第303話 三倍近くですが何か?

 リューは、両者の申し出に困惑した。


「あの……お金なら貸しますよ?」

 

 『闇商会』と『闇夜会』の財政状態が悪いというのは伝わって来たので、弱気な発言はそれが原因だろうと思ったリューは提案した。


「……聞いてなかったのか?俺もルチーナのとこも、お宅の傘下に入れて欲しいと言ってるんだよ」


「そうだよ。わからない奴だね。大の大人が……いや、違う、子供だったわね……。ともかくあたしらが傘下に入りたいと言ってるんだよ」


 と、ルチーナもノストラに追従して答えた。


「でも何で?」


 マルコから何も聞かされていないので、リューにしてみれば困惑以外の何物でもない提案である。


「今後も『聖銀狼会』の王都進出の野望は尽きない可能性が高い。それに対抗する為には、マイスタの街は一致団結して事に当たる体制を作る事が重要だと判断したんだよ」


 ノストラは、ため息交じりにそう答えた。


「その為にはあたしらがバラバラだと相手にも舐められるという事を今回痛感したのさ。巨大な『闇組織』時代なら、『聖銀狼会』も王都進出に躊躇したはずだからね。だから傘下に入れて欲しいのさ。──なんなら、部下達だけでもいいんだよ?あいつらを路頭に迷わせるわけにもいかないからね」


 ルチーナは、引退も辞さない発言をした。


「……本気なんですね?」


「伊達や酔狂でこんな事言えるかよ」


 ノストラが、淡々と答えた。


 どうやら、一度口にして肩の荷が下りたような顔をしている。


「うちもだよ。女のあたしにここまで言わせたんだ。これ以上、頭を下げさせる気かい?」


 ルチーナも、言いたい事を吐き出して、すっきりした様だ。


 先程までの緊張した面持ちが、二人から消えていた。


「うちも人手不足で困っていたのでもちろん、大歓迎です!お二人には大幹部として竜星組傘下に入って貰います。そうだ、『闇商会』と『闇夜会』は残しておきましょうか?それなら混乱もなく済みそうですし」


「おいおい。看板を残してどうするよ。マイスタの街は一つでないといけないだろ」


 ノストラがもっともな指摘をした。


「そうさね。あたしらはマイスタの街の住民。『竜星組』の元にこれから一丸となる。それが良い形さ」


 ルチーナもノストラに賛同する。


 リューは二人の提案に自然と笑顔になる。


 同席しているリーンとマルコ、スードの方に振り返って確認する。


 みんな笑顔で頷いていた。


「──わかりました。それでは、これより、『闇商会』と『闇夜会』は『竜星組』の傘下に入って貰い、王都の裏社会で一番になって外敵からの侵入を防ぐ体制を作りたいと思います!」


 リューはそう宣言すると、ノストラとルチーナ、そして、その部下達も大きく頷いた。


「じゃあ、早速、人員の振り分けや両組織の得意とした分野を一部門として『竜星組』内に設立しましょう。二人に説明したいから、マルコ、組織図は?」


「シーツ。こちらに例のものを持って来てくれ」


 リューの言葉に準備していたマルコは、助手である元執事のシーツを室内に呼ぶ。


「じゃあ、机に広げて」


 こうして新たな大幹部ノストラとルチーナの二人を迎え、『竜星組』は新たな船出を開始する事になったのであった。



 現在、親であるランドマーク家、そしてその下にミナトミュラー家がある。


 そのミナトミュラー家の元には、表の顔である『ミナトミュラー商会』と、裏の顔である『竜星組』がある。


 現在、ランスキーが表の顔である『ミナトミュラー商会』の責任者であるが、そのランスキーを、リューは二つの顔をまとめる本部長に据える事にした。


 そして、ミナトミュラー商会の責任者にノストラを据える。


 ノストラは元々、商会ギルドの職員を務めていたので、適任だろう。


 もちろん会長は、リューである。


 そして、『竜星組』の組長はリュー、責任者はマルコのまま。


 ルチーナは、表と裏、どちらともに跨る責任者である。


 ルチーナは元々、金貸し業の表の顔、夜のお店の裏の顔を使い分けていたので、そのパイプ役として向いている。


 どうしても表と裏で分けて考えがちなのでルチーナの存在は今後、表と裏の組織の橋渡し的な立ち位置だ。


 だから、トップのリューがいて、下にランスキー、その下に、マルコ、ノストラ、ルチーナの三人がいる形になる。


 もちろん、リーンは、リューに続くナンバー2である。


 イバルやスードは、街長であるリューの友人であり、直属の部下になる。


 イバルはよく『ミナトミュラー商会』の各部門に助っ人として顔を出しているが、実は『竜星組』の方にもよく顔を出している。


 イバルは、リューの右腕が、リーンなら、左腕はイバルという形に将来的にはなるだろう。


 スードは専らリューの護衛として剣の腕を上げているので立ち位置は変わらない。


 各自、リューの考えにより適材適所で配置された形であった。


 これには新参のノストラ、ルチーナも素直に納得した。


 さらに『闇商会』、『闇夜会』の人事もすぐに滞りなく数日のうちに振り分けられた。


 『ミナトミュラー商会』と、『竜星組』と仕事内容が被っていた者達は人手不足で困っている部門に適正に、振り分けられた。


 なにしろ今は、ランスキーを始めとしたミナトミュラー家の戦力が本家であるランドマーク家の領境のトラブルの支援の為に大幅離脱していたから、それを埋めてくれた形である。


 これにはリューも安堵した。


 元々両組織の人材もマイスタの住民が中心の構成であるから、すぐに馴染むし、戦力としても一流どころなので各部門で混乱する事もない。


 さらに今回の抗争で被害を受けたと言っても、財政面であり、人材の方は負傷者は多いが、死者は少ない方だ。


 その被害が大きい財政面の補填は、ミナトミュラー家の財政事情からすると心配する事無くすぐ終わったから、ミナトミュラー家は、この数日の間に一転して人材が溢れ、竜星組のシマは一気に三倍近くになったのであった。

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