第259話 伯爵ですが何か?

 一足先に準男爵への昇爵を済ませたリューであったが、主家であるランドマーク家の伯爵への昇爵の儀も数日後には無事に終える事が出来た。


 その昇爵の儀に立ち会い、そこから戻って来た兄タウロが言うには、そうそうたる宮廷貴族が見届け人として居並んでいたとかで、かなり緊張したという。


 リューが付いて行った時には、官吏達が見届け人だったので、やはり伯爵ともなるとその辺りは規模が違ったようだ。


 リューは詳しくその辺りは聞いてみたかったが、父ファーザと兄タウロは早くランドマーク領に戻ってみんなに報告したいのは伝わって来たので、すぐに『次元回廊』で送り届けるのであった。


 リュー達が、『次元回廊』で帰って来て、無事昇爵の儀が終えた事を家族に報告すると、執事のセバスチャンが待機させていた使用人達に命じて、早馬を四方に出した。


 前回の子爵への昇爵とは違い、ランドマーク領全体で祝う為だ。


 もちろん、派閥の長であるスゴエラ侯爵、兄タウロの婚約者の父で、盟友であるベイブリッジ伯爵にもいち早く報告する事は忘れない。


 ランドマーク家はこの数年で騎士爵から伯爵までの出世を果たしたのだ。


 その早い出世はもちろん異例である。


 だから他からの妬み嫉みもあるだろう。


 だが、そうそう表立っては言える相手ではないのも確かであった。


 それにランドマーク家は何より、実績がある。


 騎士爵になった経緯も先の戦いで当時のスゴエラ辺境伯に付き従い、隊を率いて戦場を駆け巡り、大活躍した実績からであり、その後も寄り親である当時のスゴエラ辺境伯の暗殺計画を未然に防いだり、数々の発明で文化的貢献を果たしたりとその活躍は枚挙に暇がない。


 今や、ランドマークの名は、王国南東部では知らない者はほとんどいないし、王都でもその名は、流行の最先端を意味した。


 王都での成功は、地方にも徐々に伝わるであろうし、その名声に伯爵という地位がやっと追いついたと言っても過言ではなかったかもしれない。


 ランドマーク家は、今や地方の成金貴族扱いするには無理があるくらいにその名を轟かせ始めていた。


 それに今回、伯爵への昇爵の際に、魔境の森の『切り取り自由』の許可を、国王直々にランドマーク家に許したのだ。


 これは現国王一代限りのものなので、魔境の森という危険で謎の多い特殊な未開地をどのくらい開拓できるのか怪しいものであったが、国の財産である領地というものを自由に拡げてよいという異例な事を国王自ら許可するという事は、ランドマーク家が王家にとって特別な存在である事を意味する。


 それだけの実績と貢献をしていると評価されたのだ。


「……許可状を貰った時は、そんなに重大な事だとは考えていなかったぞ……。──だからあの時、列席していた貴族達が騒いでいたのか……!」


 父ファーザが家族への報告時に、リューからその指摘を受けて、合点するのであった。


「あなた。どんな評価をされてもわが家が王家に忠義を尽くす事に変わりはないわよ」


 母セシルが、最もな指摘をした。


「そうだな……。何も変わらないな。──これからも王家への変わらない忠誠を捧げてランドマーク家を栄えさせるぞー!」


 父ファーザはこぶしに力を込めて突き上げるとそう鼓舞した。


「「「おー!」」」


 リューと兄タウロ、妹ハンナは父ファーザに同調する様にこぶしを突き上げる。


 そして、一同は笑いに包まれるのであった。



「お父さん、伯爵になったら領地はどうなるの?」


 リューが肝心な事を思い出して、確認した。


 伯爵にもなると領地はそれに相応しい広さを貰えるはずだ。


「後日、使者が出されるそうだが、うちが隣接しているスゴエラ侯爵の与力の土地を貰えるそうだ」


 父ファーザがそう説明すると、執事のセバスチャンが何も言われなくても南東部の地図を広げて見せた。


「……という事は、この辺りかな?」


 リューが、魔境の森に接し、ランドマーク領に隣接しているスゴエラ侯爵の与力の領地を指さした。


「そうだな。そことここだ」


 父ファーザが、その隣の土地も指さす。


「南部の貴族領と隣接する事になるね。これからは南部の貴族ともうまく交流を持たないといけないよ」


 リューが重要な指摘をした。


 これまでは、領地が接していたのは、スゴエラ侯爵の与力の下級貴族、以前の同胞達だったからトラブルらしいトラブルとはほとんど無縁であった。


 今でも派閥の一員として、その与力の下級貴族とも会う事が多いし、昔の誼で名前で呼び合っていた。


 だから高度な駆け引きは必要なかったのだが、これからは他の貴族、それも南部の派閥貴族と領境を接する事になるのだから事情は大きく変わってくるだろう。


「……ふむ。領地が正式に割譲されたら、挨拶の使者を立てないといけないな……」


 父ファーザが考え込む。


「そうした方がいいと思う。でも、今回の領地の割譲は時間かかるだろうから、当分先の事だとは思うけど、今のうちに領地を接する予定の貴族領の細かい事、調べておいた方が良いんじゃないかな?」


 リューは、父ファーザに指摘すると執事のセバスチャンの方を見る。


「……早速、人を出しておきます」


 執事のセバスチャンは、頷くと使用人を一人呼んで指示した。


「爵位が上がり、領地が増える事は大変だな」


 父ファーザはそう言うと苦笑いするのであったが、もちろんめでたい事である。


「あなた達、いつまで暗い話をしているの。今は昇爵を喜びなさいな」


 母セシルが、みんなの真剣に考え込む姿を注意すると、肝心の夫と息子の昇爵のお祝いを始めるのであった。

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