第249話 学園祭の準備ですが何か?

 数日かけて行う学園祭、通称・学祭の準備はリューのイメージとは全く違っていた。


 学生同士が和気あいあいとして、一から作っていくものと思っていたのだが、ここはやはり王国一の学園で、裕福な層が沢山通う学校である。


 備品から簡易の厨房の用意まで、学園側が用意した業者が準備して設定してくれた。


「なんか想像してたのと違うんだけど?」


 リューはリーンにそうぼやいた。


「?──私も学祭って初めてだからわからないけど……、どんなのを想像していたの?」


 リーンは初めての事でイメージがわかないのか首を傾げてリューの想像していたものを聞き返した。


「自分達で道具を持ち寄って一から作り上げるような──」


「その辺りは各貴族御用達の職人を連れてきているみたいよ?うちも呼んでおいたけど?」


 リーンがそう言って振り返ると、そこにはミナトミュラー商会が誇るランスキー達職人軍団がいた。


「え!呼んだの!?」


「だって、リズが王家御用達職人に全ての食器を用意させるって言うから、それならミナトミュラー家も負けていられないじゃない!お店で出す『コーヒー』、お菓子の数々の準備はもちろん、執事とメイド服の採寸から仕立てまで出来る様に、ランスキーに準備させたわよ!」


 リーンはそう答えると胸を張る。


「若!うちの職人達の腕を、他のお貴族様達に見せつける絶好の機会ですな!」


 いつの間にかリーンの後ろには、職人達の頭であるランスキーが職人達を従えて立っており、そう言うと豪快に笑う。


 生徒達は厳つい強面の集団に怯えるのだったが、リューのところの職人と聞いてひとまず安心する。


 何しろ今や飛ぶ鳥を落とす勢いのミナトミュラー騎士爵家の職人なら腕は確かだろう。


見た目が怖いのは気になるがお抱えの職人なら無礼は働かれないだろうと思ったのだ。


「若様ー!ボクも来たよー!」


 職人達のに紛れて、そこにはメイドのアーサが立っていた。


「あれ?アーサがなんでここにいるの?」


 リューは頭に疑問符が浮かぶ。


「メイド服の採寸は女性にさせるのが一番だと思いましてな。それに、元は仕立屋でもありますから、執事のマーセナルにお願いして来て貰いました」


 ランスキーが代わりにそう答えた。


「じゃあ、早速、採寸するからメイド服を作る女の子達はボクのところに並んで!」


 アーサは、そう告げると女子生徒達を並ばせる。


 メイドがメイド服の採寸をするという変な構図であったが、アーサの採寸は女子生徒を一目見ると、メモしていくだけ、というものだった。


「測らないの?」


 リューがメイドのアーサに聞く。


「若様も変な事聞くね?一目見れば、体の採寸は簡単にできるよ?逆に何でわざわざメジャーを出して確認するのかボクにはわからないな。正確な距離、長さがわからないと人をころ──」


「ちょ、アーサ、そこまででいいよ!」


 アーサが説明の最中に危険な事を口走りそうになったのでリューは止めた。


「……なるほど、それはアーサの才能だね。じゃあ、続けて」


 そんなアーサの隠れた才能で女子の採寸はすぐに終り、今度はアーサがメイドとしての接客を指導し始めた。


「……ノリノリだね」


 リューは、生き生きとしているアーサを見て苦笑いするのであったが、貴族にメイドが接客の指導をするというのも珍しい光景なので、それはそれで楽しんで見られるのであった。


 そんな指導はリーン、シズ、そしてエリザベス王女ことリズにも及び、一緒に習い始めていた。


 リーンは苦戦し、シズは黙々とアーサの真似をし、リズはアーサの指導を一度で覚えると接客の練習の為にお客役をしてくれた生徒よりも優雅に対応して見せる。


「……これは、接客されるお客さんのプレッシャーが凄そうだな……」


 リューの言う通り、王女に接客されたお客役の生徒は、ガチガチに緊張していた。


 リズ王女の接客は意外にお客の方のハードルが高いかもしれない。


 リューは、その光景を見てそう考えると一つの提案をした。


 それは、リズ王女の接客は、30分に一度、ランダムで行う、というものだった。


 そうでないと、店内を高貴な雰囲気を醸し出して優雅に接客する王女がうろついていたらお客は、緊張で楽しむどころではなさそうだ。


 リューの意見は、王女の取り巻き連中にも好意的に受け止められた。


 どうやらみんな、同じ様な事を考えていた様だ。


 そこで、さらに提案がなされた。


「リーンさんも王女殿下と交代でやってはどう?リーンさんも王女殿下とは違った人気があるから」


 女子生徒からその意見が上がると、これも全会一致で承諾された。


 つまり、二枚看板娘を出し惜しみするスタイルだ。


 そうなったら、目的の看板娘に会えるまでうちの執事・メイド喫茶にリピートする事になるだろう。


 もちろん、回転率を上げる為、お客の滞在時間は短くする。


 そして、最大の売りは各メニューの価格だ。


 これは値段が掛かれたルーレットをお客に回して貰う事になった。


 価格の書かれたところに止まった金額を支払って貰うやり方だが、もちろん銅貨1枚(前世でいう100円くらい)から、銀貨10枚(1万円くらい)まである。


 もちろん、基本は学生の出し物だからルーレットの出目のほとんどは、安い金額が書かれている。


 なので、よほど運が悪すぎない限りは、高額な価格に当たる事はほぼない設定だ。


 だがしかし、裕福な貴族や金持ちの子息子女にはなぜか高額な出目が当たり易くなっている。


 え?イカサマだろう?


 バレなきゃイカサマじゃないんですよ?


 職人にイカサマルーレットを作らせたリューは、その出来に満足するのであった。

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