第251話 学園祭開始ですが何か?
いよいよ、学園祭の開催時間を迎えた。
王立学園の校門が開かれ、外部の人々の通行が許可され始めたのだ。
警備兵は怪しい者には声を掛けるが、基本素通りになる。
早速、出入り口付近ではクラスの出し物とは別に部活動を行っている人達の出店が客引きを開始した。
「焼き立ての串肉はいかがですか~!」
「搾りたての果物ジュースでーす!一杯どうですかー!」
「焼き立てのパンでーす!美味しいですよ~!」
部活の出し物は、来季の活動費にも繋がり、上級生にもノルマを課せられているのか、強引にお客を自分のお店に案内しようとする客引きもいる。
「……みんな思ったより必死だね」
客引きの為に看板の設置とビラ配りをする事を目的に玄関先にやって来たリューは、一緒に付いて来たランスとスード・バトラーに声を掛ける。
「普通クラスの生徒は部活動に力を入れているからな。それが卒業後の人脈作りに役立つ事が多いのさ」
と、ランスがその理由を答えてくれた。
「人脈作り?」
「ああ。部活動によってはOBが就職先にいたりするだろ?活動内容を内申書で確認して頑張っていたか評価の対象にするらしいぜ?俺達元特別クラスは貴族ばかりだから部活動よりも優先するものがあるから、ほとんど部活入りしている奴はいないけどな」
「そうだったのか。僕はてっきり部活ってただの道楽かと思ってた」
「ははは!リューは現役の騎士爵として街を統治する身分だからな。そう、考えても仕方がないな。──スードは部活入ってないのか?」
ランスが、リューの考えに理解を示すと、リューの護衛役である平民のスードに、話を振った。
「自分は家族を養う事に精一杯で、部活動する余裕はなかったですよ。でも、名義だけ『剣術研究会』に貸していました。幽霊部員ってやつです。ですが、もう不要ですね。主の元で雇って貰える事になっていますので」
スードは真面目な面持ちで答えた。
「……完全にリューの護衛役として収まってるな」
ランスは、スードが周囲に目を配りながらリューの後ろにぴったりついてる事に感心した。
「じゃあ、僕らも客引きしないとね」
リューはスードについては本人のやり方に任せている。
給金も支払っているし、本人もそれに報いる為に自分が出来る事をやっている。
リューは今のところ不満もないので今の状態をよしとしていた。
「特別教室にて執事・メイド喫茶をオープンしていまーす!あの王侯貴族の子息子女があなたを接客するかもしれません!お越し下さーい!」
リューが通行人への殺し文句を言い放った。
「「「え?」」」
通行人はリューの殺し文句に足を止めるとビラを受け取り始めた。
「そのビラ、俺にもくれ!」
「わ、私も!」
「もしかして第三王女殿下のクラスの出し物か!?」
「王女殿下!?」
通行人達は王女殿下という単語に、完全に足を止める。
「……何々?『ルーレット方式の価格設定。貴族の子息子女による接客と、ランダムで現れるエルフ美女や王女殿下のメイド姿を拝めるのはここだけ!』だと!?場所は……、あっちか!」
ビラを受け取って地図を確認した通行人達は急いで校舎に入っていくのであった。
「……流石王女殿下だな。まあ、学園関係者以外からすると王族を拝める機会なんてほとんど無いからな!」
ランスが、通行人の反応に感心しながらリューに声を掛ける。
「この感じだとあとは口コミと看板設置だけで、行列が出来そうだね」
リューは笑顔で答えると詰め寄る通行人達にビラを配り終えるのであった。
王女クラスによる執事・メイド喫茶は開店から少しの時間で行列が出来ていた。
入り口には仕切りがなされているので、店内の様子を窺う事はできないが、
「おお!」
という感嘆から、
「マジ神!」
という賞賛、
中には
「一生の思い出になりました!」
という誤解を生みそうなセリフまで聞こえてくる。
そして、しばらくすると、
「くそー!もう少し横にズレたら銅貨1枚だったのに、銀貨5枚かよ!」
とか、
「ほっ……。銅貨3枚だった!」
とか、
「銀貨10枚か……!いや、王女殿下のメイド服を拝めただけでもその価値はある。いや、それ以上だ!」
というビラにあったルーレットによる価格設定に一喜一憂する人達の声がしてくると、お客が出口から退室してくるのであった。
そして、入り口の扉が開き、
「次のお客様どうぞー!」
と、執事姿の学生がお客を中に案内する。
待っていた男性客は、ドキドキしながら店内に入った。
そこには、貴族の子女のメイド姿があった。
他にも執事姿のリュー達もいるのだが、男性客にはメイド姿しか視界に入っていない。
「「「いらっしゃいませー!」」」
接客をする生徒達の若々しい声が響く。
「おお……!これが貴族様の接客!……はっ!──王女殿下はどこ!?」
慌てて男性貨客は王女殿下を探す。
だがそこに王女殿下らしい人影はない。
「い、いない!?」
がっくりする男性客。
そこへ、
「こちらへどうぞ、お客様」
と声を掛けるメイドが現れた。
がっかりしている男性客は、そのメイドの方を何気なく見ると……。
そこにはエルフの美女が立っていた。
「て、天使だ……」
男性客はその言葉だけ絞り出すと、案内されるがまま席に誘導される。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さいませ」
エルフの美女にそう言われると、男性客は見惚れて「……はい」と、気の抜けた返事を返した。
エルフの美女とはリーンの事であったが、男性客はそのリーンの後姿をいつまでも目で追っているのであった。
「ふふふ。どうやら、交代で2人を出す作戦は成功しそうだね」
リューは、裏で一部始終を眺めるとお客の反応が上々なので、ランスと軽くハイタッチをした。
「本当に私はすぐに引っ込んでいいのかしら?みんなは働いているのに……」
エリザベス第三王女が申し訳なさそうに言う。
「大丈夫ですよ。王女殿下が時折現れるから、価値があるんです」
リューはそう説明すると、終了の時間が来た裕福そうなお客さんが会計に案内されてきた。
「おっと、ナジン君。じゃあ、ルーレットをお願い。後ろの右のスイッチを気づかれない様に入れてからお客さんに回して貰ってね?」
とリューが、指示する。
「了解」
そう答えてナジンが会計業務を行う。
「それではお会計をしますので、こちらのルーレットをお回し下さい」
「ほほう、これがビラに書いてあったルーレットか!私は強運の持ち主だから銅貨1枚を出して見せよう!──せい!」
裕福そうな男性客は、勢いよくルーレットを回した。
すると……!
「ありがとうございます、銀貨10枚です!」
「な、なんと!……強運が裏目に出たか……。まあ、よい。後でまた来て挑戦しよう!」
裕福そうなお客は笑って答えると、満足そうに退室していくのであった。
「ありがとうございました!」
リューがいろんな意味を込めてお客さんの背中に声を掛ける。
「……仕掛けがわかっているだけに、自分にそんな感謝の言葉は言えないな……」
ナジンは、苦笑いするとリューにそう指摘するのであった。
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