第307話 終わりですが何か?

 焦るライバ、それに対して何が目的かわからないリューの演技は続く。


「何でも『雷蛮会』は、外の裏組織を王都に招き入れたって事で、裏社会の暗黙の掟を破ったとか……。大幹部がかなりお怒りだよ?……ライバ君、とんでもないことをしたね?」


 リューは溜息を吐いて見せた。


「そ、そんな……。──あ、あれは、ハメられたんだ!」


 ライバは、一転、血相を抱えてリューに弁解した。


 全てバレている、これはライバにとっての死刑宣告みたいなものであった。


 それがすぐにわかりリューに言い訳する。


「……僕に言われても……ね?」


「頼む!お前からその親しい組長に口添えしてくれ!」


 ライバは、恥も外聞もなくひたすら憎んでいたリューに頭を下げた。


「自分の尻拭いは自分でしなよライバ君。君はこの王都の裏社会の不文律を破ったんだ。やってはいけない事をやったらそれ相応の罰を受けさせる。それがこの世界の掟だよ。いくらバックに公爵が付いていても、この裏社会では通じない事もある」


 先程までの、のほほんとした態度から一転、リューが真剣な声色でライバに警告した。


「な、なぜそれをお前が知っている!?」


 ライバのバックにはエラインダー公爵が付いているが、その事は誰にも告げていない。


 資金の流れからスポンサーがついている事は容易に想像できるだろうが、詳しくは秘密だったのだ。


 だから、一般人であるただの準男爵風情のリューの口から公爵の名が出て来た事には心臓が飛び出るのでないかと思うくらい愕然とした。


「ライバ君。この世の中、君が知らない事は一杯あると思うよ。表の世界もこの裏の世界にしても……。そして、目の前の僕が何者であるかわかっていない事も」


「ま、まさか……!?」


 ライバはリューが裏社会の関係者だと理解してその場に腰を抜かした。


 確かに学園祭でのリューの対応は、堅気のそれではなかった。


 自分の腕利きの部下達もあの時一瞬で無力化された事を考えれば、すぐわかる事だったのだ。


 リューは、『竜星組』の構成員だ!きっとそうに違いない……!


 その事実(違うのだが)に、気づいたライバはその場で動けなくなった。


 そこに、リューは続ける。


「ライバ君。おかしいと思わないか?君が連れてきた三人の幹部。元は『竜星組』の傘下の部下だよ?それを引き抜いた君が、今日、普通に大幹部に会えると思ってたの?」


「……!」


「三人とも、今日までご苦労様。今日から各自、復帰してくれていいよ」


 ライバの連れていた幹部三人は、リューにそう告げられると、


「「「へい!お疲れ様でした!失礼します!」」」


 と、答え、ライバを置いて部屋から出て行くのであった。


 この事実にライバの顔は青ざめている。


 最初から、『竜星組』の手の平の上で踊っていたのだ。


「ライバ君、以前、学祭でも言ったけど、『僕の方が少し力が上みたいだ』と、言ったでしょ?あの時君は気づくべきだったんだ。僕が君より多少力を持っている事をね。……それに気づかなかった君が悪い」


 リューは溜息を吐いた。


 そして、リューは続ける。


「自分の処分は君が決めな、ライバ君。みんなが納得する様な形に出来たなら、命は助かるかもしれない」


 リューは敢えてここでライバの運命をライバに一任する事にした。


 ライバの判断で、彼と『雷蛮会』の行く末を決めさせようというのだ。


 『竜星組』は、リューのものだが、それと同時に一つの大きな組織である。


 そこには、沢山の人間が所属していていろんな意見が存在する。


 ライバはまだ十二歳の子供だから助けたくても、裏社会ではそんな論理は通らない。それに、所属している人間達の意見も尊重しなくてはいけない。


 もちろん、裏社会の不文律も。


 それだけにリューの判断だけでライバの処分を軽くする事は難しい。


 それに、背後にはエラインダー公爵がいるから、なおの事厄介である。


 だからリューは一芝居を打ったのだ。


 ライバの意志で自分の処分を決めさせ、こちらの責任にならない様にする、その為の誘導であった。


 そうする事でエラインダー公爵との間に立つであろう波風を抑える手段を取ったのだ。


 ライバはまず、『竜星組』に上納金を毎月納めると懇願したがリューはもちろん却下した。


 次に、縄張りの半分を渡すと提案。


 これも、もちろん却下。


 バックにいるのはエラインダー公爵だから、それを強請るのを手伝う。


 そんな事をしたら抗争どころか戦争になるから却下した。


 まだ、ライバは自分の作った組織に執着している様だ。


 そこに、マルコが現れた。


「お前、自分の立場をわかっているのか?今、ここで自分が失踪するかどうかの瀬戸際だぞ?しっかり考えて口にしろ」


 と、非情な現実を突き付けた。


「!」


 ライバは、自分の甘さにそこでやっと気づいた。


 彼はどこかで、まだ、この世界での幸福な時間が続くと思っていたのだ。


 今回、たまたまつまずく事になったが、それも時間が経てば元に戻ると。


 だが、そうではない。


 遠い未来の事と思っていた、事故や病気にでも合わない限り自分には訪れる事がないはずの『死』が、今、目の前に迫っている事にようやくここで気づいたのだ。


「……『雷蛮会』の解散と、賠償金を払います……。これで許して下さい……」


 ライバは完全に死の恐怖に怯えていた。


「王都からの永久追放もだ。聞けば、わ……じゃない、このマイスタの街長にもかなり迷惑をかけたらしいな?ついでだ、街長の前にも二度と顔を出すな」


 マルコが、ライバの目を見ながら告げる。


 ライバは、何度もそれに頷く。


「よし、誰かこいつに最悪、念書を書かせとけ!」


 マルコは部下にそう命令すると、腰の抜けているライバは両方から担がれて別の部屋に連れていかれるのであった。


 こうして、ライバは辛うじて命は救われた。


 マルコがリューの顔を立てての処分であったが、ノストラ、ルチーナも奥の部屋で聞いていたのでこの処分で納得したようだった。


 ただし、これで話は終わらない。


 ライバが支払う賠償金は多額で、エラインダー公爵からの資金だけでは足りず、その請求は実家であるトーリッター伯爵家にも及んだ。


 突然息子が作った多額の借金に、トーリッター伯爵は当然ながら激怒し、息子を廃嫡して追放する事にした。


 他人になる事で借金を逃れようとしたのだ。


 こうして、権力も将来の地位も全て失ったライバは、燃え尽きたまますぐに王都から退去し、その後、南部を放浪。とある辺境の片田舎の村に留まるとショックから立ち直れず、何かに怯える様に小作人として働く人生を送る事になるのであった。

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