第278話 間者ですが何か?
ランドマーク本領で人員の入れ替え整理が済むと、リューとリーンは早々にマイスタの街に戻って来た。
スード君、一皮剝けた君に出会えるのを期待しているよ!
リューは、そう告げると涙をぬぐいながら別れたとか、別れなかったとか。
そういう事で、一皮も二皮も剥けて戻って来た若い衆の新しい配属先を決定して一時的な人員不足を少し解消するリューであったが、まだ、完全とは言い難いところであった。
それに、今は年末である。
やはり、人手不足は解消できない。
そこに、ここぞとばかりに、仕官を求めてやってくる有象無象が多かった。
街長であるリューの元にも、そんな自分を売り込みに来る連中が増えていた。
「執事助手のタンクに士官候補の選考は任せているけど、マーセナル、どんな状況?」
リューは、人手不足の解消の一助にならないかと、執事助手の元冒険者タンクに人員補充について色々と仕事を任せていた。
「タンクから報告が上がってますが、あまり芳しくありません」
執事のマーセナルが、報告書に軽く目を通すとリューに渡した。
「どれどれ……、うわっ。他所の貴族の間者混ざってるじゃん!それに、こっちは、ライバ君のところの間者だし……。それも不合格レベルって……!もう少し、良い人材送り込もうと思わないのかな?多少優秀だったら、年末の間使い回してその後、クビにするのに!」
リューは、忙しければ猫の手も借りる様な口ぶりで愚痴をこぼした。
「うちも舐められたものね。人材なら誰でもいいわけじゃないのに」
リーンも後ろから報告書を見て、呆れるのであった。
「使えるレベルでは、エラインダー公爵側から送られてきたと思われる間者が、合格ラインにいますがどうしましょう?」
マーセナルは、とんでもない名前を出してきた。
「エラインダー公爵にも本格的に目を付けられたかぁ……。今までは、小者扱いで相手されていなかった感じなんだけどね……。間者を送り込むほど、マークされてきたとなると、今後は注意しないといけないね。その、人材は、どんな人?」
リューは、なんだかんだ言いながら、その間者に興味を持つのであった。
「メイド希望の女性ですね。アーサの下に付けておけば、問題は無いと思いますが……」
それはつまり、下手な動きを見せた瞬間、即、処分を意味する。
「ボクの下に付けてくれるの?何日持つかなぁ」
メイドのアーサがワクワクしながらつぶやいた。
「それはそれで、その間者が気の毒だなぁ……。まあ、短期間雇ってエラインダー公爵に対して悪く思っていないアピールでもしておこうか」
「ちょっと、若様!敵の間者に同情するってボクはなんなのさ!」
メイドのアーサは、怒る素振りを見せながらも、手はリューに出すコーヒーを丁寧に入れる動きをしている。
アーサも完全にメイドが板について来たなぁ。
リューは内心感心した。
「アーサの下に付けるから、監視しておいて。こちらの都合がいい情報を、あっちに流す時に利用するから、お願いね」
リューが、お願いすると、
「……わかったよ。若様にお願いされたら断れないもんね」
アーサはそう答えるとリューの前にコーヒーをスッと出す。
「ありがとう。じゃあ、よろしく。──他に採用希望者に優秀そうなのはいるかな?」
リューは出されたコーヒーを飲みながら、聞いた。
「こちらではありませんが、マルコ殿から、竜星組の王都事務所の方に西部の裏社会勢力、『聖銀狼会』の間者が数人、身分を隠して潜り込んできていると、報告が上がってきました」
「お?早速、来たね。うちはマイスタの身内で固めているから、余所者はすぐバレるのになぁ。そっちはマルコに任せておこうか。ランスキーのところには来ていないのかな?」
「ランスキー殿の方は、間者ではなく、勧誘があったそうです」
「引き抜きかぁ。それは困るね」
「こちらは、貴族から職人に対して二件、王都の大手商会からも同じく六件、『聖銀狼会』からランスキー殿本人を勧誘するものが一件です」
「引き抜きをしようとした人達には、後日、それなりの対応をするとして、こっちも『聖銀狼会』か。ミナトミュラー商会と竜星組との繋がりに気づいたのかな?」
リューは、疑問を口にした。
「そういうわけでもないようです。ランスキー殿が足を洗って堅気になっていると思ったようで、それを勿体ないと考えた様子です。勧誘も『近々、聖銀狼会が王都に進出するからその事務所のボスにならないか?過去の事は水に流すからどうだろう?』との誘いだったようです」
「なるほどね。確かにランスキーが配下に入ったら『聖銀狼会』は、自分達を苦しめた相手が一人減る事になるから、欲しがるかぁ。ランスキーはもう断ったの?」
「はい、即答したみたいですね。さすがにそこはランスキー殿も引けないところだったようです」
「あはは。さすがにランスキーをあっちに送り込んで情報を引き出すわけにもいかないか」
リューは職人気質のランスキーには間者の様な仕事は向かないだろうなと想像して笑うのであった。
「どうするのリュー。うちもあっちには間者を送り込まないと、いけないんじゃない?」
リーンが、大事な提案をする。
「そうしたいけどね。下手に送り込んでこっち側が警戒している事を教える事にもなりかねないから、今は、ライバ君のところに幹部として入っているこちら側の人間の下に、数人送り込むくらいでいいと思うよ」
「わかったわ。じゃあ、マルコにその辺りは任せておけば大丈夫ね」
リーンはリューの意見に納得すると、椅子に座り直して、アーサが淹れてくれたコーヒーを一口飲むのであった。
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