第311話 小競り合いのはずですが何か?

 リューが引き連れて駆け付けた二百名は、ランスキー達先陣隊と入れ替わる形になった。


 今は彼らには休養が必要だろう、という配慮であった。


 二百の内、半数は情報収集の為に南部に散らばる。


 残り半分はランドマーク家の領兵が化けた農民と一緒に同じく農民を装うのだが、変装してすぐ、領境で隣接する農村の農民達が侵入して来た。


 手には鍬や鎌、棒切れと一見すると農民の装いではあるが、動きが組織されているのがはっきりわかる。


 そして、何より数が多い。


 領境の村と聞けば、その人口は百人を下回る程度を想像するところなのだが、組織だった者が三百人近くもいる。


 あくまで村同士の小競り合いという事だろうが、この数で日中襲撃してくるのは、異常事態だ。


 もちろん、相手もこちらが本当の農民は避難させて自領の領兵で固めているのはわかりきっている。


 それでも表向きは、お互い村同士の小さい争いであり、領兵の介入は避けているという姿勢であった。


領兵が表立って参加すると、その瞬間、ただの揉め事で処理できなくなるからであった。


「早速来たね。今日は何度目?」


 農民の格好をした村長役であるランドマーク家の領兵にリューは確認した。


「今日は夜明け前に一度襲撃されたので、これで二度目です」


「じゃあ、早速、反撃するよみんな!」


 リューはみんなの先陣を切って、百人余りの農民の姿をした精鋭を引き連れて迎え撃つ。


「ついに奴ら、先陣に子供を出してきたぞ!ここまでしぶとかったが、ついに限界に来たようだ。この機を逃すな、徹底的に叩いて村も破壊してしまえ!」


 敵は子供のリューが先頭なのを人手不足と判断した様だ。


 農民の格好をした南部派閥貴族連合による精鋭部隊は、容赦なくリュー達に襲い掛かった。


 ドスッ


 リュー達に襲い掛かった敵の先陣を切っていた大男の腹部から鈍い音がなったと思った瞬間には、その男は精鋭部隊の農民達の中を巻き込む様に吹き飛んで行った。


 敵の精鋭部隊は予想だにしない想像をはるかに超える光景にその足が止まり、先陣を切っていたはずの大男がいた場所を確認した。


 そこにはやはり、一人の子供がいる。


吹き飛ばしたのは間違いようもなく、目の前の子供の様であった。


「ど、どういう事だ!?」


「待て待て……。相手は子供だ。何かの間違いだ……。そうだお前達、子供だからと言って手加減している場合じゃないぞ!チャンスなんだぞ戦え!」


 指揮官と思われる農民姿の男はそう告げると味方をけしかける。


「「「お、おう!」」」


 そう答えた瞬間であった。


 体のシルエットから女性と判るほっかぶりをした農民の一人が、棒切れで一度に先頭集団の精鋭部隊を数人突いて吹き飛ばした。


 先程と同じ様に、吹き飛ばされた先にいた精鋭部隊の者が巻き込まれて、気を失う。


 そこに、今度は色香漂うシルエットの農民とは思えない女性が同じく棒切れで精鋭部隊を数人なぎ倒した。


 この二人は、リーンとルチーナであった。


「つ、強いぞ!?朝までいたでかい男と変わらないくらいの腕利きが、三人もいる!みんな警戒しろ!取り囲んで消耗を計るんだ!」


 どうやら、でかい男とはランスキーの事であろう。


 強敵相手の戦い方も心得ている様だ。


 だが、その中でも先陣を切ったリューの戦い方は群を抜いていた。


 囲む暇も与えず、次々に敵の村民の格好をした精鋭部隊を、リューは次々に吹き飛ばしていく。


 どうやら本気の様だ。手加減する気が全く無いらしい。


 もしかしたら、怒っているのかもしれない。


「うちの大将はこんなにヤバい奴だったんだね……」


 戦闘のプロを自負していた新幹部ルチーナでさえも、先陣で戦うリューの暴れっぷりに圧倒される。


「私も、ここまでのリューを見るのは初めてかも……。多分、実家の領地を荒らされて相当怒っているみたいね」


 リーンが背中を合わせて戦うルチーナに答える。


「どちらにしても、この勢いなら今日は奴らの命日さね」


 ルチーナは、ニヤリと笑うとリューとリーンの足を引っ張らない様に他の部下達と共に気合を入れ直し、本気で立ち回る事にするのであった。

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