第281話 良い新年ですが何か?

 新年初日、ランドマーク家はみんなゆっくり一日を過ごした。


 だが、二日目からは一転して新年の挨拶に領民達が訪れる。


 一応、各ギルドの代表や各村の村長、工房の長や各責任者などが挨拶にくるのだが、城館前は人だかりである。


 挨拶とは関係ない領民達が、前世の神社仏閣のお参りの様に城館前でランドマーク家の安泰と、一年が災いが起きずに過ごせる様に拝みに来ているのだ。


 特に昨年の大豊穣祭での山車が領民達に影響を与えた様で、領主ご一家の有難みを再認識した様だ。


 だから、新年に拝むならランドマーク家の象徴である城館の前でと、人が集まったのだった。


「前世のお祭りを真似しただけのつもりが思わぬ波紋……」


 城館前の人だかりを上から見て、リューは苦笑いするしかなかった。


「俺が公爵家にいた頃は、こんなに領民に慕われた覚えがないな……」


 イバルが、リューの横で、ランドマーク家の宗教的とも思える人気ぶりに素直に驚いていた。


「さすが、主の本家。崇拝されていますね」


 スードは、魔境の森で祖父カミーザ達が、領兵からの慕われ方を見ているから、驚く様子はない。


「当然よ!ランドマーク家は、常に領民と共にあるのだから!──あ、ミナトミュラー家もこのくらいマイスタの住民に慕われるといいわね」


 リーンが怖い事を言う。


「いや、さすがにここまで慕われると、大変じゃないかな……」


 リューはリーンの願いにツッコミを入れるのであったが、マイスタの街にこの翌日戻ったリューとリーン、イバルの三人(スードは修行の為に魔境の森に戻った)は、リーンの願いが叶ってしまった事を目撃する事になった。


 リューが、この日、戻る事はランスキー達も知っていたのだが、それは街の住民も承知で、新年の挨拶をする為に、街長邸の前に押し寄せていたのだ。


 ランスキーとマルコは、この住民達を排除するのではなく歓迎していた。


 それは、リュー達の馬車が街長邸前に到着すると、その脇で炊き出しの準備をしていたのだ。


「これは何事なの!?」


 リューは、炊き出しの準備をしているランスキー達に説明を求める。


「若、お帰りなさい!これは、住民達が街長に挨拶をしたいと集まって来たので、食事の一杯でも出してもてなそうという事で、炊き出しを始めています」


 ランスキーが、部下達に炊き出しの準備の指示を出しながら、リューに向き直ると、説明した。


「これ、みんな僕への挨拶の人達なの!?」


「はい、全ては若の人望ですね。ははは!」


 マルコが、誇らしげに笑うのであった。


「……じゃあ、挨拶しておくか」


 リューは、仕方ないので街長邸前に集まっている人々の前に進み出ると、拡声魔法で声を大きくすると集まってくれた住民達にお礼の言葉を述べた。


「マイスタの住民のみなさん。新年明けましておめでとうございます!」


「「「おめでとうございます!」」」


 住民達がリューの声に応える。


「そして、わざわざ挨拶の為にここに訪れてくれて、ありがとうございます。今年もこのマイスタの街の為にもよろしくお願いします!」


 リューがお礼を言うと、住民達からは、


「こっちが感謝してますよ!」


「若様のお陰で、この街は生き返ったんだ、俺達の方が感謝ですよ!」


「若様、万歳!」


 と、四方で感謝の声が上がる。


 それは最後、若様万歳の大合唱になる。


 リューは胸に熱く込み上げてくるものを感じながらその大合唱を手で制すと、話し始めた。


「僕にとって、マイスタのみなさんは家族同然です。こうして余所者である僕の事を受け入れてくれてありがとうございます。これからも、この街の発展の為に力を貸して下さい。よろしくお願いします!」


 そのリューの腰の低いお願いに、住民達も感極まったのか、


「当然だぜ、この野郎!俺達は若様にこれからもついて行くぜ!」


「そうだー!この街の街長は、若様以外には考えられねぇー!」


「若様ー!これからもよろしくお願いします!」


 と、口々に答えると感動の涙を流す者も多くいた。


「ありがとう!それでは、うちの者達がみなさんに食事の準備をしていますので、順番で受け取って冷えた体を温めて下さい!」


 リューが、そう感謝の意を示すと、住民達は順番に綺麗に並んでランスキー達から炊き出しの食事を受け取っていく。


 こうしてリューとリーン、イバルは、マイスタの住民達と今年一年の繁栄を願って一緒に食事をし、和気あいあいとして、談笑するのであった。



 住民達は街長邸前でひとしきり盛り上がると、家に帰っていく。


 それを見送りながら、リューは思う。


 今年もいい年になりそうだ、と。


「来年からは、露店を出していいかもね?それなら、急遽用意した出来合いの物よりもっといい物をみんなに提供出来るわよ」


 リーンが、そう提案する。


「そうだね。年の初めはお祭りの様に騒いでいいかもね。来年からはそうしよう」


 リューはリーンに納得する。


「この街は幸せだな。街長がとても住民思いだ。ははは」


 イバルが、リューをそう賞賛すると、笑うのであった。


「僕は住民に応えているだけだよ。どちらかというと僕の方が幸せなのさ」


 リューはイバルの言葉に少し照れると、そう答えるのであった。

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