第308話 解散の余波ですが何か?

 王都の裏社会には、激震が走っていた。


 王都で指折りの組織である『雷蛮会』が、突然組織の解散を宣言したのだ。


 それと同時に、王都の治安を維持する警備隊本部前で解散式を行い宣誓書を提出。


 最初、半信半疑で流れた情報も、この行動で事実と理解された。


 突然、勢いだけなら王都の裏社会でもトップクラスだっただけに色々な思惑は囁かれたが、どれも説得力がなく憶測の域を超えないものばかりであった。


「なんでも、『雷蛮会』のボスが、『飽きたから、辞める』と、宣言したらしいぜ?」


「それなら、他の幹部が縄張り引き継いで終わりだろ?」


「俺の人脈で仕入れた情報では、女絡みで貴族と揉めてトラブって解散する事になったらしいぜ?」


「おいおい、あの『雷蛮会』と言えば、まだ、狂気の子供ボスの組織だろう?女絡みはないだろう」


「みんなわかってないな。もっと上さ。あの『雷蛮会』で一番噂されていたのはその尽きない資金力がどこから来てるかだっただろ?その資金が尽きたのさ。つまり、上からの資金を止められて解散に追い込まれたのさ」


「その上って、どこだよ!第一、ここまで大きくなったら、資金止められてもある程度維持出来るだろ!」


 この様な感じで、事実はわからないままであった。


 まさか、ほとんど接点が無いと思われていた『竜星組』による圧力に屈したとは、部外者どころか、『雷蛮会』の他幹部達でさえわからないでいた。


 ボスであるライバは、幹部に相談する事無く、どこからか用意した書類を手に早々に解散式を行ったから、幹部も反対意見を言うどころか気づいたら解散されていた状態であった。


 一つわかっているのは、その直前に幹部の三人が失踪した事である。


 ライバは何も語る事なく解散式を行い、すぐに王都から消えたので確認のしようもなかった。


 それに、裏社会での失踪はよくある事であり、その事を深く知ろうとすれば、余計な事に巻き込まれる事が多々なので誰も探ろうと思わないのであった。



「──で?支援元はどうなってる?」


 王都の最古の裏組織になった『黒炎の羊』のボス・ドーパーは幹部の持って来た情報に確認を取った。


「表向きは何も。あちらの部下の一人に探りを入れましたが、何も知らない様子でした」


「……どうなってやがる。上はうちと『雷蛮会』を将来的には協力させる事で、王都の裏社会を牛耳る気でいたはず。その『雷蛮会』を解散させて何が得なんだ?」


 老いてもまだ盛んな『黒炎の羊』のボス・ドーパーは、『雷蛮会』の資金が解散直後にほぼ全て消えた事に気づいて、上(エラインダー公爵)がその資金を撤退させたと勘違いしていたのだ。


「わかりやせん。ただ、上で何か起きたのは確かと……」


 幹部はデマ情報を基に推測するのであった。


「とにかくこれで、何もせずに黙って抗争を見ていた『竜星組』が、『闇商会』と『闇夜会』を吸収して、この王都で独り勝ちしそうな勢いだ。──こうしてはいられんな……。『雷蛮会』の縄張りは流石に貰っておかないとうちもどうなるかわからん」


 ボス・ドーパーは、自分の組織の悲惨な未来に危機感を抱いて動き出そうとするのであった。



 その頃、エラインダー公爵邸では、『雷蛮会』消滅の報を聞き、多額の支援をしてきた身として寝耳に水の思いであった。


「……何が起きてそうなった?」


 エラインダー公爵は、報告をしてきた部下に冷静な表情で淡々とした調子で確認した。


「……詳しくはわかりません。うちが送り込んでいる間者も突然の事に慌てて報告してきました。間者が言うには、誰に何も言わず、ボスであるライバが解散を宣言、そのまま、警備隊本部前で解散式を決行してしまい、止める暇もなかったそうです」


「……あの小僧は同じ側の人間だと買っていたのだがな、馬鹿な事を……。仕方ないあの小僧で無理なら別の者を後釜に据えるだけだ。誰か候補を用意しろ。それと、ライバにはそれなりの資金を渡してある。それは回収しておけ」


 エラインダー公爵は、当然とばかりに告げた。


「……それが、公爵様。そのライバの奴、資金を全額何かに動かした後、王都から消えた様です」


 部下は思ったより冷静な主に胸を撫で下ろして、大事な報告をした。


「……何?それはライバが持ち逃げしたという事か?」


「いえ、何か支払いに使ったようです」


「ならばその後を追え。大きな額だ、動けば移送先はすぐ発覚するだろう」


「それが、すぐ、小さい額で多数に分散してしまい追えなくなりました……」


 部下がさすがに言いづらそうに答えた。


「!──すぐにライバを見つけだせ!そして資金を何に使ったか吐かせろ!」


 平静を保っていたエラインダー公爵も、お金の事となると冷静ではいられないらしい。


 いや、自分の目的以外の事に使用される事が許せないという事だろう。


 部下は、公爵の逆鱗に触れると、急いで部屋をでるのであった。


「……それなりに投資してやったものを……。飼い犬に手を嚙まれるとはな。これではまた振り出しではないか!──おい。『闇組織』の後釜に収まった組織を何と言ったか?」


「『竜星組』です」


 室内にいた別の部下が、エラインダー公爵の質問に答えた。


「その『竜星組』のボスについては?」


「詳しくはまだ、わかっておりません。『若』と呼ばれている人物らしいので、十代後半から二十代後半の男と思われる以外には正体が判明していません」


「若い人物か……、それなら操る方法もあるだろう。──よし、正体を掴め。私にとって有益な人物か調べ上げるのだ!」


「御意!」


 部下は、すぐに使用人を呼んで命令するのであった。



 今や表でも裏でも注目の的であるリュー。


 しかし、その正体を知る者は『竜星組』の中心を担う忠臣ばかりで結束が固く、大幹部のマルコの情報でさえ入手困難であったから、エラインダー公爵の情報網でどこまで入手できるか怪しいものであった。

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