第274話 表彰式ですが何か?
無事、『ショウギ』大会は、日程通り行われ、表彰式になっていた。
トラブルはあったものの、想定内の出来事であった。
もし、想定外があるとしたら、この優勝者の商人”フナリ”の存在だろうか……。
今回の興行主はランドマーク家であり、ミナトミュラー家はサポート役である。
だから表彰式には父ファーザが立ち、賞金の授与を優勝者であるフナリ氏、準優勝者であるケイマン男爵にしている間、舞台袖でリューは眺めていたのだが、ちょっと優勝者であるフナリ(『闇商会』のボス・ノストラ)を、驚かせたい気分になった。
そこで、優勝者に対して、記念の盾を渡す段取りがあり、それはレンドがする予定であったのが、リューが急遽変わって貰う事にした。
今大会の発案者であるレンドの華々しい役割を奪う様で悪かったが、こんな面白い状況は無い。
それに、一応、他所の組織の興行に偽名を使って参加して優勝をかっさらっていく行為を行ったのだから、釘を刺す意味でもこれくらいはやっておいた方が良いと思ったのだ。
司会の男性が、大会スタッフに授与式の予定変更を耳打ちされる。
「では続きまして、優勝者に対して、今大会の記念盾の授与に入ります。授与してくれる方は、この『ショウギ』の発明者であり、ランドマーク伯爵のご子息であるリュー・ミナトミュラー準男爵です!」
司会者は、何事もなく最初からその予定であったとばかりに進行した。
その中、優勝を観客に祝福されてそれに応えていたフナリ(ノストラ)氏は、予想だにしなかったリューの名前を聞き、驚いて司会者の方を振り返る。
そして、すぐに舞台袖の方を急いで見ると、壇上にリューが上がって来た。
ここでノストラは、最近熱を上げていた『ショウギ』の発明者が、他所の組織の組長であるリューだと初めて気づいたのであった。
リューは、ノストラの笑顔が引き攣り始めているのを確認すると、記念盾を持って、優勝者である商人の”フナリ”氏に歩み寄る。
そして、
「優勝おめでとうございます。フナリさんでいいのかな?僕が知っている知人にそっくりなので、勘違いしそうになりましたよ。ははは!──僕が考えた『ショウギ』を、ここまで好きになって頂き光栄です。それではどうぞ」
と、リューは告げると、”フナリ”氏に記念盾を渡す為に急接近した。
「(他所のシマに乗り込んできて、優勝するって、正気ですか?)おめでとうございます!(ニッコリ)」
と、リュー。
「(し、知らなかったんだよ!)ありがとうございます!(笑顔、引き攣り)」
と、ノストラ。
「(これは、『貸し』にしておきます)次回も開催する事ができましたら、参加お待ちしていますよ♪」
リューは、歓声に包まれる中、ノストラと握手しながら耳打ちする。
「(わ、わかった……)予定が合いましたらぜひ」
ノストラは、終始笑顔を引き攣らせながら答えて記念盾を受け取った。
「それでは、みなさん。最後にまた激戦を制し、記念すべき『ショウギ』大会第一回優勝者になりました”フナリ”氏に盛大な拍手を!」
司会者がそう言うと、観客を盛り上げた。
何も知らない観客は、舞台に立つ『ショウギ』の発明者であるリューと、優勝者であるフナリに対して拍手と喝采を送り続けるのであった。
「リュー、何を耳元で話してたの?」
リーンでもこの歓声の中では聞き取れなかったのか確認してきた。
「ふふふ。釘を刺しておいただけだよ。さすがに舞台上ではあちらも言い訳の言葉は思いつかなかったみたいだけど、どうやら、本当に『ショウギ』が好きで参加したみたいだね」
リューは、リーンにそう答えた。
「なんだ、うちの興行を荒らしに来たわけじゃないのね」
リーンは、抗争に発展するかもしれないと思っていた様だ。
「とはいえ、優勝して賞金と記念盾を奪っていったわけだから、あっちはうちに借りが出来た感じかな。ははは!」
「でも、どうするの?今後は」
当然の疑問だ。
出入り禁止にするのか、それとも……。
「さすがにあんなに楽しそうにしていたノストラにこれ以上は嫌がらせする気はないよ。次回も本人が参加したいなら、して貰うよ。それに、ノストラの『闇商会』は、組織の運営に四苦八苦しているみたいだから、賞金がその足しになるのであれば、まあ、いいかな。自分で勝ち取ったものだし」
「そうね。大会も盛り上がったし、いいかもね」
リューが納得しているのであれば、リーンも満足であった。
こうして、『ショウギ』大会は大成功の中、全ての日程を終了したのであった。
「ボス、お帰りなさい!」
『闇商会』の本部事務所で仕事をしていた部下達が、ノストラの帰りを出迎えた。
「おう、ご苦労様」
満面の笑みのノストラを前に、部下達は付いてくるなと言われていた『ショウギ』大会の結果を知りたがった。
「結果は、どうだったんですかボス。それにその鉄の板は?」
「これはな。大会の優勝者に与えられる『記念盾』ってやつだ!」
ノストラは、誇らしげにその記念盾を部下達に見せつけた。
「おお!さすがボス!熱心にやってましたももんね!俺達も誇らしいっス!」
部下達も最近ずっと仕事に忙殺され笑顔が少ないボスの事を心配していた。
そんな中、『ショウギ』の時は笑顔が見られるようになっていたので、暇がある時は、部下達も進んで対戦相手をしていたのだ。
それだけにその結果が実って嬉しいのであった。
「そうか、そうか!賞金も入ったし、今日はお前達の普段の労も労って飲み会でも開こうかい」
ノストラがそう告げると、
「よし、野郎共!ボスの祝勝会だ!竜星組に人を走らせて、最近美味いと有名な『ニホン酒』を大量に買って来い!」
と、部下達は急遽準備を始めるのであった。
竜星組の名に、一瞬固まるノストラであったが、気を取り直して自室に戻ると、一番目立つところに優勝の記念盾を飾り始め、満足した表情を浮かべるのであった。
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