第302話 意外な申し出ですが何か?

 マルコは、リューの指示とは関係なく、ノストラとルチーナに今回の抗争が一応収まった事を報告する為に、マイスタの街の建物の一角で落ち合っていた。


「何の用だ、マルコ。俺達は『聖銀狼会』への反撃の為に色々と忙しいんだが?」


「そうさね。奴らを見つけ出すのに苦慮してるんだよ?」


 ノストラとルチーナはかなりイライラしている様だ。


 縄張りである王都を好きに暴れられていたのだ。


 イライラが募るのも仕方がないだろう。


「その事で報告に来たんだよ。今日の昼、うちの兵隊が『聖銀狼会』の数か所ある隠れ家を発見して、これを一掃した。また、先兵隊を率いていた大幹部ゴドーは、襲撃を認めて騎士団に出頭させた」


「な!?──お前ら『竜星組』は、今回、手出ししないはずだっただろうが!何で余計なことしやがった!?」


「そうだよ!あたしらの問題だろ!」


 ノストラとルチーナは、お互い自分の率いる組織の面子がある。


 今回の『竜星組』の抜け駆けとも思える行動に怒りを見せた。


「おいおい。こっちは『竜星組』の縄張り内にいる害虫を駆除しただけだ。それが結果的に『聖銀狼会』だっただけの話。それが約束を反故にしたかのように言われるのは心外だぞ?」


 マルコは、旧知の中である二人に言い寄られても微動だにせず、言い返した。


「……それで、ゴドーが出頭だと?どんな手を使いやがった……?」


「……それで敵は全滅したのかい……?」


 二人は、マルコの反論にとっさに言い返せず、最初、言葉に詰まったが、疑問について質問する事でお茶を濁した。


「二人とも。もう一度言うが、うちは『竜星組』の縄張り内での問題を解決しただけだ。それが、結果的に『聖銀狼会』が相手の抗争であってもだ。若も自分に降りかかる火の粉を払っただけ、そこは理解して貰おう」


 マルコは、二人に念を押す。


「「……」」


「そこで、ゴドーと手下の一部には今回の抗争の責任を全て被って貰った。これで、王都の緊急配備は解かれるだろう。そして、『聖銀狼会』とも、今回の件について問題の解決の為にうちから人をやる事になっているから、後は任せて貰う」


「ちょっと待ちな!あたしらと『聖銀狼会』の問題だよ!」


 ルチーナが、堪り兼ねて言い募った。


「抗争の当事者同士で、話し合いになるわけないだろ。だから間にうちが入るんだ」


「しかし……」


 ノストラも納得がいかないようだ。


「二人共、今回の抗争で大損害を受けたのは事実だろ?うちの若は、そんな『闇商会』と『闇夜会』を援助すると言っている。同じマイスタの住民だからと言ってな。そこで、俺からも提案がある」


「……提案、だと?」


 ノストラが、何を言うつもりだと、マルコを不審の目で睨んだ。


 ルチーナは、援助という言葉に、少し心動いたようだが、すぐに、提案とやらにまた、警戒した。


「二人共。若の元で働かないか?」


「……それは『竜星組』組長の判断か?」


 ノストラが、殺気を漂わせてマルコに問い質した。


 こちらが大損害を受けた事を幸いに、弱った自分達を下に見ていると思ったのだ。


「うちの若がそんな事言うものか。若にとってはな、マイスタに本拠地を置く『闇商会』も『闇夜会』も守るべき同じマイスタの住民なんだよ。だから助けもするし、守ろうと動きもする。──これはな、俺個人の意見だ。今回、うちが『聖銀狼会』の先兵隊を全滅させて王都進出を防ぐ事になったが、『闇商会』と『闇夜会』も無傷では済まなかっただろ?つまり、敵はまた、倒せない敵ではないと判断して二手目三手目を打ってくる可能性がある。だが、ここで俺達が一つになって大きくなってみろ。奴らも簡単に手を出せないと警戒するはずだ。それは結果的に王都の平和、かつ、若の平穏な時間になるんだよ。だから提案している」


 それを聞いて言葉に詰まる二人。


 自分達は面子にかけて独立独歩の姿勢をとっているのだが、『竜星組』の組長はその上をいっていた。


 確かにマルコの言う通り、『聖銀狼会』の再度の王都進出は、王都に以前の『闇組織』の様な巨大な組織がいない事がきっかけになっているだろう。


 それを考えたら、一番の勢力であり、マイスタの街の住民の支持を集める『竜星組』の下に付いて王都の裏社会に鎮座する事が、『聖銀狼会』を始めとした外敵への抑止力になるのだ。


「……少し考えさせてくれ」


 ノストラが絞り出す様に、答えた。


「ノストラ!?」


 ルチーナが驚いて反応した。


「急かす気はないが、『聖銀狼会』に付け入る隙だけは与えたくない。それと、マイスタの街は一つである事が望ましい」


「「……わかっている」」


 二人はマルコにそう答えると、その場を後にするのであった。




 数日後。


 リューからの提案で、緊急連絡会が開かれる。


 お題目は、『聖銀狼会』への今後の対応についてや、『闇商会』と『闇夜会』の被害状況の確認、そして支援についてであった。


 リューは、両組織を支援する気満々で、両者が素直に支援を受ける為にはどう説得したものかと考えていた。


 そんな思いに反して、神妙な面持ちのノストラとルチーナに、


 え?なんか空気重くない?


 と、リューは思わず息を呑んだ。


 そしてリューは、


 勝手にうちが動いて先兵隊を全滅させたから、面子潰されたとやっぱり怒ってる?


 と、勘繰るのであった。


 そんな中、マルコが、進行役を務め、話し合いが始まった。


 進行する中で、ノストラに発言の機会が回って来た。


「……うちは今回の抗争で結構な被害を被った。人材こそ被害はマシだが、財政状況がかなり悪い」


 ノストラが緊張感のある雰囲気の中、話す。


「……『闇夜会』も同じさね。営業を再開するにしても火事で焼けた店舗も多い。今後の運営自体が難しい縄張りも多い」


 ルチーナも同じように何か緊張している様子だ。


 ……やっぱり、凄い雰囲気重いよね?──あ、お金を借りたいのか!それならうちが出すつもりでいたし!


 リューはそう悟るとこちらからチャンスとばかりに申し出ようとした時であった。


「お宅に入れて貰えないか?」


 ノストラがついに切り出した。


「うちもだよ」


 と、ルチーナ。


「え?」


 何を言っているのかわからず、固まるリュー。


「「『竜星組』の傘下に入れて貰えないか?」」


 二人が再度そう切り出した。


「え?……えーーーー!?」


 リューは二人の意外な申し出に、驚くのであった。

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