第264話 抗争の火種ですが何か?

 裏社会の有力な組織のひとつ雷蛮会のボスであるライバ・トーリッターは、資金力にものを言わせて兵隊をかき集めていた。


 より優秀な者を集める為、引き抜き染みた事もしているようだ。


「もう二度と……、あんな醜態は晒さない!」


 ライバは、学園祭でリューに怯えて何もできず、大人しく去った事を未だに尾を引き、我武者羅になっていた。


 そんなライバの元には、その資金力に魅かれて多くの者が集まりつつあった。


 そして、その中の一人が、新しいボスにある提案をした。


「いっその事、どこか王都以外の他所の組織と同盟を結んで王都内の他の組織を牛耳ったらどうですかい?同盟を結んだとこの兵隊に仕事させれば、こちらも被害でなくていいですし」


「王都以外の他所の組織だと?」


 ライバは、新しい部下の進言に少し興味を持った。


「へい。俺は元々西部の出身なんで多少詳しいんですが、西部の裏社会の大部分を牛耳る『聖銀狼会』なんかはかなりの力を持ってますんで、ボスの力になってくれると思いますよ?」


「『聖銀狼会』……。どんな組織だ?」


「西部は隣国と揉めていることもあり、治安があまり良くないんで、騎士とか兵士連中が多い土地なんですが、そんな中で土地の水に合わなかった連中が地下に潜り出来た組織で、本物の武闘派ですよ。確か過去に王都進出しようとして失敗した前歴があるので、声を掛ければすぐ乗ってくると思いますぜ」


「過去に失敗した?なんだ、それなら大した事ないじゃないか」


「いやいや、ボス。過去と言っても、その当時、王都と言えば、『闇組織』全盛期時代の話ですぜ?当時の『闇組織』と言えば、何でもありの巨大組織。『聖銀狼会』も、当時の『闇組織』に比べたら小さい組織だったんで、返り討ちにあったみたいですが、今は西部一帯に勢力持つ大組織です。それに今の王都に当時の『闇組織』に並ぶ組織はありません。現在王都で一番大きな竜星組ってところも当時の組織の分裂した三つのうちの一つでしかありませんから、『聖銀狼会』とうちが手を組めば、潰せると思います。あっちも王都に手引きする強力な組織があるとありがたいでしょうから、喜んで同盟を結んでくると思いますぜ」


「……裏社会での同盟は信用できるのか?」


 ライバは打算しながら、他の部下達に一番重要と思える疑問をぶつけた。


「信用は皆無でしょう。逆にうちが食われる可能性もあるかと」


「ですが、軍人上がりの兵隊は魅力的ですぜボス?」


「最初から信用せず、王都内で勝手にやらせて、肝心なところの手綱だけ握っていれば大丈夫じゃないですか?王都内の有力組織を一つ二つ潰させてうちが漁夫の利を得るのが一番かと。それにうちは縄張りを広げる時に『月下狼』と揉めた事で、手打ち状態とはいえ、竜星組に睨まれてます。余所者を利用して一番でかい竜星組辺りを潰せたら、うちも動きやすいと思います」


「……それはいいかもしれないな。余所者がいくら死のうがうちも心が痛まない。この王都のでかい組織、『竜星組』『闇商会』『闇夜会』辺りの一角を潰して貰って、うちはその後、残った縄張りを頂こうじゃないか。その『聖銀狼会』もうちを利用して王都進出を果たすつもりだろうから、精々利用されてやろうじゃないか」


 ライバ・トーリッターは、そう言い放つと高笑いするのであった。




「──という事を算段していた様です」


 王都の裏社会の情報を収集しているマルコが、雷蛮会に潜入させていた部下からの情報をリューに報告した。


「……ははは。ここまで情報筒抜けだとは、雷蛮会も全く思わないだろうね。僕もびっくりだよ。いつの間に雷蛮会に部下を潜入させてたのさ」


 リューはマルコの報告に、別の意味で驚くと聞き返す。


「最近、あちらがうちの下部組織の兵隊を引き抜こうと動いて来たので、丁度いいので乗ったフリをさせました。今ではその者は幹部の一人らしいので報告も早かったです」


「そんな節操のない事、あちらはして来てたのか。──って、幹部に!?それはその人凄いじゃない!でも、バレる前に呼び戻してあげてね?──で、その『聖銀狼会』と前回ぶつかった時は、どんな感じだったの?」


 リューはマルコの報告に感心すると同時に、心配したのだが、やっと本題に入った。


「『聖銀狼会』とは、前身の『闇組織』、私ではなく先代のボスの時代に抗争がありました。その当時自分はまだ、駆け出しで兵隊の一人でしたが、ランスキーが当時、一番の活躍をして幹部になるきっかけになりましたね」


「おお!ランスキー凄いね」


 リューが嬉しそうに拍手をする。


「それってうちの親父が生きてた時の話だよね?私も少しはその時活躍したよ若様」


 横でリューのコーヒーを入れ直していたメイドのアーサが、自分も褒めて貰いたいのか言い出した。


「アーサも凄いね!」


 リューはすかさず、このメイドも褒めた。


 アーサは、褒めると伸びるタイプだと思っている。


 そして、リューはメイドのアーサが入れたコーヒーを飲みながら、マルコに話の続きを促した。


「当時、あちらは文字通り戦争帰りの元軍人連中が主力の武闘派でしたが、うちは正面からそれに付きあう事なく、あらゆる手段を使って戦いました。流石にこっちも無傷とは行かなくなる事は予想できたので」


「そうだよね。戦闘のプロ相手に正面から戦うと、被害出ちゃうものね」


 リューも前世の抗争を思い出して、マルコの話に頷いた。


「うちはそれこそ、毒殺からだまし討ち、罠を張っての急襲、暗殺と手段を選んでなかったです。当時のボスは、そういう意味では非情でした」


「……それはまた」


 リューもそれには苦笑いした。


 味方にはしたくないが、敵にもしたくないタイプだったらしい。


「確かに『聖銀狼会』は、当時も大きな組織だったと認識していますが、当時の『闇組織』は、それよりももっと大きく、精鋭が多かったので正面から戦っても勝てたと思います。しかし、非情な手段を用いた事で、こちらには被害がほぼなく、さらにはその苛烈さから王都で地位を確立した感じでした」


「その勝ち方だと相手の『聖銀狼会』は、正面から戦えば勝てたと思っているかもしれないなぁ。そうなると、やはり、雷蛮会から王都進出話を持ち出されると乗ってくる可能性は高そうだね」


「はい、そう思います」


「じゃあ、マルコ。緊急連絡会を準備して。『闇商会』、『闇夜会』にも相談しておかないといけない問題だから」


「わかりました」


 マルコは、そう答えるとリューの執務室から退室するのであった。


「執事のマーセナルを呼んで。彼も西部に居たから、少しは事情知ってるかもしれない」


 リューは、メイドのアーサにそう指示すると椅子に深く座り込む。


「雷蛮会は潰すの?」


 黙っていたリーンが、リューに聞く。


「そうだなぁ。王都に余所者を招いたら他の組織も黙っていないだろうし、そうなるかもね」


 リューはライバ・トーリッターを思い出し、溜息を吐くのであった。

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