第306話 けじめをつけさせますが何か?
リューが本家であるランドマーク家の支援の為に兵隊を動員していると、すっかり忘れていた件が新幹部であるノストラ、ルチーナ双方の意見から浮上して来た。
それは、『聖銀狼会』を表向き王都に呼び込んだ組織の事である。
もちろん、『聖銀狼会』は自分達の企みでもって、進出を狙ってきたわけだが、その裏には『上弦の闇』の残党による王都情報の入手、そして、『雷蛮会』による手招きによって表向きの理由を得た形であった。
外の勢力を王都に引き込む行為は王都裏社会の暗黙の了解としてご法度扱いであった事から、現在『竜星組』は、『上弦の闇』の残党に徹底的に「追い込み」をかけている。
これは、『竜星組』の面子の為ではなく、王都裏社会全体の為であった。
だから、実は『竜星組』だけでなく『月下狼』も追い込みに参加している。
だから、『聖銀狼会』に情報を売った『上弦の闇』の残党は王都にはいられないだろう。
もしいたら、人生、終わりである。
そして、あとは『雷蛮会』の問題が残った。
こちらも『聖銀狼会』の手の平で踊らされていただけではあるが、それでも暗黙の了解を無視して外の勢力を引き込もうとした罪は重い。
そこにまさかの一報が届いた。
「若様。『雷蛮会』側から新制『竜星組』設立に対して祝いの挨拶がしたいと『竜星組』王都事務所の方に面会の予約を求めておりますがいかがいたしましょう?」
執事のマーセナルが、淡々とリューに伝える。
「え?詫び入れではなく?」
「はい。『闇商会』、『闇夜会』両組織が傘下に入ったお祝いの挨拶とか」
「まだ、バレていないと思っているんだね……」
リューは、苦笑いする。
だが、丁度その場には、マルコ、ノストラ、ルチーナがおり、マルコはともかくとして、残りの二人は怒り心頭であった。
「若!『雷蛮会』は、やっちゃいけねぇ事を次から次にやっていやがる。今回の件もそうだ。潰すに限るぜ!?」
普段から冷静なノストラがそう主張した。
ルチーナも同様である。
「あたしに任せてくれれば、兵隊を連れて三日で奴らの縄張りを焦土にしてみせるよ!」
二人共、過激すぎるから……!
リューは、二人の怒りもごもっともであったが、いくらうちより小さいとはいえ、あちらも王都で指折りの組織である。
それに、バックにはエラインダー公爵が付いているからこちらも無傷とはいかないはずである。
「二人共、落ち着け。『雷蛮会』のバックにはエラインダー公爵が付いているのが気がかりだ。それに今は、抗争が終わったばかり、立て続けにドンパチやると警備隊や騎士団が確実に動く事になるから控えてくれ」
マルコがリューに代わって代弁してくれた。
だが、ノストラとルチーナの思いも理解できる。
二人の組織の兵隊には死者も出ていたから落とし前は付けさせないといけない。
あとは、自分の決断次第である。
「……けじめはつけさせよう」
リューは、そう口にすると、マルコに面会に応じる様に告げ、ひとつライバに対して茶番を演じる事にするのであった。
翌日の『竜星組』王都事務所──
そこにはライバと三人の幹部が面会を求めて応接室で待機していた。
「くそっ。『竜星組』の組長には会えないのか……!?」
ライバが、『竜星組』の傘下から引き抜いた幹部三人にもう一度確認する。
「大幹部に会えるだけでも、幸運ですよボス。大幹部のマルコ氏も普段、その居場所を掴むのも難しいくらいですから、今日はかなり付いている方かと」
「……『雷蛮会』の会長である俺でも会えないのか……。仕方ない、今日はその大幹部のご機嫌を取って人脈作りしておこう」
ライバは祝いの品として、お金も用意してきている。
用意は万端であった。
そこへ、使用人が呼びに来た。会ってくれるようだ。
「よし、行くぞ野郎共」
ライバは、使用人に案内されるまま、大幹部マルコのいる部屋の前に通される。
そこへ部屋から自分達の前に面会してたであろう人物が出て来た。
その人物にライバは驚いた。
「何でお前がここに居る!?」
ライバが問い質した相手はリューであった。
「?ああ、ライバ君久しぶりだね。君こそ何でここに居るんだい?僕は、ここの組長とは仲が良いから(というか本人だけど)今日は挨拶にね」
「な!?俺は会って貰えないのに、お前には会って貰えるのか!?というか中に組長がいるのか!?」
「もう、出て行っていないよ。(ここにいるけど)それより、ライバ君、何で君がここにいるのかな?関係者以外、入って来ちゃ駄目だよ?」
リューは、抜け抜けと答える。
「俺は、王都の裏社会では有数の泣く子も黙る『雷蛮会』の会長だ!今日は『竜星組』の大幹部マルコ氏と面会なんだよ!」
「ああ、君が!──組長がおいたが過ぎるから、けじめをつけさせないといけないって、言ってた相手って君なんだね。(言った本人だけど)」
「え!?」
ライバは思いもかけないリューの言葉に凍り付いた。
今日は、祝辞を述べに来たのだ。
そんな話は聞いていない。
「どうしたらいいか相談されたから、そのボスの首を切って据え替えるのが利口じゃないかと言っておいたのだけど……。君が、ボスだったのか……これは困ったなぁ」
「何でそうなる!」
ライバは、思わずリューに噛みついた。
ライバは理由が見つからないのだ。
もちろん、『聖銀狼会』の件はバレていないと思っての話だが。
ライバは自分が『雷蛮会』の会長を下ろされる危機にある事に激しく動揺を見せるのであった。
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