第279話 仕事納めですが何か?

 リューは年末の忙しい最中、ふと執務室で今年一年を振り返っていた。


 ランドマーク領から出て来て王都入りし、王立学園に合格。


 ここまでは当初の予定通り。


 ランドマーク家の王都進出も、当初から予定にあったので、これも想定内。


 だが、その後は想像をはるかに超えていたかもしれない。


 沢山の友人も出来たし、ランドマーク家が伯爵まで昇りつめるとは全く想像していなかった。


 自分も準男爵という爵位を貰ってランドマーク家の与力として貢献する事になったのも想像していなかったし、竜星組の創設も想定の範囲外ではあったが、結果的にはとても良かった。


 ランスキーやマルコ達は強面だが気のいい連中だから、自分にとっても自慢の部下達だ。


 街長としてミナトミュラー家の下、執事のマーセナルや、友人であるイバル、スード、メイドのアーサ達と人材に恵まれ、尽くしてくれている。


 もちろん、傍には常にリーンが付いてくれているから、大変な事もひとりでやっているという感覚に陥らない事が大きいだろう。


 リューにとって、今年一年はタイミングに恵まれ、王都という場所でマイスタの街という土地を得る事ができた。


 そして人にも恵まれた事は、大きな財産であった。


「リュー、手が止まってるぞ?俺も手伝っているんだからしっかりしてくれ」


 と、声を掛けたのはイバルであった。


 普段は、魔法花火開発部門や、興行部門、露店部門などの裏方として仕事を任せているので職場で会う事も少ないのだが、リューが忙しいだろうからと、休み期間に入ってからリューの手伝いに来てくれていた。


「ごめんごめん。ちょっと今年一年を振り返っててね。色々あり過ぎたから、気が遠くなっちゃったよ、ははは」


 リューは、そう答えて笑う。


「今年一年か……。そう考えると俺もリューと揉めて色々あったからな」


 イバルは、エラインダー公爵家の嫡男からリューとのトラブルで、廃嫡、養子に出されてどん底を味わった一年だった。


 それが、今やリューの腹心としてミナトミュラー家の表の仕事の裏方として活躍しているのだ。


 イバルにとっても、そういう意味ではかなり濃い一年を過ごしたと言える。


「それを言ったら、リューに関わった人達はみんな忙しい一年を過ごしたんじゃないかしら?」


 リーンが、そう指摘した。


「違いない!リューに関わった奴は、色んな意味で濃い一年を過ごせただろうな」


「僕が、台風の目みたいな言い方するのは止めてよ!」


 リューが、不満を口にする。


「一番傍で私がリューを見てきたんですもの。間違った事は言っていないと思うわ。私的には、おかげでリューと一緒にいるといつも楽しいから、全然問題無いわよ。ふふふ」


 リーンは、リューに、彼女なりの最大の賛辞を贈ると笑うのであった。


「それ褒めてるのかな」


 リューは、喜んでいいのかわからなかったが、リーンが問題ないというのなら問題ないのだろうと、思い直すのであった。


「はいはい。まだ、仕事は残ってるんだからリューも手を動かしてくれよ」


 イバルは、この二人の関係性がいつも不思議であったが、どうやら本当に家族に近いのかもしれないと考える様になっていた。


 自分もミナトミュラー家の家族の中に入れて貰っている様なので、それに応えていこうと思うのであった。




「──イバル君が助っ人に来てくれたおかげで、思ったよりも早く仕事が終われたね」


 リューは、書類の山から解放された事に、喜ぶと背筋を伸ばしてそう感想を漏らした。


「それに執事のマーセナルや、メイドのアーサ、他の使用人達にもお礼を言わないとね。みんな頑張ってくれたわ」


「うん、ちょっと早いけど、今年の仕事納めとしようか」


「「仕事納め?」」


 リーンとイバルは、聞き慣れぬ言葉に首を傾げる。


「うん、みんな自分の事もあるでしょ?今年の仕事は今日で終わりにして、自分の家の事とかもやる時間にして貰おうかなって」


「じゃあ、屋敷の人間を集めて、労いの言葉でも言って貰うか?」


 イバルが、提案する。


「……それは恥ずかしいけど。それも大事か。この数日、かなり忙しかったし……、──そうだ、臨時ボーナスもみんなに上げよう!」


 リューはそう決めると、使用人達を集めて、今年一年の労を労うと、一人一人にお金を配っていった。


 使用人達は、思わぬボーナスに喜んでいる。


「給金を貰っているのに、ありがたいお言葉と臨時のボーナスまで貰えるなんて!」


「それに、仕事納め?で、今日はもう家に帰っていいなんて、こんな扱い、今までされた事ないよ!」


「若様は、本当に素晴らしい主だよ!」


 使用人達は口々に自分達に対するリューの扱いが素晴らしい事に心から感謝するのであった。


「じゃあ、来年もみんなよろしくね。良いお年を」


 リューは、そう話を締めると、解散するのであった。



「じゃあ、イバル君。年末年始はうちに来る?」


「え?」


 リューの誘いにイバルは素直に驚いた。


「そうね。イバルは友人だし、ミナトミュラー家の家族のひとりだもの」


 リーンも頷く。


「俺が行ったら家族団らんが台無しにならないか?」


 イバルは、リューの好意に戸惑った。


「何を言ってるのさ。家族なんだから全然大歓迎だよ。それにランドマーク領にはスード君も実家に帰らず修行中だからね。イバル君がいてくれる方が、スード君も助かると思うよ」


 リューは、そう答えるとイバルを連れて、ランドマーク本領がある実家まで『次元回廊』で帰郷するのであった。


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