第273話 ショウギ大会ですが何か?
『ショウギ』大会当日。
大会は、三日間行われるが、そのほとんどの時間は予選会である。
予選会場は、テントがいくつも張られ、その下で沢山の参加者が所狭しとずらっと横並びし、開始の合図を待っている。
開始宣言には、ランドマーク家主催の大会であるから、父ファーザが務める。
その前にまずは、ミナトミュラー商会の興行部門から派遣された司会の男性が、ルールの簡単な説明や、マナーについての話があった。
そして、この初日の最初の盛り上がりは、優勝賞金発表の時であった。
「白金貨三枚が授与されます!」
と司会の男性が宣言すると、地の底から沸いてくるような声がどっと上がった。
「高額賞金だと、聞いていたが白金貨三枚!?」
「き、金貨何枚だよ!?」
「落ち着け!金貨だと三百枚分だ!」
参加者達からは、動揺の声がいくつも上がる。
「なお、参加者は、貴族様から、平民までおられますが、この大会は実力勝負です。気兼ねなく相手に勝つ為に、みなさんベストを尽くして下さい」
司会者は、そう注意する。
確かに、対戦相手が貴族とわかって委縮している平民の参加者もいる。
緊張するなと言われても無理な話かもしれない。
「それでは、今大会の主催者であるランドマーク伯爵から、ご挨拶を」
父ファーザが、舞台に登場する。
すると拍手が上がった。
意外に、父ファーザは人気がある様だ。
リューは、舞台の袖からそれを眺めて、安心する。
「ここで、今大会が開催出来るまでの苦労話でもしたいところですが、息子が短い挨拶を求めているので、早々に開始宣言をしたいと思いますが、いかがでしょうか?」
登場した父ファーザは、自己紹介をする事も無く、そう言うと、会場がどっと沸いた。
この父ファーザの冗談で緊張していた参加者もリラックスできたようだ。
父ファーザは、その反応に満足すると、
「それでは、これより『ショウギ』大会を、開始します!」
と、宣言した。
その瞬間、会場から駒を盤上に打つ音がパチンと鳴り響きだす。
参加者達は、賞金もかかっているので真剣そのものだ。
時折、特殊な砂時計をひっくり返し、考慮時間をスタートするのを忘れた選手が慌てる場面がいくつも見られたが、それ以外は順調に時間が経過していく。
先程の父ファーザの冗談で沸いた会場であったが、今は、駒を指す乾いた音だけが、会場内には鳴り響いていた。
机を挟んで対戦者と盤の睨み合いは続いていたが、考えるのに集中し過ぎて時間が経過し、相手の指摘で負けが決まる瞬間がついに訪れた。
そこからは、次々に同じような指摘で試合がストップしたり、「……負けました」と、敗北宣言をする者も現れる。
「いや、俺は負けていない!」
と、負けを認めず、盤をひっくり返そうとする者も現れ、中々混乱を極めたが、すぐに審判が駆け寄り、取り押さえる事態に。
その場面を呆然と眺めている間に、考慮時間を過ぎてしまい、負けるという判定も起きたが、ランドマーク家、ミナトミュラー家の用意した審判団が、一度中断して打ち直しさせる事で、上手く取り仕切り試合は進行していった。
やはり、大金がかかった勝負という事で、みんな真剣さに拍車が掛かったようだ。
リューは、試合会場で時折起こるトラブルを舞台袖から、今後の参考にしようと観察するのであった。
大きなテントの会場には、大きな盤の様な板が用意され、そこで観客を相手に注目選手の試合結果を解説する者がいる。
「ケイマン男爵のこの手は、素晴らしいですね。一分という限られた時間でこの手を思いついたのは、凄いとしか言いようがありません」
優勝候補の一角と思われる注目選手の試合を解説員が、分かり易く説明すると観客が感心して頷く。
「なるほど、そういう事か!」
「ひえー。俺にはあの手は思いつかないな」
「さすが優勝候補!」
解説員の説明に観客が感心する中、その傍では、沢山の露店が商売を始めている。
観客のみならず、試合を終え、次の試合までの腹ごしらえに露店で食べ物を購入する者もいた。
「あっちで優勝候補の一角、ギョーク侯爵を破った奴が現れたぞ!」
「なんだって!?」
「しかも、平民みたいだ!」
この情報に静かに試合が行われていた会場にどよめきが起こる。
「ケイマン男爵と並んで強いと言われていたのに、本当か!?」
初戦で敗退し、見学に回っていた貴族達も大慌てだ。
そして、その試合内容が、メイン会場の解説員によって解説が始まると、その一手一手に観客、試合が終わった参加者達の声が上がる。
「対戦相手の平民、凄いな」
「相手のギョーク侯爵も相当強い。これは名勝負だったな」
「予選一回戦でこのレベルか!」
会場は予想外の白熱した試合の解説に大盛り上がりである。
「これは、大成功間違いなしだね」
リューは、予選一回戦の段階での様子を見て、リーンに予想を告げた。
「そうね、この感じなら最終日まで良い感じかも」
リーンも頷く。
こうしてリューとリーンの予想通り、途中でダレる事無く試合は決勝が行われる最終日まで順調に進むのであった。
『ショウギ』大会三日目最終日。
「大会準決勝の勝者は……、大会前から優勝候補の一角に上げられていた男爵であるケイマン選手と、今大会のダークホースである商人のフナリ選手です!この二人によって決勝戦が行われます!」
その日の午前に行われた準決勝は、引き続き大盛り上がりであった。
リューとリーン、護衛のスードは、昼から様子を見に会場を訪れていたが、メイン会場に押し寄せた観客の数に驚いた。
まさに人だかりである。
メインの大きなテントには入りきれない人たちが、押し寄せてテントを囲んでいる。
解説員の声だけでも聴こうと、聞き耳を立てている者も多かった。
決勝戦は、両者持ち時間が一時間ずつ与えられているので、特注の砂時計が二つ対戦者の傍らに置かれ、駒を盤上に指す音が鳴るたびに、審判が砂時計を横にして止めたり動かしたりする。
その試合展開を解説員が伺い、会場の大きな盤の駒を指す。
その度に、会場からは、「おお!」という低い声が響くのであった。
リューは、決勝進出して真剣に駒を打つこの両選手の様子を窺おうと、舞台袖から眺めた。
すると、ケイマン男爵の対戦相手に見覚えがあった。
「あれ?」
見間違えかと首を捻るリュー。
「どうしたの?」
リューの反応に疑問を持つリーン。
その時、
「参りました……!」
というケイマン男爵の負けを認める敗北宣言が会場に響いた。
その瞬間、会場は一瞬の沈黙の後、一気にどっと沸いた。
司会の男性に勝ち名乗りを受けて勝者の商人が舞台に上がり、優勝した感想を司会の男性に求められ、それに答え始める。
その光景を見たリューとリーンは、一人の男の姿形で一致した。
「「『闇商会』のノストラ!?」」
二人は同時に同じ名前を口にするのであった。
そう、優勝者は、『闇商会』でボスを務めるノストラであったのだ。
「まさか、他所の組織が関係している興行にボス自ら参加してくるとは……」
リューは、ノストラが優勝を純粋に喜んで観客に手を振っている姿を見て、苦笑いするのであった。
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