第250話 当日の朝ですが何か?

 学園祭当日──


 校門前には沢山の行列が出来ていた。


 王立学園はその広大な敷地に1年生から4年生の校舎、各特別教室校舎など別々に独立して用意してあり、普段はほとんど交わる事は無い。


 校門も学年毎に違うのでその前に出来る行列はその学年の人気に比例する事になる。


 もちろん、各学年の間には敷居は無く、出入りは可能なのだが、この日の様な学園祭でもないと生徒達が行き交う事はそうそうにないのであった。


「ランスキーからの報告だと、私達1年の校門前が一番行列が長いみたいよ?」


 リーンが、いつの間にかランスキー達を校門前に偵察に出していた様だ。


「ちょっと、リーン。ランスキー達をそんな事に使っちゃダメだって」


 リューがリーンを注意した。


「私じゃないわよ?ランスキー達が今日の成功を見届けたいって言って、職人達を引き連れて来てるの」


「ええ!?僕には何の報告もなかったよ!?それに、まだ、校門も開いてないのになんでリーンに報告が来るのさ」


 蚊帳の外に置かれている事にリューが抗議をする。


「ランスキー達職人は、関係者登録しているから、出入り可能なのよ。よく見なさい。その辺りで最終作業してる作業員はみんなうちの職人達よ」


 リーンが指さすと、リューにはあまりに見慣れ過ぎてスルーしていたが、作業員のほとんどがミナトミュラー商会建設部門の作業着である青色のつなぎを着ていた。


「あ……」


 リューがそれにやっと気付くと、職人達は一斉に、


「「「「「若、お疲れ様です!」」」」」


 と、挨拶をする。


 この大きな挨拶に教室の生徒達もびくっとするのであったが、リューは慣れたもので、


「うん、みんなお疲れ様。今日は裏方よろしくね」


 と、お願いした。


「「「「「へい!」」」」」


 職人達は元気よくそう答えるとてきぱきと作業に戻っていくのであった。


「リューのところの従業員はあれだな……、改めて見ても厳ついな」


 ランスがリューの肩に手おいてそう感想を漏らす。


「だな」


 ナジンもランスの言葉に同意する。


「……怖そうだけど、さっき荷物運び手伝ってくれたよ」


 シズが、職人達が良い人だったと庇ってくれた。


「みなさん良い人ですよ」


 いつの間にこちらに来たのか自称将来の剣聖、リューの部下であるスード・バトラーが背後に立っていた。


「急に現れるなよスード!」


 ランスがスードの登場に驚いてツッコミを入れた。


「スードの方は準備、終わったのか?」


 イバルが、普通クラスであるスードに聞き返した。


「はい。うちのクラスの出し物は、女子が中心になって企画した告白大会なので自分は自由に動けるんです」


「何それ?」


「好きな人に舞台上でみんなの前で告白して貰う、というものです。告白される側はみんなお昼に講堂に来るよういろんな理由をつけられて呼ばれていますよ。リーンさんもその一人だったと思いますけど」


 スードが言ってはいけないネタ晴らしをするのであった。


「そう言えば、先生にお昼は講堂へ来るように言われてたわ。そんな理由なら行かなくても大丈夫ね」


 リーンは驚く様子もなく答える。


「こらこら、スード君もネタ晴らしをここでしちゃ駄目だから!それにリーンも知らないフリしてそこは行って上げないと!」


 リューが慌てて他所のクラスの企画潰しを恐れて注意する。


「でも、断るから一緒じゃない?」


「断るにしてもだよ!」


「……わかったわ。じゃあ、その間はスード。あなたがリューの護衛だから離れないで一緒にいなさいよ」


 リーンはちょっと拗ねるとスードに引継ぎをお願いした。


「わ、わかりました!主の事は自分がしっかり守ります!」


 大好きなリーンにお願いされてスードは喜んで敬礼した。


「……あはは。ランスキー達もいるし、そんなに守られる様な事、学園内ではそう起きないから」


 リューは大袈裟な二人に苦笑いしながら答えるのであった。


 そこでふとリューはランスが大人しい事に気づいた。


 いつもなら、「告白大会?あとで見に行ってみようぜ!」とか言いそうなものだが……。


「……ランス君。もしかして、講堂に何か用事で呼ばれてる?」


 ぎくっ!


 ランスが、あからさまに動揺した。


「い、いや。スードの話を聞いて、ま、まさかと思っただけだぞ?朝一に他所のクラスの奴に、講堂で食べ物の出し物するから必ず来て下さいって言われてただけで……」


 なるほど……、ランス君にも春が来るかもしれないのか。


 リューはそれはそれで良い事だと思い、これ以上は茶化さない事にした。


 ランスとナジンは、自分達より二つ上の14歳。


 彼女の一人も作りたい年頃だ。


 ナジンは、幼馴染のシズがいるから、あれだろうが、ランスは女性を意識してもおかしくないだろう。


「じゃあ、お昼はリーンとランス君が一時抜けるという事で、シフトは組んでおくね」


 リューは笑顔でそう答えると王女の取り巻きである女子生徒に報告に行く。


「……リュー君は女子に対して意識がないみたいだね」


 シズが、ナジンにぼそっと声を掛ける。


「リューの傍には常にリーンがいるからな。それにリューの事が良いと思った女子もリーンのハードルが高くて告白はできないだろう」


「……それじゃあ、その逆は?」


「それは、リューが相手なら勝てるかもしれないと思うんだろうな。リューは成績優秀、騎士爵持ちの優良物件、容姿も両親に似て水準以上だが、その纏っている雰囲気が謙虚で緩く感じるから、もしかしたらつけ入る隙があるかも?と勘違いする奴がいるのさ。リーンの意志が曲がる事は無いのにな」


 ナジンはそこまで分析してシズに言う。


「……流石ナジン君。ちゃんと分析してるね!」


 シズが幼馴染を褒めた。


 そんな二人のやり取りを見て、


 個人的には君達二人の関係が一番もどかしいんだが!


 とイバルは内心ツッコミを入れるのであった。

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