第260話 昇爵の反応ですが何か?

 リューの昇爵は、学園の中間テストと重なり、さほど祝われる事なく過ぎ去った。


 リュー本人も、学園では隅っこグループとリューに付き従う普通クラスのスード・バトラーくらいにしか告げる機会がなかったので、他の者が知る事がなかったのが事実ではある。


 リューも自慢する気はなかったし、隅っこグループはみんな、いまさら驚く事でもないという態度であった。


 それより学生の本分は勉強である。


 と言っても、中間テストの結果は、予想通りの順位であった。


 1位リュー・ミナトミュラー

 2位リーン

 3位エリザベス・クレストリア

 4位ナジン・マーモルン

 5位イバル・コートナイン

 6位シズ・ラソーエ

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 21位ランス・ボジーン

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 65位スード・バトラー


 触れる事があるとすれば、4位のナジンと5位のイバルが接戦でナジンが4位の座を死守したという感じだろうか?


 あとは、シズが、魔術大会での優勝が自信に繋がったのか、点数を伸ばし、ナジンとイバルに迫る6位に浮上、ランスも前回のテストからまた順位を上げていてその努力の成果が出ていたし、剣の実技以外では平均点だったらしいスード・バトラーがリューに勉強を教えて貰った事で少し順位を上げたという事くらいだ。


 テストが終わった事で、やっとリューの昇爵について触れられる事になった。


「え?ミナトミュラー君、準男爵に昇爵したの!?」


「騎士爵への叙爵から数か月で昇爵って何をしたんだ!?」


「十二歳で準男爵へ昇爵……、一部を除いてほぼ前例がないんじゃないか?」


 王女クラスの生徒達はすぐにこの話で持ち切りになった。


「いまさら驚く事なのか?」


 リューについて、感覚が麻痺しているランスがそう口にした。


「ランス。正気に戻れ。リューに関しては周囲の反応が正常だという事だ。自分もテスト期間中に言われてついスルーしたが、十二歳で叙爵、数か月後に昇爵なんて異例中の異例だ」


 ナジンがまともな指摘をした。


「……そうだよ、ランス君。リュー君については”異常”の塊だよ?私達が、その異常さに慣れてしまっているだけだからね?」


 シズがナジンに同調する様に頷いた。


「……言い方酷くない?」


 リューがシズにツッコミを入れる。


「流石、主。良い意味で、異常です」


 と、スード。


「俺としては、雇い主の出世は有り難いけど、確かに異常なのは認める」


 と、イバル。


「いや……、ホントみんな。オブラートが仕事してないよ!?」


 リューはみんなからの異常発言にツッコミを再度入れるのであった。


「みんな、リューは才能と努力の結果、ちょっと異常な十二歳になっただけよ?それ以上はリューに失礼だから止めて上げて」


 と、リーン。


「リーン、それフォローになってないから!」


 リューは一番の味方であるリーンの悪気のないフォローにツッコミを入れるのであった。




 リューの昇爵に関しては、教室で驚くレベルであったが、主家であるランドマーク家の伯爵への昇爵は、貴族社会では十分驚くに値するものであった。


 何しろ騎士爵から一代で伯爵まで昇りつめたのである。


 普通ならば、一代で一つ昇爵しただけでも大変な功績だが、それが短期間で上級貴族の仲間入りであるから貴族の間で話題にならないはずがない。


「ランドマーク家か……。確かに王都においてあの者の名を聞かない日は無いからな。うちもランドマーク製の馬車に乗っている。妻は『チョコ』のファンだ」


「今回の昇爵だが、噂では王都で打ち上げた『魔法花火』というものを、開発して国の士気を高め、諸外国に王国の偉大さを知らしめたからだそうだぞ」


「あれか!確かにあれは式典で諸外国の大使達の度肝を抜いたと、その場に招かれていた上級貴族達が誇らしくしていたそうだ」


「我々も見習いたいところだな」


「見習って真似できるものか?『コーヒー』にしろ、陶器の便器にせよ、最近売り出されたあの『自転車』などは特に、凡人では思いつけないぞ?ああいうのを思いつくのは天才の類さ。我々で真似できるものではない」


「天才というのは変な奴が多いと聞くが、ランドマーク子爵……、いや、伯爵は、一度会って話したことがあるが、とても気さくで話の分かる武人然とした、とても爽やかな男だったぞ?」


「そうなのか?……そんな出来た人物なら、これから仲良くしておきたいところだな」


 こんな感じで、日頃からの名声と、父ファーザの人当たりの良さが、好印象を与え、貴族の間でも歓迎ムードであった。


 その反面、もちろん嫉妬する者はいるもので……。


「地方の平民上がりの成金下級貴族が伯爵だと!?」


「我々、伝統と格式を誇る王国貴族としては、見過ごせない事ですな……」


「国王陛下も何をお考えなのか……。商売の才能があるだけで伯爵にしていては、貴族の品位が下がるというものよ」


「子爵までなら、まだわかるのだが、伯爵とは……な」


「それも、陛下直々に、魔境の森に限られるが、領地の『切り取り自由』許可状なるものを出されたとか……」


「田舎をいくら切り拓こうがそれは好きにさせればよいさ。だが、王都で偉ぶられるのは癇に障るわ」


 一部の古くからの貴族にとっては伝統と格式は絶対だけに、新興貴族の存在はいつの時代も煙たがる傾向にある。


 現在の王都において、その新興貴族の代表格がランドマーク家になるのであったが、その地位が高位の伯爵だけに、陰口は叩けても直接言うには、爵位が絶対の者達にとって、それも憚られるのであった。

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