第301話 抗争の結末ですが何か?
マルコの案内で『聖銀狼会』の大幹部であるゴドーとその参謀であるラーシュは、馬車に乗って王都内を移動する事になった。
行く先は、竜星組の縄張りがある地域だ。
「どこに案内してくれるのかな?」
ここに来ても大幹部のゴドーは余裕の構えである。
だが、一緒にいる参謀のラーシュは車外の景色にそわそわしだしていた。
どうやら見覚えがある様だ。
「この辺りはうちの縄張りで、治安も良くてな。余所者も受け入れるので顔見知りでない者も結構多いんだが……」
マルコがゴドーに説明するでもなくそう口にした。
そして続ける。
「竜星組のシマと知って悪さする奴は、その日のうちに失踪する事が多くてな?今日は、団体でそうなりそうなんだが……、どうする?」
マルコが、車内で正面に座るゴドーに視線を送った。
その視線にもゴドーは怯まない。
しかし、参謀のラーシュは、マルコの言う事に信憑性を感じる理由があるのかゴドーに何か言いたそうにしている。
その目は前髪に隠れて見えないが、その雰囲気は十分マルコにも伝わって来ていた。
「おっと?到着した様だ……」
マルコは景色を見て言うと、それが合図の様に馬車も停車する。
降りるとすぐに、参謀のラーシュは、大幹部ゴドーをマルコから引き離す様に引っ張り、コソコソと話を始めた。
「ボス、この地域は、うちの手下達を潜伏させているところです……。偶然かもしれませんが十分用心して下さい」
「何……!?まさかバレたのか……?」
「ハッタリかもしれません。奴ら焦ってカマかけている可能性も高いです」
ラーシュはマルコの方を警戒しながらゴドーに耳打ちした。
ゴドーは無言で頷くと、マルコに相対した。
「……で?俺達をこんなところに連れて来てどうしたいんだ?まさか、ここが観光地だとでも?」
ゴドーは、ラーシュから重要な事を知らされても動揺を見せず、豪胆に振舞った。
「お宅らには一等に優れた観光地になるかもしれないな」
マルコは、もう、敬語を使う様子もなく、入り組んだ建物奥に入っていく。
ゴドーとラーシュは、無言で視線を交わすとマルコの後をついて行く。
すると開けた広場に沢山の人が集まっていた。
中心には縛り上げられたボロボロの連中が力なく集められている。
一帯は一般人とは思えない黒装束姿の一団がそれを囲んでいた。
「こいつらはうちの部下達なんで、怯えなくていいぜ」
マルコが、ゴドーとラーシュにそう告げると、続けた。
「さあ、ここが今、王都で一番熱い観光地だ。よく目を凝らしてみると良い。驚く顔ぶれがあるんじゃないか?」
ラーシュはすでに気づいているのか、顔が青ざめている。
それに気づいたゴドーは、縛り上げられているのが、自分のところの手下達である事を察したのであった。
だが、ゴドーはそれでも動揺を見せない。
「こいつらが、どうかしたのか?一見するにみな傷ついてボロボロみたいだが?」
「おやおや、これは豪胆な事で。──数を数えるとわかるが、死人も出てる。もちろん、うちの部下には一人も死人は出ていないがな?」
マルコが、回りくどくゴドーに状況を報告した。
「……それがどうした?」
ゴドーも、さすがに自分のところの精鋭である先兵部隊が、敵の命を一人も奪えず、死傷者を出して捕らえられている事に、内心動揺した。
「お宅は言ったよな。王都に自分の手下はいないと。──確かにこいつらは口が堅い様だ。今のところはまだ、自分達がどこの所属かは吐いていない。だが、うちには確信があるからなぁ。──どうする?このまま、こいつらを『闇商会』と『闇夜会』に引き渡して処分して貰ってもいいんだが?」
「ゴドーの頭……!」
ラーシュが、大幹部ゴドーにすがる様に視線を送った。
「ぐぬぬ……!──どうしろと……?」
ゴドーはここでやっと自分の手下である事を間接的に認めたのであった。
「今回の一連の騒ぎの罪を認めて、お前ら二人は『聖銀狼会』を代表して騎士団に出頭しろ。王都で沢山の死傷者を出したんだ。死罪は避けられないが、こいつらは死なずに済むかもしれない」
マルコは、ゴドーとラーシュに死刑宣告をした。
「!」
ラーシュは驚いて、マルコを睨んだ。
「まさか、卑怯だとか言うなよ?仕掛けてきたのはそっちだ。それに最初に警告したよな?だが、そちらはそれを蹴った。だから今、こうなっている。──さあ、選べ。そして王都を混乱させた罪を償え」
「……わかった。先兵隊の大将を務めた大幹部である俺が責任を負う。だからこいつは許して貰えないか?」
ゴドーはラーシュの命乞いをした。
「いいや。それは、できないな。そいつは今回の作戦を立案した主犯だろ?その罪は大きい」
マルコは無情に命乞いをきっぱりと断った。
「ならば、貴様の命を取るまでよ!」
そう言うとゴドーはその大きな体躯からは予想もつかない俊敏な動きでマルコに襲い掛かった。
するとマルコの傍を黒い影が一瞬通り過ぎて、ゴドーの体に吸い込まれていった。
次の瞬間、その黒い影が弾けた様にゴドーは後方に吹き飛ぶと壁に叩きつけられて動かなくなった。
その影の正体は、黒装束の一団に紛れ込んで様子を見ていたリューであった。
「で、参謀のラーシュ。これ以上醜態を晒すか?」
マルコは、呆然と立ち竦む兎人族の参謀に確認する。
「……わかった。ゴドーの頭と二人で出頭する……」
ラーシュは絞り出す様にそう答えると、その場に膝を突いた。
「……いや、その参謀君は、『聖銀狼会』との取引材料にしようか」
大幹部ゴドーを一撃で仕留めた黒装束の小柄な影、リューが急に方針転換してマルコにそうこっそりと提案するのであった。
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