第270話 南部の火種ですが何か?

 現在、王国南東部におけるランドマーク家の知名度は絶大であった。


 王都での成功もその短期間での伯爵までの昇爵もあり、名実ともに南東部を代表する貴族にのし上がっている。


 それは派閥の長であるスゴエラ侯爵も認めるところで、派閥ではベイブリッジ伯爵家と双璧を成す存在になっている。


 また、ランドマーク家の扱う商品も、南東部どころか、最近では東部、南部でもその評判は轟き、流行の最先端である王都での成功もあり、貴族達もランドマークブランドに飛びつく有り様だ。


 そんなわけで、ブランド化したランドマークは無双状態であった。


 元々、魔境の森の傍という事で木工製品も沢山作られていたのだが、ランドマークブランドとして家具も一通り商品化されると、これも大ヒット。


 品質の良い木材を使用した商品がお手頃価格で手に入るとして他の追随を許さず一人勝ち状態である。


 それに伯爵に昇爵した事で、その影響力は倍増しているから、当主である父ファーザがその気がなくても、ランドマーク家の傘下に入ろうとする下級貴族も接触してくる事態だ。


 実際、南部地域では、南部派閥のマミーレ子爵、息子が代理を務める事が多くなって来たブナーン子爵などは、ランドマーク家にいろんな意味で世話になっていたから、伯爵に昇爵し、上級貴族になった事で堂々と彼らは低姿勢でランドマーク伯爵に接触し始めていた。


 こうなると面白くないのは、南部派閥の面々である。


 風の噂で、領地が接っする派閥貴族も出てきそうだという事もあり、警戒を始めていた。


「南東部に近いブナーン子爵、マミーレ子爵などが、最近ではあまりこちらに顔を出さないな」


 南部派閥の首領である、侯爵は会合の出席率が悪くなっている事に不満を漏らした。


「ブナーン子爵は息子が代理を務めて日が浅いので自領の事で手一杯とか。マミーレ子爵も同じく自領の立て直しで忙しいそうです」


 会合に出席した貴族の一人がそう庇って報告する。


「両名とも、ランドマークからお金を借りているのだろう?そのくらいは流石に儂の耳にも入っておるわ。こちらで借りられないと思ったら南東部の成金貴族に尻尾を振るとは節操のない事だ」


 ご機嫌斜めの派閥首領である侯爵は、ふん!と、鼻息を鳴らすと厳しく言い放つ。


 会合に出席している貴族達は、逆鱗に触れたくないと、首を縮める。


「噂では借金まみれで首が回らなかったマミーレ子爵は、ランドマーク伯爵のところ以外の借金は返し終わっているとか……。どういうからくりでそうなったか知る者はいるか?」


「聞いた話では、ランドマーク伯爵がマミーレ子爵の借金を全て肩代わりして支払い、全ての借金を自分のところに一本化したとか。それで、マミーレ子爵は恩に感じているようです」


「肩代わりされても借金は減るまい」


「それが、借金の肩代わり以外に、領地経営の見直しも手伝って貰ったらしいという噂も聞いております」


 貴族の一人の言葉に、今度は他の出席している貴族達がざわついた。


「そんな事まで!?」


「自領の領地経営をよその貴族に口出しさせるとは、恥知らずな!」


「……だが、それで借金が無くなるなら……」


「うん?貴殿のところはそう言えば、最近、芳しくない噂を聞くな。領地経営が上手くいっていないのかな?」


「……ははは。例えばの話ですよ……」


 貴族だからといって、どこも贅沢な暮らしをしているとは限らない。


 マミーレ子爵の様に、先代からの借金が積み重なり自転車操業で領地経営していたのは酷過ぎるが、それに近い者も少なからずいる。


 実際、借金のかたに爵位を売って平民に落ちる者もいなくはないのだ。


 そういう噂は他人ごとではない為、マミーレ子爵の成功例は、生活に困窮している貴族にとって希望の光であり、密かにランドマーク家に水面下で近づく者も人知れずいた。


 ランドマーク家は、リューの指導の下、金貸し業務もひっそりだが行っている。


 南部の貴族にも実は、何人か借りている貴族もいるのだが、流石にそれを口にする者はいない。


「しかし、ランドマーク製の商品は確かに素晴らしいものがあります。王都でも成功してるのが頷けますし、これから仲良くしておいて損はないかと思いますが……」


 現実的な提案をする会合出席者がいた。


 侯爵は、じろっと軽くその会合出席者を睨むのだが、言った本人は目を逸らして気づかないフリをした。


 ちなみにこの者を含め、会合出席者にもランドマーク家から借金している者が複数名いた。


「……確かに、ランドマーク伯爵にはブナーン子爵の件で借りがある。だが、それと派閥の勢いが衰える原因になってる事とは別問題だ。マミーレ子爵、ブナーン子爵などが、万が一スゴエラ派閥に寝返ったら、こちらにもダメージがある。そうなっては困る事はみなもわかっているだろう」


 侯爵の言葉に会合出席者達もざわついた。


 南部は、派閥がいくつかあり、侯爵の派閥は名門であるマミーレ子爵を擁する第一の勢力である。


 だが、そのマミーレ子爵や、ブナーン子爵に抜けられると他の派閥の追随を許す事に他ならない。


 南部の侯爵派閥は、ランドマーク伯爵擁するスゴエラ侯爵派閥に対して、敵対心を持つのであった。




「今日もうちの領地は平和だな」


 父ファーザが、暢気にテラスで仕事の合間にお茶を楽しんでいた。


 傍らには、自転車とリヤカーの新モデルと、三輪車について報告に来ていたリューと、リーンがいる。


「お父さん、話聞いてます?」


 リューが、暢気な父に注意を促す。


「ああ、聞いてるさ。三輪車か……、確かに自転車に比べたら安定して乗り易そうだな。それに二人別に人を乗せられるのだろう?何か商売になりそうだな」


「はい。現在、人を運ぶ手段は、主に乗合馬車が主流ですが、馬の分維持費にお金が嵩むので、人力のみで人を運べる三輪車は小規模な運送には持って来いです。これが完成したら新たな交通機関として利用するお客さんが増えると思います」


「そうか。ならその案を試してみよう。職人に話を持ち込む様にセバスチャンに言っておくといい」


 父ファーザは、全幅の信頼を置くリューの意見を採用すると、またお茶飲んで一息つくのであった。

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