第252話 邪魔者ですが何か?
王女クラスの執事・メイド喫茶は、大盛況であった。
午前中の内に、行列が後を絶たず、それどころか王女、もしくはエルフ美女のどちらかを拝めなかったお客が再度並ぶという現象も起きていた。
さらに、ドリンクは高級なコーヒーか紅茶が選べて、人気のランドマークビルのお菓子メニューの一部が、商品として提供されているので、それを一品、セットで頂けるのだ。
もちろん、ルーレットの結果次第ではあるが運が良ければ手頃な価格で食べられるのだから人気が出ないわけがない。
この行列を苦々しく思っていたのが、隣の元エラインダークラスである。
実は、隣のクラスも王女クラスに負けじと喫茶店を出していたのだが、せっかくお茶やお菓子は貴族御用達のものを裏方に職人を呼んで提供しているのに、市場よりも強気の高額な料金設定、貴族の子息子女ならではの横柄な接客が、全てを台無しにしていた。
「なんでうちにはお客が誰も来ないんだ!貴族としての格は王家を除けばこちらも負けていないのに!」
元エラインダークラスの現在のトップであるマキダール侯爵の子息は隣のクラスの人気に歯噛みするのであった。
「……もしかして、うちのクラスの方がプレミアム感を出し過ぎたのかもしれない」
そのマキダールのクラスメイトが指摘する。
「そうか……、そうだな!隣のクラスみたいに庶民に媚びるようで嫌なのだが……、少し料金設定を下げてみるか……!銀貨30枚のコースを、銀貨25枚にしてみよう!」
そんなやり取りが、廊下で行列の整理をしていたリューの耳にも聞こえて来た。
……銀貨25枚って、庶民の感覚知らなさ過ぎるよ!
内心でツッコミを入れるリューであったが、他所のクラスの事なので何も言わないのであった。
「そろそろお昼だけど、リーンとランスは講堂に行く時間じゃない?」
リューはくすりと笑うと意味あり気にそう指摘した。
「……リュー、楽しんでるな?」
ランスが、じっとりとこちらを見返した。
「二人とも”一応”はそれぞれ別の用件で講堂に行かなくちゃならないじゃない?その間、こっちは大丈夫だから行ってきなよ」
今度はリューは、ちょっとからかう様に言う。
そう、二人は他のクラスの出し物である、告白大会に告白相手として、他の理由付けで呼び出されているのだ。
この情報はその出し物をするクラスの生徒であるスードから漏れ聞こえて来たものなので確かだろう。
「ちょっとリュー!私は本当は行きたくないんだからね?先生とかスードのクラスの出し物を台無しにしたくないから取り敢えず行くけど……」
リーンは口を尖らせると不満を漏らした。
「わかったから早く行ってきなよ!」
リューは笑うとリーンとランスを生徒達の待つ、恋愛の戦場に送り込むのであった。
リーン達が講堂に向かったのと入れ替わるようにして、王女とシズが接客に出ていた。
リューは先に食事を済ませておこうと裏に回ってランスキー達職人が用意してくれたお好み焼きもどき(ピザ)を食べる事にした。
急いで頬張っていると、表から聞き覚えがある声がしてくる。
「お久し振りですね王女殿下。あれ?僕を追い出してのうのうと騎士爵に収まったあいつがいないみたいですが?どこに行ったリュー・ランドマーク!いや、リュー・ミナトミュラー出て来いよ!」
聞き覚えがある声はリューを指名しているようだ。
リューはお好み焼きもどき(ピザ)の欠片を咥えたまま表に出る。
そこには、強面の男達を引き連れたライバ・トーリッターが立っていた。
以前は12歳らしい美少年だったが、今は眉間に皺が寄り凶暴な目つきをしたクソガキに見えた。
「出て来たなリュー・ミナトミュラー!お前、今やこの学年では1位の成績らしいじゃないか。だがな、所詮、学校の成績は一時的なもの。それに比べて僕は、すでに裏社会にも力を持つ存在だ。それがどういう意味を持つかわかるか?騎士爵ごときのお前くらい捻り潰せるという事さ!」
ライバ・トーリッターはこの日の為に、『雷蛮会』という王都の裏社会では指折りの闇組織を形成していた。
もちろん、その陰にはエラインダー公爵の後援があっての事だったが。
「……ランスキー。とりあえず、後ろの強面さんはお客様を怖がらせるから退場して貰って」
リューが、ライバの背後にそう声を掛けた。
そこには、ランスキー達職人衆がいつの間にか立っており、ライバが引き連れて来た強面の男達を羽交い絞めにして有無を言わさず締め落とし、裏へと引っ込んでいった。
「な!?そんな馬鹿な!うちの手練れ達が!?」
ライバは自分の手下達が何もできずに退場した事に愕然とした。
「……これで、お話がやり易くなりました。それで何でしたっけ?力を付けたとかなんとか……。さっきの案山子が力の象徴ですか?そんな事でいいんですか?僕の力は微々たるものですが、それでも君よりは少し上のようですよ?」
リューはライバの顔に自分の顔を近づけるとそっと小声で呟く。
そして続けた。
「こちらは学園祭を楽しんでいるので、これ以上邪魔しないで貰えますか?──1名様お帰りになります。迷惑料としてお代は銀貨10枚頂きます。ありがとうございましたー!」
リューがそう言うと、ライバは何も言えずに出口まで案内されると、銀貨10枚を支払わされて退室するのであった。
「……な、なんなのだあいつは……。あの目はただの12歳の目じゃない……。僕以上にあいつが修羅場をくぐって来たとでもいうのか……!」
ライバは呆然としたまま校舎を出ると校門に向かって、とぼとぼと歩いていく。
校門の外にはすでに自分の部下達が気を失って路上に寝転がっていた。
「早く起きろ馬鹿ども!僕に恥をかかせやがって!」
ライバは気を失っている手練れの部下達を蹴り飛ばして八つ当たりして起こすと、待たせていた馬車に乗り込むとかつての学び舎を後にするのであった。
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