマルコ、ミナトミュラー商会をノストラに任せているから大丈夫だよ」


「そうですか……。それなら良かった!みんな無事なんですね?」


「うん、大丈夫だよ。思ったより、被害も少なくて済んでね。『竜星組』もさらに大きくなってきたよ。ランスキーの仕事もこれから増えるよ。あはははっ!」


「こちらで頑張っていた甲斐がありますよ!なぁ、みんな!」


「「「へい!」」」


 農民の格好したランスキーの部下達が一斉に返事をした。


「ところで戦況はどう?あんまり芳しくないとは、領都でお父さんやお兄ちゃんからは聞いているけど」


「……へい。今は、情報と質の差で互角にやり合ってますが、圧倒的に数で負けてるので、昼夜問わない奴らの襲撃に悩まされてました。ですが、若が来てくれたのなら話は別です!」


「うん!ランスキー達は一旦休んでおいて。後は僕達が引き受けるよ。──みんな用意した農民の格好にすぐ着替えて!反撃開始だ!」


「「「おう!」」」


 新しい援軍の二百人は高い士気の元、気合を入れるのであった。

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