第304話 手打ちの経緯ですが何か?

 王都の裏社会では一聞するとあり得ないと思われる噂が流れ始めた。


 それは、王都の三大裏組織である『闇商会』と『闇夜会』が、『竜星組』の傘下に入ったというものだった。


「どこの情報だよ。大体『闇商会』と『闇夜会』は抗争中だろ?その二者がなんで急に『竜星組』の傘下に入るんだよ」


「馬鹿、その抗争情報自体がガセだぜ?なんでも王都以外の裏組織が王都進出を狙って仕掛けたデマ情報だったらしい。最近、その組織の幹部を名乗る奴が騎士団に出頭したんだってよ」


「それ、俺も聞いた!何でも沢山の部下を引き連れて出頭して来たらしいな。となると、二つの組織が弱ったところに付け入った『竜星組』が、漁夫の利を得た感じか?」


「それも、違うぜ。今回の抗争の間に体を張って止めたのが『竜星組』だったのさ。それに感じ入った『闇商会』と『闇夜会』が、傘下に入る事を願い出たらしいぞ」


「「「そうなのか!?」」」


 裏ではいろんなデマも流れていたが、なぜか正しい情報がその度に流れて訂正されていた。


 もちろん、これはリューが部下を使って流したものだ。


 両組織のボスであったノストラとルチーナの名誉を守る為でもあったし、竜星組の今後もある。


 それに外敵である『聖銀狼会』にこれ以上付け入る隙を与える気はなかったのだ。


 だから、色んな的外れな憶測は、正しい噂にかき消されて行くのであった。



 こうなると、裏社会の人間の興味は、王都の勢力争いである。


 今回、噂の中心になっている王都で並ぶ者がいない程の巨大組織に一気になった、新体制の『竜星組』と、歴史のある古株で一大勢力である『黒炎の羊』、最近では大人しく静かにしていて、『竜星組』に接近しているという噂がある『月下狼』、勢いが一番あり、羽振りがいいが良い噂があまりない『雷蛮会』などの名前が大組織として挙げられた。


 だが、勢力争いで均衡を保っていたのは、『闇商会』と『闇夜会』が存在したからである。


 それが、竜星組の傘下に入った以上、その均衡は崩れ、『竜星組』の一人勝ち状態と言っていいだろう。

『黒炎の羊』は、少しずつ勢力を伸ばしてはいたが、全盛期の勢いは無く、勢いと資金の『雷蛮会』も太刀打ちできる程ではない。


 それくらい新体制の『竜星組』は、巨大になったのであった。


 こうなると、竜星組に睨まれたら終わりとばかりに、裏社会の小グループから、汚れ仕事をする時に裏の組織を利用する貴族に至るまで、何かしら動きがあると思った方が良いだろう。


 実際、そんな中、『雷蛮会』は震えていた。


『聖銀狼会』を王都に招き入れたのは、自分達である。


 それが万が一、万が一にも誰かから漏れてこの新体制『竜星組』の耳に入ったらどうなるだろうか?


「この事を知っている者全員にしっかり口止めしておけ……!漏れたらしゃべった者共全員消すからとな……!」


 ライバは、今回の事態は予想の斜め上を行っていたので動揺は大きなものであった。


 ライバの未来予想図では、目の上のたんこぶである大きな組織の一つや二つが無くなって自分達が漁夫の利を得る算段であった。


 そうでなくても大きな組織同士の潰し合いである。


 ただでは済むものではないので、勢いが弱まってくれるだけでもありがたかったのだが、それがどうだ。


 組織の数は減ったが、王都中の裏組織が誰も抗う事も出来ない巨大組織がひとつ出来上がってしまっただけだ。


 それも、自分達の行為がバレたら潰しにくるであろうおまけ付きである。


 もちろんそれは、すでにバレているのだが……。


「そうだ。新体制を祝って『竜星組』に祝いの花でも送っておこう!誰かすぐ用意させろ!機嫌を損なわれない様に大きくて派手なのにしておけ!極力今は、目を付けられない様にするんだ!」


 ライバは部下の一人に命令する。


 だが、すでに目を付けられているのだが……。


「ボス、それならば自ら出向いた方が、あちらの印象も良いのでは?」


 最近、竜星組の傘下の組からこちらに来た幹部がアドバイスをして来た。


 数人の同じ出身の幹部もそれに同調する。


「それがよろしいかと」


「『竜星組』の大幹部マルコは、礼儀にうるさいと聞いています」


 一同がそう勧めるので、ライバも考え込んだ。


 そういう事をしたくないから『雷蛮会』を作ったようなところもあるのだ。


 不本意ではあるが、相手は『闇組織』以来の巨大組織である。


 ご機嫌を損なうわけにもいかないだろう。


「……仕方ない。行くしかないか……」


 ライバは、幹部達の意見に頷くのであった。




 その頃、王都近郊の村の外れの小さい丘。


 二つの巨大組織の大幹部と指定されたその部下、十人が顔を突き合わせていた。


 それは今回の抗争の手打ちが行われようとしていた。


 そこに現れたのは、『聖銀狼会』の先兵隊であるゴドー達と合流の為に王都に上って来ていた別の大幹部であった。


 ここまでの経緯として、王都へと向かう途中、先兵隊が全滅したという報告を受けて震撼していたところに、『竜星組』から使者が来たのだ。


 その大幹部は、急いで本部に特殊魔法で連絡を取り、命令を仰いだのだが、今回の作戦を中止にして手打ちとし、一旦引き返す様に指令を受けたのだった。


 そこに竜星組の別の使者が訪れ、狙い澄ましたかのように、手打ちの内容についても伝える。


 『聖銀狼会』側の幹部は、その内容に顔を真っ赤にして屈辱に耐えなければならなかった。


 それは、手打ちの会場での大幹部による謝罪と、今回の被害に対する賠償請求であった。


 屈辱的な要求に怒りに震え、突き返そうかとしたところに、これまたタイミングよく、先兵隊ゴドーの参謀役であった兎人族のラーシュが、合流して大幹部ゴドーとその部下が出頭した事を伝えた。


 それを聞いて衝撃を受けて一旦冷静になった大幹部はまた、本部に判断を仰ぐ。


 答えは、「全部飲め」であった。


 本部は、この手回しのよい『竜星組』の動きに、こちらの動きが読まれていると判断したのだ。


 下手をしたら第二陣も全滅する可能性がある、それは避けたかった。


 こうして、『聖銀狼会』は全面的な敗北を認める『竜星組』の条件を飲んで手打ちする事にしたのであった。

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