第300話 報復戦ですが何か?
マルコは、王都の観光地の一つである空木の塔を訪れていた。
そこには観光客が多く訪れ、眼下に広がる王都の景色を楽しんでいる。
そこに、大きい体躯に強面の『聖銀狼会』大幹部ゴドーと、その参謀で兎人族のラーシュもいた。
「初めまして。お二方にお話がありまして」
マルコは、その切れ長で表情が読み取りづらい細目で、ゴドーとラーシュに軽く会釈した。
「どちらさんかな?」
大幹部ゴドーが、じろりとマルコを睨むと応対した。
この素振りだけで普通の者なら怯えて凍り付きそうだ。
「私は竜星組幹部、マルコと申します。この度は、警告に参りました」
マルコはゴドーの睨みにも臆することなく、堂々と告げた。
「ほう……。竜星組の幹部か。それで警告とは?」
ゴドーが、不敵な笑みを浮かべて答えた。
「そちらが王都に潜入させた兵隊を即刻、地元に撤退させるなら、黙って見送ります。しかし、うちの盟友に今後もちょっかいを出す気なら、お宅の先兵隊は痛い目を見る事になります」
「ふはは!何かと思ったら、一銅貨にもならない脅しを王都で一番有名な『竜星組』の幹部の口から聞くとはな!」
『聖銀狼会』の大幹部ゴドーはマルコの提案を一笑した。
傍にいる参謀である兎人族のラーシュも「くくくっ!」と、笑った。
「なるほど、聞いて貰えませんか。それならば仕方がない。『聖銀狼会』は、うちを敵に回すという事ですね?」
「おいおい、何を熱くなっている。俺は王都観光に来ただけだぞ?うちの兵隊が王都に来てる証拠など一つもないだろう?ふはは!」
ずっと先手を取っている『聖銀狼会』である。余裕が違う。
「まさか『竜星組』というのは被害妄想だけで、『聖銀狼会』に喧嘩を売るつもりですか?」
参謀のラーシュが、マルコを小馬鹿にした様に挑発する。
「ほう……。それでは、王都内にいるそちらの兵隊は『竜星組』で処理しても構わないですかな?」
マルコの目が一層鋭くなった。
「みつかればな?うちの兵隊は王都内にはおらんよ。ふはは!」
ゴドーはそう嘯くとまた、笑うのであった。
「……わかりました。──おい、やれ」
マルコは、背後にいる部下にそう声を掛けた。
ゴドーとラーシュは一瞬身構えた。
マルコの部下は、鉄の筒を用意すると、そこに魔石を入れる。
そして、上空に魔法を打ち上げた。
魔法花火の改良版である信号弾だ。
上空に音も無く打ち上がった信号弾は王都の空に、日中でありながらまばゆい光を発して、ゆっくり落ちて消えていった。
「……なんの催しかな?」
ゴドーが、不穏な気配を感じ取って、マルコにこの事態を聞いた。
「もうすぐ、報告があります。それまで観光をお楽しみ下さい」
マルコは、ニヤリと口元に笑みを浮かべると、それ以上答えないのであった。
「合図が来たね。──それではみんな作戦通りに」
そう命令したのはリューの率いる黒ずくめの一隊であった。
傍にはスードとアーサもいるが、人数は二十人程しかいない。
それも、敵の隠れ家である入り組んだ建物に突入するのはリューとスード、アーサの三人だけで、他のメンバーは隠れ家を取り巻き、逃げ道を塞ぐ為に散る。
そして、黒ずくめの子供二人が、見張りに近づいていく。
「何だい、坊や達。ここは君らの来るような場所じゃないよ。竜星組の関係者以外お断りだからね」
無意味に脅して、近隣住民の警戒心を刺激しない為だろう見張りは優しく言った。
「なら、大丈夫だよ。僕達、その関係者だから」
リューが答えた瞬間、もう一人の子供、スードが動いた。
二人の見張りはスードの手が動いたと思ったら、その場に崩れ落ちる。
「スード君、また、剣を振る速度早くなったね!」
リューは感心しながら、隠れ家の奥に入っていく。
「何だこのガキ?おい、見張りはどうした?」
すぐに遭遇する敵も、子供相手で油断していた。
スードがそれを目にも止まらない剣捌きで峰うちに仕留めていく。
敵は声を上げる暇もなくその場に倒れた。
「僕の活躍の場は無いかな」
リューは、この護衛の成長に満足しながら、中に入ると広間には二十人以上の敵が寛いでいた。
「これは早速、前言撤回。──行くよ?」
リューはスードに一言、そう告げると、敵に襲い掛かる。
一瞬で三人が壁に吹き飛んだ。
まるでリューが一撃で三人を仕留めた様にしか見えない。
「なんだこいつら!?」
『聖銀狼会』の先兵隊は不意打ちを仕掛けてきた子供の、目を疑う動きに凍り付いた。
「僕達は『竜星組』だよ。君達はやり過ぎたから、ここで終わりです」
リューはそう答えてまた、近くにいた二人を瞬時に殴り飛ばして壁に吹き飛ばす。
「『竜星組』!?──『竜星組』の奇襲だ!」
『聖銀狼会』の隠れ家は一瞬にして蜂の巣を突いた様な大騒ぎになった。
部屋からも慌てて敵が現れるが、リューとスードは驚きもせずに立ちはだかる敵をなぎ倒していく。
そこへ奥からも悲鳴が上がった。
裏から突入したアーサが暴れ始めた様だ。
悲鳴が上がるという事は、一応、手加減して怪我だけで済ませている様であった。
こうして、大騒ぎの隠れ家は、阿鼻叫喚の地獄絵図に変わっていく。
リューとスードは、打撃で敵を仕留めるのに対し、アーサは刃物を駆使して敵の戦意を挫く為に戦闘力を奪っていくのだが、だからこそ、悲鳴も上がるし、血飛沫も舞う。
壁は血で派手に彩られ、逃げる敵は背中にアーサのナイフが刺さって絶叫する。
やり過ぎな気もするが、これが報復というものである。
そこに、待機していた部下達が敵を縛り上げていく。
リュー率いる隊は、こうして敵の隠れ家の一つを短時間で制圧するのであった。
同じ様な事は、他の場所でも起こっていた。
イバル隊、元冒険者であり執事マーセナルの助手を務めるタンク隊、そして、魔境の森修行組であるアントニオ隊にミゲル隊も敵の隠れ家を襲撃して、『竜星組』の怖さを叩き込む様に徹底的に叩いた。
王都内の各所の上空には、敵の隠れ家を叩いた部隊からの信号弾が上がって、マルコにそれを知らせる。
「あの信号弾の意味が分かりますか?」
マルコは悠然と、『聖銀狼会』の大幹部であるゴドーと参謀ラーシュに聞く。
「……さぁな」
嫌な予感がしたゴドーであったが、まさかとまでは思わない。
自分達は上手くやっている、その自信があったからだ。
それは、参謀のラーシュも同じであった。
「終わったんだよ。お前らの企みは」
丁寧な言葉で応対していたマルコの口調がガラッと変わり冷淡に告げた。
そして続ける。
「それでは行こうか。次の観光地に」
マルコはそう告げると、ゴドーとラーシュに塔から降りる様に案内する素振りを見せるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます