第265話 嵐の前のですが何か?
ライバ・トーリッターがボスを務める雷蛮会が、西部の裏組織『聖銀狼会』を、王都に引き入れようと画策しているという情報を、リューは『闇商会』と『闇夜会』にすぐ伝えた。
その情報が、二つの組織にとっても意味が大きかったのか、緊急連絡会はその二日後には実現された。
「で、その情報は確かなのかい?」
席に座って連絡会を始める事を、進行役のマルコが宣言すると、開口一番、『闇夜会』のルチーナが、目の前の少年に確認を取った。
「はい。確かな情報筋から入手したので」
「……『聖銀狼会』か。当時、俺は後方で戦略練る役目だったから、色々と卑怯な策を考えて奴らを追い詰めたなぁ」
『闇商会』のボス・ノストラが、『闇組織』での出世のきっかけになった当時の抗争を振り返ってつぶやいた。
「あれ考えたの、あんた達だったのかい?私はあの時、毒殺やら騙し討ちの実行部隊だったけど、あれはあれで中々酷いと思ったものさね」
ルチーナが、身振り手振りを混ぜて説明した。
「お二人とも出世のきっかけになった抗争みたいですね。──今回、また、その『聖銀狼会』が、王都進出を目論んだら、その規模から大抗争になると思います。相手は一度、痛い目に合った事で復讐心に溢れ、狡猾に行動する事は必定、敵のやり方によっては、王都の主要な組織の一つや二つ潰される可能性も……。それがうちか、お二人の組織になるかもしれません」
「……確かにその可能性は大いにあるだろうな」
ノストラがリューの推測を冷静に受け止めると答えた。
「そうなる前に、その『雷蛮会』を潰せばいい事なんでしょ?」
ルチーナが、本題に入った。
そう、今回は大抗争になる火種である『雷蛮会』をどうするかという話し合いの場なのだ。
「その前にその『雷蛮会』のボスに、『聖銀狼会』の存在を入れ知恵した奴がそもそも怪しくないか?」
ノストラが鋭い指摘をした。
雷蛮会の幹部になって入れ知恵した西部出身の男、その者が『聖銀狼会』の回し者ではないかと、ノストラは睨んだのだ。
「……ノストラの指摘通りなら、すでに『聖銀狼会』は王都進出の為に動いてるって事かい?」
「お二人とも鋭い読みです。うちもその読みに反論はありません。むしろ『雷蛮会』の方が、『聖銀狼会』に目を付けられ、王都進出の駒に利用されていると思っています。なので最早、『雷蛮会』を潰す、潰さないという次元の話でなくなっているかと思っています」
「……やれやれ。『雷蛮会』を泳がせようって腹かい?」
ノストラは、リューの考えを読んだのか、探りを入れて来た。
「うちですぐに潰してもいいのですが、『雷蛮会』に資金提供している背後関係の動向も気になりますし、今、潰せば『聖銀狼会』の今後の動きが全く読めなくなります」
「……それなら、監視の元で泳がせ、『聖銀狼会』の情報を引き出す、って事だね?」
ルチーナも二人の考えてる事を察して口にした。
「そういう事です。こちらでも『聖銀狼会』について情報を集めていますが、うちも青天の霹靂なので、まだ情報はほとんどありません」
「『聖銀狼会』のボスは、老タイ・ナンデス。先の抗争当時から代替わりしてないはずだ。この10年以上、組織を大きくする事に力を注いで来たと噂に聞いている。そしてその間、『闇組織』を意識して王都の情報は常にチェックしていたはずだから、『闇組織』が分裂して別れた今、王都進出の機会が訪れたと思って周到に準備し動き出していてもおかしくない。うちが知っている奴らの細かい情報は後で部下に出させよう」
そう言うとノストラは自分の持っている情報を約束した。
「助かります」
リューがノストラに頭を下げる。
「……ここは協力しないと単独で対抗しようとしたら、潰されるのはこちらかもしれないからな。王都はともかく、マイスタの街を火の海にはしたくない」
ノストラは連絡会の必要性を認めているのか遠回しにそう答えた。
「その通りだね。うちからは当時、どんな作戦で奴らを陥れたか戦術レベルの情報なら提供出来るわ。二度も同じ手はあいつらにも通じないだろうから、知っておいて損はないでしょ?」
ルチーナもこの連絡会での協力体制が必要な事だ理解してくれているようだ。
「お二人とも助かります。うちも情報を入手次第そちらにお渡しします」
「やれやれ……。まさかあんな大抗争を、また、やる事になるかもしれないとはな……」
ノストラは首を振る。
「ほんとさね。それも今度は組織のトップとして、あの『聖銀狼会』相手にまた、決断しなきゃいけないとは何の因果かね」
ルチーナも肩を竦めると同意した。
「それでは、三協体制で今後、『聖銀狼会』と『雷蛮会』に臨むという事で、よろしくお願いします」
こうして、緊急の連絡会は、無事終了するのであった。
「若様、ノストラ、ルチーナ両組織から『聖銀狼会』に関する情報が届きました」
執事のマーセナルが、執務室のリューに、情報書類を運んできた。
「ご苦労様、マーセナル。で、どう?その情報をざっと見てどう思う?」
「はい。私が知る限り、ほぼ正確な情報だと思います。私も西部での傭兵、執事時代に、『聖銀狼会』については情報を集めていた経緯がありますが、内容は酷似するかと思います」
執事のマーセナルは軽くその情報書類に目を通しながら、リューに答えた。
「なら、こちらもそれなりに正確な情報が得られているという事だね。ノストラ、ルチーナの両組織との協力体制が出来たのも大きい。あとは『雷蛮会』を監視下に置き、仕掛けてくる時期を図るだけだね」
リューは連絡会で情報がないと言ったのは方便であった。
ノストラ、ルチーナ両組織を頼る事で、情報の交換と協力体制の構築、そして両組織がどこまで頼れるかを計ったのだ。
多少心が痛むところではあるが、強大な敵に対峙しようとしている以上、早急な三協体制の構築は必要だったのでこれは仕方がないだろう。
「それじゃあ、細かい情報について精査していこう」
リューは、執事のマーセナルにそう声を掛けると書類の山に目を通していくのであった。
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